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第128話 降り立つ覇王



 今頃敵さんは大パニック中だろうな。


 アシェラートの背に乗った俺は、眼下の平原に布陣するオロ神聖国の連中を見ながらそんなことを考える。


 もし聖騎士がアシェラートに攻撃を仕掛けて来たら全力で防ぐつもりだったけど……その様子はないね。


 まぁ、うちの弓聖や宮廷魔導士みたいな即死級の遠距離攻撃手段がない事はウルルの調べで分かっているけどね。


 下にいる四人の聖騎士は、近接戦闘タイプが三人、魔法戦闘タイプが一人。


 魔法が得意な奴はここまで攻撃が届きそうなもんだけど、そこまでの長距離射撃は無理らしい。


 フィリアの所のリズバーンだったらこのくらいの距離からでもなんかしてきそうだけど……まぁ、彼は『至天』のトップだからな。


 スラージアン帝国の六千万の……内政に力を入れて国力を高め、戸籍までばっちり作り上げた超大国のトップ。


 流石に信仰という力で大陸全土に信徒がいようとも、臣民一人一人の情報を集め優秀な人材をガンガン登用しているスラージアン帝国とじゃぁ、規模が違い過ぎる。


 まぁ、エインヘリアではそれに合わせて教育関係にも力を入れているからね。


 スラージアン帝国には負けんよ……。


 って、今フィリアんとこは関係ないな。


 俺は別の大陸まで飛んで行った思考を元に戻す。


「すまないな、アシェラート。わざわざ送ってもらって」


「気にするな。エインヘリアの戦争を見せてくれるのだろう?その礼とでも思ってくれ」


「くくっ……そうか。ならば、楽しんでもらえるように気合を入れるとしよう。連中には気の毒だがな」


 まぁ、やる事は変わらないけどね。


「ふふっ……降りるのはこの辺りで良いのか?」


「あぁ。近づきすぎたら攻撃を仕掛けて来るだろうしな。この辺りで降りて、歩いて近づいてやるとしよう」


 アシェラートの姿は刺激的だからね……敵兵が恐慌状態になったら厄介だ。


 こちらの事はこれ以上ないくらいに畏れて貰って良いけど、理性は残してもらいたい。


 理性的に……絶望して頂きたいと思う。


「ならばここで降りるとしよう」


「頼む」


 微妙に機嫌のよいアシェラートがゆっくりと高度を下げていく。


 段々と地面が近づいてくる中、敵軍から四人の人物が進み出て来るのが見えた。


 四人ってことは、アレが聖騎士か。


 ちょっと距離はあるけど覇王アイにはその人相が……大体分かる。


 穏やかな笑みを浮かべている爺さんが筆頭聖騎士って奴だな。


 後は……多分聖騎士二号、三号、四号だな。


 持ってる武器は……槍槍斧。


 うん、槍のどちらかが多分魔法使いタイプだろう。


 魔法使いの武器っぽくないなと思ったけど、そういえばこの世界の魔法使いは杖って使わないよね。


 リズバーンもそうだったし、他の『至天』も使っていなかったと思う。


 うちの魔法兵はカミラを筆頭に杖を装備するんだけど……魔法の威力とか射程とかを強化する効果がある。


 まぁ、ゲーム的な魔法の杖って感じだけど、この世界の魔法にも効果があれば……いや、面白くはないか。


 俺がこの世界の魔法に求めているのは火力じゃなくて利便性というか、生活を豊かにする方向性だ。


 折角の魔法なのに攻撃魔法ばかりなのは勿体なさすぎる……って魔法使いを見るたびに同じこと考えている気がするな。


 とりあえず、今はそんなことを考えている場合じゃないよな。


 筆頭以外の三人は、何か今にも襲いかかって来そうな雰囲気だし……いや、ウルルの調べでは筆頭が一番やべー奴って話だったか。


 他の三人は良くも悪くも普通の英雄って感じだけど、筆頭だけは信仰に殉じるって感じの人らしい……オロ神教の中枢にいるにしては、信仰心があり過ぎるとのことだけど……。


 普通宗教の中枢って皆信心深いもんじゃないの?とか思ったけど、オロ神教に関しては中枢に行けば行くほど信仰から遠ざかるらしい。


 ちょっとね、クルーエルのとこを見習ってほしいよね?


 あそこは本当に信心深い人たちの巣窟よ?


