第133話 初心忘るべからず
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでぇ?
俺は混乱する頭で『鷹の声』を起動しようとして……なんか光の玉が飛んで来てたのを思い出して覇王剣ですぱっと消し飛ばす。
それと同時に魔法聖騎士が崩れ落ちるのが見えたけど、アレは多分魔力切れだかなんだかいうやつなんで大丈夫だろう。
それより筆頭がいよいよ死にそうな感じだな。
『鷹の声』の起動を一旦やめて、俺はポーチに入れていた下級ポーションを取り出し筆頭にぶっかける。
とりあえずこっちはもうこれでおっけー、それよりも早く『鷹の声』を……。
「っらあああああぁっぁ!!」
大音声で巨大な斧を叩きつけてくる斧聖騎士……ほんと今、それどころじゃないんじゃが?
身勝手な理由ではあるが、ちょっとイラっとした俺はほんのすこーしだけ力を込めて回し蹴りを放ち……斧聖騎士の持っていた斧を蹴り飛ばす。
って……やっべ。
蹴り飛ばした斧は砕けこそしなかったけど、変形しながら遥か彼方まで吹っ飛んで行った。
……あっちの方に観覧席があった気がするけど……だ、大丈夫だよな?
いくらなんでもピンポイントで直撃したりしないよね?
いかん!
なんか慌て過ぎて色々と粗が目立つ!
落ち着け!
久々にアレだ!
素数を数えるのだ!
今の俺はあの頃の俺とは違う!
何故ならフィオに1は素数に入らないって教えてもらったから……フィオ!?
そうだ!
フィオに連絡を……!
すぐにアビリティを起動しようとして……。
「っ!!」
今度は槍英雄に喉を狙われてアビリティの発動を止める。
いや、いい加減にしろよ……二度も同じパターンとか……そう思っていると、斧英雄が腰に佩いていた剣を抜きながらこちらに向かってきた。
……まぁ、戦いながら『鷹の声』とかを起動することはできるけど、集中して話すことができる状態とは言い難い。
そんな事を考えている間にも攻撃は続いているが、そんな事よりもぐんぐんと一直線にこちらに向かって来ている飛行船が気になって仕方ない。
おちつけ……おちちゅくんだはおー。
キリク達が俺を探して飛行船を使っている事は当然知っていたし、その進捗もずっと聞いていた。
しかしここ一週間程、こちらの戦争準備が忙しくフィオへの連絡は簡単な挨拶程度……キリク達に至っては連絡自体が出来ていなかった。
一応、戦争の準備で忙しくなるとは伝えていたし、フィオに連絡している事自体は伝えて貰っているから心配はしていない筈だ。
……いや、そうじゃない。
今問題なのは……こっちに向かって全速力で飛んできている飛行船だ。
そもそもだ。
……フィオやキリクに『鷹の声』を繋げたとして、何を聞く?
なんか飛行船飛んで来てるんだけど、アレってうちの?
アホか。
いや、フィオなら笑って頷きそうだけど……キリクにそれを聞いて肯定されたとして、その後になんていえばいいのか皆目見当もつかない。
……フィオだな。
フィオに相談……って、だから聖騎士達がうざい!
筆頭は腕こそ生えていないけど、ポーションの効果に目を丸くして動きが止まっているが、他の二人は火がついたように苛烈に攻め立ててくる。
ちょっとぶっ飛ばして時間を稼ぐか?
俺の周りで攻撃を続ける二人の聖騎士にイライラが募る……って、プレアが気付いたな。
一瞬後ろを振り返り……うわぁ、いつも真面目な表情で佇んでいるプレアが、年相応のキラキラした笑顔をこちらに向ける。
うんうん、よかったねぇ、覇王はげぼ吐きそうだよ。
うむ……ぐんぐん近づいてくる……やべぇ、全然考えが纏まらない。
……うん、ダメだ、諦めよう。
キリク達が到着する前に何とかオロ神聖国およびオロ神教に落とし前をつけておくつもりだったけど、今からどんなに頑張っても聖騎士四人とあそこにいる神聖国軍を消し飛ばすくらいしか出来ない。
あと、なんか気のせいかもしれないけど……俺の知ってる飛行船の速度よりかなり速度が速い気がする……いや、俺が飛んでるのに気づくのが遅かっただけかもしれないけど。
少なくとも俺がアシェラートに運んで貰っている時は飛行船の影も形も……見えなかったと思う。
自信はないけど……いや、アホみたいに高い霊峰があるからな。
恐らく俺達が飛んでいた時は、山の向こうを飛んでいたのだろう……多分。
もしくは雲の中とか……まぁ、何にしても、あの飛行船はこの戦場を目指して飛んできているわけで……完全にこちらに気付いているだろう、
あとどのくらいでここに来る?
