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第142話 翻弄される聖地と覇王



「……ほう」


 なんか……報告が、思ってたんと違うんやけど……。


 とりあえず、普段通りのしたり顔で頷いておく。


 がんばれ!


 覇王の表情筋!


「まずは~政教分離から始めますが~既に新教皇であるドルトロス殿からこの件に関しては公布しております~。とはいえ~いきなり貴族達に統治の全て任せる事も出来ませんし~当面は~還俗した者を使う事になるかと~」


「あの国の貴族はそういった事から離されていたからな。致し方あるまい」


 今の俺くらい置いてきぼりをされていたはずだ。


 ……ちゅらい。


「今後~半年から一年を目途に~オロ神聖国領はエインヘリアに組み込まれます~」


「……そうか」


 ……変だな。


 戦争で捕まえた捕虜の対応を任せたら、敵対国が掌握されてたんじゃが……。


 しかも、俺が半年以上かけて考え、準備して来た仕掛けを……更に発展させたような感じになっているみたいなんだけど……。


 俺の予定ではオロ神聖国は独立独歩……オロ神聖国領、要らんのじゃが……。


「オロ神教は基本的な教えを残しながらもその形態を変えていきます~。差し当たっては~オロ神などというありもしない神の名を信仰するところから改めます~」


 ……それ一番大事な所じゃない?


 そこ変えちゃったらもうオロ神教ちゃうやん。


「オロ神教~並びにオロ神聖国という名称は~この世界の何処にも残しません~」


 にっこりと微笑みながらイルミットが言うが……彼女がそう言うのであれば、それは間違いなく成されるだろう。


 うん……そういうことね……。


 イルミットに限らず、うちの子達はオロ神教の連中を赦していない。


 俺の考え……可能な限り兵や民を殺さずにエインヘリアの傘下に加えるという考えと、オロ神教ならびオロ神聖国絶対許さんぶっ潰す……その想いを両立させた結果という事だろう。


 ……ま、まぁ、信徒殲滅エンドよりは遥かに穏便かな?


「オロ神教の当面の代表は~新教皇であるドルトロス殿が~。オロ神聖国の代表は~第一位階貴族の~ハイゼル家の当主が就任します~」


「ふむ。ハイゼル家の当主は前教皇の親族だったはずだが……?」


 俺がそう言うと、イルミットはにっこりと微笑む。


 ……これはあれか?


 生贄というか、不満を集めさせようとしてる?


「それなりに有能であることは分かっていますが~多少有能程度では~存在意義を認められません~」


 こわっ!


 そう感じたのは俺だけじゃないだろう。


 イルミットの言葉に……ドルトロス大司教……いや、教皇ドルトロスが僅かに表情を硬くする。


 ……ドルトロス氏も同じ状況だもんね。


 その状況でも逃げ出したり反抗したりしないという事は……よっぽどの物を見せられたのか、反抗しても無駄だと思っているのか……。


 何にしても、イルミットが対応している以上……隙はまずないだろうね。


 しかしなんだな……一度うちに帰ってから、今後のオロ神教への対応を決めるつもりだったのに、帰る前に全部終わってしまったようだ。


 ……そういえば、信仰の対象がエイシャになったとか言ってたけど、それも……聞かないと……ダメかなぁ。






View of ドルトロス オロ神教元大司教 新教皇






 内務大臣イルミット様。


 外務大臣ウルル様。


 宮廷魔導士カミラ様。


 そして大司教エイシャ様。


 エインヘリア王陛下一人だけでも手が付けられない存在だというのに、同等の存在が次から次へと現れる……これがエインヘリアか。


 あの日……エインヘリア王陛下がオロ神教との戦争に向かった日、城にエインヘリア本国から飛行船がやってきた。


 飛行船の話は以前よりエインヘリア王陛下から聞いていたし、私が今後何を求められているかも聞いていたのですぐにイルミット様の指示に従い飛行船に乗り込んだ。


 その船の上で聞いたイルミット様の言葉は……私だけではなく、オロ神教に関わった者達全てがその魂にまで刻み込んでおくべき内容だった。


「フェルズ様は~その身に降りかかった召喚という悪意に満ちた暴挙を赦されました~。しかし同時に~臣下である我々に~召喚を画策した者達を赦せとはおっしゃられませんでした~。これがどういうことか~分かりますか~?」


 間延びした口調とは裏腹に、有無を言わせぬ圧倒的な気配を……内務大臣という立場に似つかわしくない威圧感を纏わせながら微笑むイルミット様に、私は声をかすれさせながら答える。


「……我々を赦すつもりはない。そう言う事でしょうか?」


「ふふふ~違いますよ~。我がエインヘリアには~フェルズ様への絶対的な忠誠を誓う者が~数多くいます~。かく言う私もその一人ですが~フェルズ様は~私達の意思を尊重するとおっしゃられているのです~」


