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第143話 すべて世は事もなし



 お家に帰る前に厄介事が片付いてラッキー……とは流石に思わない……でもないな、うん。


 オロ神教やオロ神聖国への対応は……この半年色々考えて進めてきてはいたけど、正直上手くいくかどうかは微妙な所だったからね。


 拍子抜けした部分もあるが、イルミットがやってくれて九割方はほっとしている気がする。


 イルミットの仕事であれば、抜かりなくオロ神聖国もオロ神教も片付けてくれたことだろう。


 まぁ、オロ神聖国領が最終的にエインヘリアに組み込まれるってところは予定外だったけど……オロ神聖国をぶっ潰すとなったらその後の面倒を見るのは当然の流れか。


 しかし、そうなってくると、うちはこの大陸でも二大大国の一つと呼ばれるだけの領土を持つことになる訳だ。


 しかも、元の大陸と違って……こっちは十分に統治をおこなえるだけの下地というか、人材がいない。


 元々が宗教国家の土地だし、非常に面倒が多そうだ。


 勿論、イルミットがその辺を何も考えずに領土ゲットひゃっはーとか、そんな暢気な事を考えている訳がない。


 恐らく、先程さらっと言ったエイシャがどうのこうのってのが肝なんだろう。


 詳細は勿論確認しておく必要はあるけど、どうする?


 今か、帰ってからか……。


 間違いなくオロ神聖国への対応はうちの子達の総意というか、事前にしっかり練られた物だろう。


 いくらイルミットでも、その場の思い付きで国を潰したりはできな……できるかもしれないけど……やらない筈だ。


 となると、こちらで話を聞いても向こうで話を聞いても大きくは変わらない……というわけでもない。


 向こうで話を聞くのであれば当然キリクとイルミットの二人から話を聞くことになる。


 まぁ、聞くだけであれば問題はないのだけど、当然途中途中で質問をしたり……何か意見を求められたりすることもあるだろう。


 ……どっちがやりやすいか。


 ……うん、どっちも変わらんな。


「エイシャの件は、問題ないか?」


「はい~。私達の大陸と同じく~こちらの大陸でも~回復魔法が発展していなかったので~掴みは完璧です~」


「ふむ」


 確かにこの世界における回復魔法は、ゲーム的な傷が一瞬で治るとか病気を何でも治せるとか一発で解毒するとか……そういう便利な代物ではない。


 治癒力を高める的な……魔法を使わないよりも遥かに早く治癒が出来るけど、体力を結構消耗するし非常に痛みを伴う。


 死にかけの人に使えばそのままお亡くなりになる可能性が高く、肉体の欠損も治すことはできない……それでもこの世界の人達にとってはありがたい魔法なのだ。


 まぁ、骨折とかで一ヵ月も二か月も動けなくなったら仕事も無くなるだろうし、普通に死んじゃうのがこっちの常識だしね……痛みを我慢してでも数日で治して再び働く……生きる為にはありがたいものなのだろう。


 俺達の大陸ではあまり普及してなかったけど……こっちではオロ神教の教会に行けば少なくとも一人は治癒魔法が使える人が居るらしい。


 現世救済を謳っているだけあって高額な御布施とかは必要ないらしいけど……末端の教会は本当に信仰に厚い人達が運営している感じだし、地域の人達にも愛されていそうだ。


 それでも救える人には限りがある……そんな中、まさにゲームの魔法って感じのうちの子達の回復魔法を見たら……まぁ、目玉が飛び出る程驚いてもおかしくない。


 あぁ、信仰の対象がって……そういうことか。


「今後は~エインヘリアの名で~治療院を各地に建てるのと~エイシャ達には~怪我や病気の治療をしてもらいます~。それから~食料を回す予定です~」


 なるほど……オロ神教の基本というか、教えは現世救済。


 それを俺達の名でやって信仰の向く先を変えると……ん?


「食料?オロ神聖国は食料が不足しているのか?」


 そういった話は聞いたことが無かったけど……。


「不足している訳ではありませんが~我々の大陸に比べると~こちらの大陸の食糧事情は~あまり良いとは言えませんので~」


「ふむ。レグリア地方だけでなく、オロ神聖国領の食糧事情も引き上げると」


「自国の外とはいえ~毎年戦争をしていますからね~」


 なるほど。


 まぁ、確かに毎年半年近く戦争をしていれば食料の消費も半端ないだろう。


 三万の軍が半年、一日二食で……六万の……百八十日で……一千万食以上。


 ……うん、どんな量なのかさっぱり分からん。


 とりあえず一人で食べたら五百万日かかるってことは分かるけど……五百万日って何年だろうね。


 一万年以上なのは分かる。


 ……そんなにかかんの?