多分三十分はかからないと思う……その間に聖騎士を制圧するのは楽勝だけど、その後は……どう考えても三十分じゃ無理だ。
俺の予定では魅せプレイを十分程やって、徹底的に相手の心を折ってからそのまま敵軍の総大将……第一位階貴族ってのと今後についての話をしたかったんだよね。
オロ神聖国とオロ神教……どちらも教皇がトップとして差配しているのでほぼ同じものだけど、片方は国で片方は宗教だ。
聖職者と貴族……そのパワーバランスは完全に片方に傾いてしまっているけど、だからといって貴族連中に権力欲が無いというわけではない。
いや、権力欲が無かったとしても、親も自らもそして子も……生贄としてだけの生で納得できる奴はいないだろう。
ひっくり返す手があるのであれば、確実に現状をひっくり返そうとする筈だ。
第一位階貴族は教皇の親戚ということで、立ち位置としては非常に安定しているのだが、それでいてそれを笠に着て権威を振るうタイプではないらしい。
しかし……教皇を始めとしたオロ神教の上層部に権力が集中している現状を、快くは思っていないそうだ。
まぁ、教皇に非常に従順で、周りの誰にもそれを悟らせていないらしいけど……何でウルルはそれを悟れるのかしら?
……うちの外務大臣の事はさて置き、俺の最終的な狙いとしては、神聖国には貴族連中によるクーデターを起こさせ、それと同時にドルトロス大司教を使い、オロ神教の上層部の入れ替えを画策していたんだけど……どうしよう。
今から三十分でそれ……纏められる?
いや、絶対無理。
これを三十分で纏められるとしたら2〇の主人公くらいでしょ……。
今は俺や聖騎士連中が注目されているから、神聖国の連中も空の方まで気が回っていないだろうけど、飛行船の事に気付くのも時間の問題だ。
そうなった時……まぁ、間違いなく混乱が起きて、俺との話どころの騒ぎじゃなくなるはずだ。
飛行船のインパクトの強さは、向こうの大陸で十分過ぎる程証明されているからね。
……うん、こうなったらもう仕方ない。
元々、覇王という生き物はその場のノリで生きてきたわけで……キリク達の手助けが無い状態だったからこそない頭……いや、知略85をフル回転させて色々考えたけど、こうして合流が見えてしまった以上、もう考えなくても良くない?
後はもうなるようになるだろうし、なるようにしかならん。
勿論、うちの子達が大量虐殺とかしないように言い含めたりはするけど……後は野となれ山となれ。
そんな事を考えていると、どんどん船影がデカくなってくる……因みにその間も聖騎士二名による攻撃は続いているけど、筆頭は体力が回復したことを驚いたまま動かず……あ、飛行船に気付いたな。
筆頭が驚愕に目を見開いている。
俺はそのタイミングで槍聖騎士と斧聖騎士を弾き飛ばし、少し距離を空ける。
「くっそ……化け物め」
「このままでは続けても厳しいな……ギラン殿?」
斧聖騎士は悪態をついているけど、槍聖騎士が筆頭の様子がおかしい事に気付いたようだ。
「あれは……なんでしょう?」
ポーションをぶっかけて以降、目がバッキバキの状態から元に戻っていた筆頭が、目を細め飛行船を見ながら言う。
「あれ?……な!?船が!?」
斧聖騎士が筆頭の視線を追いかけて叫ぶ。
ぐんぐん近づいてくる飛行船は……うん、これはもう二十分もかからんわ。
おかしいな……あんなに速かったっけ?
空中で他に比較するものがないからよく分からんけど……なんかもう十分もかからないんじゃないかな?
このまま聖騎士相手に魅せプレイしててもいいけど、このまま避け続けるのは……繰り返しになるしお客さんも飽きてしまうだろう。
仕方ない。
予定はすべてキャンセル……ここから先は本来の……アドリブ覇王だ!
「くくっ……アレは迎えだ」
「……それはつまり……」
「海の向こうから、この大陸に召喚された俺を迎えに来た……我が国の飛行船だ」
俺が普段通りの笑みを浮かべながら言うと、筆頭を除く二人が驚愕の表情を浮かべる。
って宣言したけど、うちの飛行船じゃなかったら大恥だな。
こっちに向かって直進してきているし、下から見上げているので旗とかが良く見えないんだよね。
「あの速度だ。ここまで来るのにそう時間はかからん。流石に誰が乗っているかまでは把握していないが、俺の信頼する部下が乗っているのは間違いない。貴様等にも紹介してやろう……因みに、誰が乗っていたとしても戦闘能力で言えば俺と同等かそれ以上なのは間違いないだろうな」
メイドの子達や開発部の子達が満載されていない限りは……だけどね。
「ば……馬鹿な……」
「俺の言葉を信じようと信じまいと、答え合わせはすぐに行われる。貴様等が侮ったエインヘリアがどういった存在か……それを思い知る時が来たという訳だ」
俺一人相手に手も足も出ない状態だったのに、この上敵が増える……しかも同等の力を持った相手が増えると言われたら……まぁ、こんな感じの顔になるよね。
筆頭以外の二人は顔に絶望を張りつけているし、筆頭は苦々しい表情だ。
俺を人質にすれば、逆転の目もあるだろうけど……そもそも人質に手も足も出ない状態だからな。
完全に動きを止めた聖騎士達……その異変に気付いたのか、それとも飛来してくる飛行船に気付いたのか、オロ神聖国軍が騒がしくなってきた。
そして……動きがないまま時間が過ぎ、俺達の上空に飛行船がとうとうやって来てしまった。
……結局『鷹の声』を使えなかったな。
まぁ、聖騎士達が動きを止めたとはいえ、アレは俺も普通に喋らないといけないし……コイツ等の前でフィオと話をするのは覇王的に無しだな。
その事に小さくため息をつくと同時に、上空から何かが降って来てものすごい勢いで地面に衝突した。