第141話 ほな、かえろか
リーンフェリア達と合流してから三日。
特に問題らしい問題もなく、俺は比較的穏やかな日々を過ごせていた。
勿論、ダラダラと過ごしていた訳ではない。
レグリア地方は治安も財政状況も最悪といって良い状況。
それをエインヘリアブランドに相応しいものに改造……もとい、改善する為に、キリクと色々と打ち合わせをしたり、エインヘリア本国の人材や資源を使えるようになったのでレイフォン達と色々と打ち合わせをしたり、リーンフェリアやフィオからエインヘリアの現状について色々聞いたり……中々頭をフル回転させる日々だった。
忙しかったのは俺だけではなく、レヴィアナやレイフォン達もリーンフェリア達と俺抜きで話し合いをしたり、アシェラートもオトノハ達と交流を深めたりと皆も色々と動き回っている様だった。
まぁ、本格的にレヴィアナ達が忙しくなるのは魔力収集装置が稼働を始めてからだ。
レヴィアナ達はイルミットと内政関係で。
ランカークや辺境守護はアランドールと治安維持関係で。
後は、諜報部と『スルラの影』はウルルと交代でこちらにやってきたクーガーが面倒を見ている。
まぁ、彼等の本格的な訓練は本国の方に行ってかららしいので、現状の引継ぎって感じらしいけどね。
そんな風に各々忙しい日々を過ごしていた訳だけど……今日は遂に魔力収集装置が稼働する日だ。
これでエインヘリアに帰れる……いや、ここも一応エインヘリアだけどね。
オトノハ達の話では既に試運転は終えており、いつでも本格始動させて……転移が使えるようになるそうだ。
すぐにでも帰っていいんだけど、もうすぐイルミット達がここに来るのでどうせなら一緒に帰ろうと待っている状態……先程飛行船が街の外にやってきたので、後はイルミットとウルルから簡単に報告を受けるだけってところだ。
捕虜に関しての引継ぎは『スルラの影』に任せているから問題ないし、魔力収集装置が動き出せば、向こうから外交官見習いと治安維持部隊がやってくるので人手不足が一気に解消される予定。
いやぁ、ほんと魔力収集装置様様だよね。
家に帰るのも、人員を送り込むのも一瞬。
設置が大変だけど……取り急ぎ、辺境守護領とヒエーレッソ王国、ランティクス帝国、オロ神聖国それぞれの国境付近に設置する必要があるね。
まぁ、その辺りはキリク達が計画を立ててオトノハが調整してくれるから問題はない。
今後は……そうだな、ヒエーレッソ王国とランティクス帝国との折衝を進めつつ、オロ神教を潰して改革を進めるって感じだ。
それと、来年の魔王国軍の侵攻だな。
今年はレグリア地方までやってこなかったけど、来年も同じとは限らん。
いや、森の中で色々ごちゃごちゃとやっていたようだし、こちらにも何らかのアクションがあると見た方がよいだろう。
それに、ランティクス帝国方面はともかく、ヒエーレッソ王国へは援軍を出す契約だし……知らんぷりは出来ない。
恐らくランティクス帝国の方も色々鬱憤が溜まっているだろうし、その辺りも協議が必要だな。
立地的に後方にあるオロ神聖国とかその他の小国は、しっかりと後方支援に力を入れて貰いたい所だ。
オロ神聖国は俺達の支配下に置くことになるわけだし、魔力収集装置を設置や飛行船の発着場も建てられる。
食料関係は向こうの大陸からいくらでも持って来られるけど……地産地消は健全な経済活動の第一歩……いや、大陸一つは地産地消と呼ぶには範囲が広すぎるか?
それはそれとして、この大陸は延々と続く魔物と魔王国との戦いで疲弊しきっている。
大国であるランティクス帝国やオロ神聖国を見ても、向こうの大陸と比べて決して裕福とは言えない。
戦争で儲かるのは物資が潤沢にある最初だけ……生産力が落ちれば物資はすぐに足りなくなる……まだ大量生産の時代じゃないし、物資の枯渇なんてあっという間だろう。
そんな事を考えていると会議室にイルミット、ウルル、エイシャ……それとドルトロス大司教がやってきた。
あれ?