 そう語るイルミット様の表情は……威圧感の一切を消し、恍惚としているように見えた……一瞬後には元に戻っていたが。


「これから~あなたたちには多くの苦難が降りかかります~それらを無事乗り越える事が出来たなら~私達も~貴方達を赦しましょう~。勿論~どこぞの神と違って~あやふやなことは言いません~。一年後には~民意によって~オロ神聖国領は~エインヘリアに組み込まれます~。その時まで~しっかり徳を積んで下さい~さすれば~事後も生きていられるでしょう~」


 死刑宣告のようなものを受けながらも、その時私は逃げ出そうと考える事さえ出来なかった。


 いや、寧ろ逃げる事は己の寿命を縮めるだけの愚行でしかないだろう。


「あぁ~安心してください~。私達はけっして~貴方がたを暗殺したり~殺すように仕向けたり~扇動したりはしませんので~」


「……承知いたしました。全力で、罪を償わせて頂きたく存じます」


「がんばってくださいね~出来る人は嫌いではないですよ~?」


 そう言うイルミット様の笑顔は、酷薄なものにも……慈愛に満ちたものにも見えた。


 その後、エイシャ様と合流した我々は聖地に向かい……神の奇跡と呼ぶにふさわしい出来事を目の当たりにすることとなった。


 あっという間に教皇を始めとしたオロ神教上層部を捕縛……縄を打って信徒たちの前に並べてみせたのだ。


 当然ながら……信徒たちは怒り狂い、教皇たちを奪還しようと聖地の中央広場に設置されている演説用の壇に押し寄せたのだが……壇上の中央にエイシャ様が進み出て、エインヘリアという国の事、教皇たちがエインヘリアに対して何をしたかを語っていく。


 無論信徒たちがそれを大人しく受け入れる筈もなく、広場はいつ暴発するとも知れない怒りに支配され……次の瞬間、聖地の中心である大聖堂が強い光に包まれる。


 怒りに染まっていた信徒たちはその光景に目を奪われ……誰もが注目する中、大聖堂は音もなく地上から姿を消した。


 信徒たちが自失する中……更に畳み掛けるように、エイシャ様が教皇たちの行いをつまびらかにしていく。


 無論、聖地にいるような……敬虔な信徒たちがそんなものを信じる筈がない。


 しかし、エイシャ様が聖堂を包み込み……そして消し飛ばした光が神の意思によるものだと宣言すると、信徒たちに動揺が見え始めた。


 更に畳み掛けるように、エイシャ様が手に持っていた華美な杖を天に掲げると、広場を柔らかい光が包み込んだ。


 先程聖堂が光の中に消滅する様を見ていた信徒たちが一瞬恐慌状態に陥ったように見えたが、やがて広場のそこかしこから怪我が治った、痛みが消えたという声が聞こえてくるようになった。


 あり得ない程の広範囲に、凄まじい効果の治癒魔法を行使したのだ。


 我々オロ神教にも、治癒魔法の使い手は少なからずいる。


 いや、各地の教会に最低でも一人は治癒魔法の使い手を配置して、現世救済の一環としているのだが……その効果はあくまで一人を対象に自然治癒力を高めるといったもので、一瞬で怪我が治るといったような……ましてや欠損した腕や足が生えてくるなどというものではない。


 それをいともたやすく行使してしまうエイシャ様……その幼き容姿も相まって、信徒たちが神性を感じてしまうのも無理はないと言えた。


 そのお膳立てを終えてから……私が壇上に呼ばれ……改めて教皇たちの行いを告発したのだ。


 死んだと、エインヘリアに殺されたと発表された私が生きていて……更にその殺害の指示を出したのが教皇であることを聞かされた信徒たちの心は大きく揺れた。


 しかも死にかけた私を助けたのはエインヘリア。


 いくら死にかけていたとはいえ、無体をした国の宗教の代表に近しい者を神の奇跡に近しい御業で助ける別大陸の王。


 一方、元々暗い噂を身に纏った……そこに関しては事実であるが……縄を打たれた教皇。


 それを語る私の立場も伴い、敬虔な……善良な信徒たちは揺れに揺れた。


 もう一度、信仰の在りかを見つめ直して欲しい。


 そう信徒たちに告げたエイシャ様は壇上から退き、残された私は信徒たちの前で暫定的に教皇に就任する、更にエインヘリアへの正式な謝罪および国交の樹立を宣言したのだった。




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― 新着の感想 ―
エイシャが信仰対象になったってことは……これ覇王さまの隣も狙ってない??
ドルトロスさん、事後に至る前に、胃に穴があいてしまいそう。ストレス凄いだろうし。まあ死なせては貰えないんでしょうし、やれることをやるしかないわけですが
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