 フィオもびっくりだね。


 戦争ってお金かかるんだなぁ……。


 ってまたどうでもいいこと考えてたな……やはり、皆と合流したから心の余裕が……ってそれよりも。


「戦争と言えば、ヒエーレッソ王国の支援もせねばならん。この地は西の森より魔物が大挙として押し寄せてくる可能性が常にある。ヒエーレッソ王国はその備えとしてオロ神聖国に従属するという道を選んでいたが、今回我々の手を取ることを決めたからな……」


 援軍は送っちゃるって約束してるしね。


「畏まりました~そちらも手配いたします~」


「後は、この地の魔物にも魔力収集装置が効くのか試したい所だな」


 元の大陸では、各地に魔力収集装置を設置することで魔物が激減したからな……こちらでも同じ効果があるなら設置を勧める口実になるね。


 って……そういえば、アシェラートって魔力収集装置は大丈夫なのか?


 ……問題がないか確認しておいた方が良さそうだな。


 まぁ、魔物自体が煙のように消えてなくなる訳ではないし、うちではルミナが元気溌剌としているから害はないと思うんだけど……一応ね。


「援軍を送るのであれば~現地に魔力収集装置があると助かりますね~」


「ヒエーレッソ王国とは色々と交渉しておく必要があるな」


「そうですね~」


「オロ神聖国領には、魔力収集装置を設置するのか?」


「はい~。既に新教皇と第一位階貴族の連名で署名を頂いております~」


「そうか」


 仕事が早すぎる……。


 いや、国と宗教を潰すのに比べたら、魔力収集装置を設置する条約を結ぶくらい何でもないか……。


「となると、後は西側への対応だけだな」


「森の魔物と~山の向こうの~魔王国ですか~」


「あぁ。魔王国の情報は何かあるか?」


 西からきたイルミット達なら、何か魔王国の情報を仕入れているかもしれないと思って尋ねてみる。


「申し訳ありません~あの霊峰を発見したので~西側は完全に無視してこちらに来てしまいましたので~」


 申し訳なさそうに謝るイルミットの姿に思わず笑みを漏らしてしまう。


「くくっ……そうか、それは仕方ないな。リーンフェリアお前達はどうだ?」


「も、申し訳ありません。我々もイルミット達と同じく……」


 バツが悪そうにリーンフェリアもイルミットと同じだと言う。


 ……二人に限らず、皆が申し訳なさそうにしているけど、これはアレですな?


 満場一致で先を急いだってことだね。


「そうか。逆の立場であれば、俺もお前達と同じように脇目もふらず霊峰の先を目指しただろうし、責めることはできないな」


 肩を竦めながら俺がいうと、皆が恥ずかしげな表情を見せる。


 そんな姿を俺は薄く笑みを浮かべながら見る……レヴィアナとかレイフォンとかがこの場に居なくて良かったな。


 身内だからこそ見せられる姿が覇王やうちの子達にはあるのだ。


 他の地方の……この世界でエインヘリアに降った代官達に比べるとレヴィアナ達は関わりが深いけど、流石にうちの子達とは比べるべくもないしね。


「空から見ただけですが~山のこちら側よりも余裕がある様に見えましたね~。それと~土地は結構広かったです~」


「ふむ。何故山のこちらに攻めてくるのか……只の領土欲なのか、それとも何かしらの事情があるのかその辺りも調べたい所だな」


「外交官を入れますか~?」


 まぁ、調べるなら外交官を入れるのが一番安全確実その上早い……。


「そうだな。連中が再侵攻仕掛けてくるまで少し時間があるか。その間に調べるか……」


 イルミットの言葉に頷き、他に報告がないかを確認すると神聖国方面でいくつか報告があったけど……今の所そこまで重要度が高いものは無かった。


「よし、そろそろクーガーやカミラと合流してエインヘリアに戻るとするか。キリク達が首を長くして待っているだろうしな」


「「はっ!」」


 俺の言葉に、全員が嬉しそうな表情で頷く。


 そうか……やっと帰れるんだな。


 それを口にしたことで、ようやく実感が湧いて来た……。


 早く帰って顔を見たい相手がいくらでもいる。


 フィオやキリク達、それにバンガゴンガ、ルミナにオスカーは言うまでもなく……フィリアやエファリア達お茶会のメンバー。


 ヒューイ達おっさん連中も……久々に顔を見るのもいいだろう。


 ……うむ、なんかワクワクして来たな。


 俺はフェルズ……覇王フェルズだ。


 何の因果か突如別の大陸に召喚され、必死にその落とし前を自力でつけようとしていたら、合流した内務大臣が三日で全部にケリをつけたと報告を受けてしまった覇王だ。



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― 新着の感想 ―
話がこちらの大陸になってから狂化の話題が全然出てこなかったことに今更気がついた。 魔王から遠距離だから魔王の魔力もなかなか届かないとか?
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