カミラはどうした?
「フェルズ様~お久しぶりです~」
その疑問を口に出すより早く、先頭で部屋に入ってきたイルミットが非常に上機嫌な様子で挨拶をしてきた。
「あぁ、イルミット、久しいな。早速色々手を回してくれたようで助かったぞ」
「いえ~フェルズ様が全て整えてくれていたので~私は何も~」
ニコニコしながら言うイルミットに小さく笑いかける。
「ウルルも、長い間孤軍奮闘させて悪かったな。帰ったら暫く休暇でもどうだ?」
「……要らない……です……」
どうだ?ではなく、休めって言うべきだったか?
うちの子達に休暇を取らせるのって本当に難易度が高い……。
ご褒美も……なんかこう、それほんとにご褒美になる?ってのリクエストが多いんだよな。
何か欲しいとか、どこかに行きたいとか、こういうことしたいとかってあんまりない……いや、俺絡みでどこか行きたいとか何かしたいとかはあるんだけど……。
……なんでも叶えてやるっていつも言ってるから、俺絡みじゃないと駄目とか思ってる?
いや、そういえば魔眼が欲しいって言った奴もいたか……。
……まぁ、あまり深く考えないでおこう。
「エイシャも、戦場から即移動ですまなかった」
「いえ、何も問題ありません。神《フェルズ様》のお役に立てること……これに勝る喜びはありません」
幼女をこき使っているのは中々心苦しいんだけど……今回はイルミットから指名だったからなぁ。
「皆にも休みをやりたいが、レグリア地方の立て直しにはそれなりに時間がかかる。引き続き皆の力を貸して欲しい」
「勿論ですわ~」
イルミットが俺の言葉に代表して応じ、ウルルとエイシャだけでなく、リーンフェリア達も頷く。
「ところでカミラはどうした?」
「カミラは飛行船に残ってます~。フェルズ様を捜索するにあたり~飛行船を最大限活用してここまでやってきたのですが~道中飛行船が狙われることもありましたので~一人は護衛に残るようにしているんです~」
「ほう……ん?」
飛行船の護衛に一人残る……?
はて……?
俺がリーンフェリアの方に視線を向けると、リーンフェリアが気まずげに視線を逸らした。
戦場で……思いっきりみんな外に出てたよね?
こっちに帰って来てからも……いや、この場に居ないクーガーが飛行船の護衛についていたのか?
「ふふふ~リーンフェリア達を責めないであげてください~。フェルズ様の御身以上に守らなければならないものは~この世界に存在しませんので~」
もっと守るべきものはこの世界にあると思うよ?
とは思うけど、皆が過保護になるのも致し方なし……今回は召喚されても合流出来たけど、次また何かあったとして今度も無事に済むとは限らないしね。
「まぁ、召喚兵に守らせていたようだし、責めたりはしないが……」
「フェルズ様にそれを伝えたら~飛行船の守りを優先しろとおっしゃったでしょう~?」
「……そうだな」
確かにその話を聞いていたら、イルミットの言う通り俺はそう言っただろうな。
「それで、カミラが飛行船の護衛に残ったと……」
「物凄く拗ねていたので~後でかまってあげてください~」
「無論労うつもりだが……俺達が向こうに戻る間、飛行船は『スルラの影』に任せるか?」
俺がウルルの方を見ながら尋ねると、ウルルはコクリと頷く。
ウルルがおっけーを出すなら問題は無いだろう。
「出来れば全員で帰りたいからな。シュヴァルツ達のチームは昨日の時点でエインヘリアに戻ったようだし、後は俺達が帰るだけだが……イルミット帰る前に報告しておくことはあるか?」
捕虜の件……特に第一位階貴族のハイゼルとかは今後どう扱うかが肝になってくる。
それにこっちで捕まえた聖騎士達もどうするか……。
「はい~オロ神教ですが~教皇コルネイ以下主だった者達を捕縛しました~。その後~教皇をそちらのドルトロス元大司教に代え~信仰の対象をエイシャに代えました~。今後一年以内にはオロ神教は別の名に変わり~オロ神聖国も近々国名改称となります~」
……うん?