 まぁ、密偵が入り込んだり裏切ったりする人もいたけど……それはそれだ。


「蔦を伸ばすか?」


「いや、飛び降りる。こちらに攻撃を通させるつもりはないが、一応注意はしておいてくれ」


「ははっ、了解した」


 何が面白かったのか、アシェラートが笑いながら答える。


「何か面白かったか?」


「いや、心配されるというのが新鮮でな。嬉しくて思わず笑ってしまったよ。気に障ったなら謝るが……」


「純粋に気になっただけだ、気にしないでくれ。では、いってくる」


 俺は笑ってみせるが……背中に乗ってる俺が笑顔になってもアシェラートには見えないよな?


 ふとそんなことを思ったけど、まぁ、いまさらだな。


 若干バツの悪い気分を味わいながら俺はアシェラートの背中から飛び降りる。


 さて、気持ちを切り替えるか。


 ここに至るまで半年以上かかったが、ようやくすべての準備が整った。


 ここからはエインヘリアの王の……覇王フェルズの力を見せつけるターンだ。


 まぁ、ここまでの準備に比べればここから先は完成したレールの上を突っ走るだけ。


 宗教相手ということでかなり面倒な回り道はしたけど、その甲斐あって俺にしてはまぁまぁ良い感じにケリをつけることが出来る筈……だよね?


 ……いや、半々かなぁ?


 所詮俺は俺だからな、キリクやイルミットのように完璧な結果を計画段階の時点でも用意できるはずもない。


 ただ、ウルルの力を全力で振舞って貰えば、そう酷い結果にはならないと思う。


 まぁ、最悪キリク達が合流してから後処理をお願いするという最終奥義が残っているからね。


 オロ神聖国の人達も混乱はあるだろうけど、キリク達さえ到着すれば後は良きように立て直してくれるだろう。


「プレア、お前もここまでだ。アシェラートの傍で警戒しておけ……流石にお前では英雄の相手はまだ荷が重いからな」


「畏まりました、フェルズ様。御武運を」


 俺と一緒にアシェラートの背中から飛び降りたプレアに告げると、深々と頭を下げながらそう口にしたプレア。


 最初からプレアが着いてくるのはここまでと話はしてあったから、特に反対はされなかったけど……最初にこの話をした時のプレアは……控えめながらもめっちゃ不機嫌というか、不満とか心配とか焦燥とか……そういった感情の嵐だったよね。


 勿論それで騒いだり何だったりみたいなことは無く、いつも通りの完璧メイドさんではあったけど、流石に半年以上も傍に控えてくれているからそのくらいの感情の変化は俺にだってわかる。


 申し訳なさはあったけど、でも流石に四人の聖騎士相手だと何があるか分からないしね。


 問答無用で叩き潰すならともかく、力の差を見せつけるように……周りに知らしめるように戦わないといけないから、圧倒的火力でどかんってやり方じゃ意味がないのだ。


 だからプレアの安全の為にも少し離れた位置での待機となったし、納得もしてもらった。


 聖騎士連中は既に俺のことに気付いているようで、少し離れた位置で立ち止まっている。


 後は俺が向こうに近づき和やかに会話した後に……そのままぶっ飛ばすか仕切り直すか……その辺りは流れに任せよう。


 因みに今回、ワラソードは持って来ていない。


 何故なら……観覧者もいる事だし、ワラソードはちょっと見栄えが良くないからだ。


 ……鍛冶職人とかに見栄えの良いワラソードを作ってもらうべきだったか?


 ワラソードII、ワラソード・改……真・ワラソード。


 いや、寧ろワラソード(笑)かな。


 開発しておくべきだったか……覇王剣なんか使ったら、分からせるどころか終わらせることしか出来ないしな。


 手加減はかなり出来るようになったけど、俺の上がった技量を越えて来るのが覇王剣。


 斬れているのに斬れていないというとんちのような現実を生み出すレベルから、斬ればちゃんと斬れている状態にするくらいにはできるようになったけど、斬るつもりはないのに斬れている状態にもなってしまう。


 触れたものを全て傷つける思春期のような剣……もう少し丸くなって欲しい。


 鉄の剣くらいだったら、英雄相手にそこそこの重傷くらいで済ませられるんだけど……相手をしてくれたエリアス君には悪い事をしたと思う。

 

 そんな事を考えながら歩みを進めていると、聖騎士達との距離がいい感じになっていたので俺は立ち止まる。


 向こうは警戒こそしているようだけど、いきなり襲いかかってくるようなことはなさそうだね。


 そんな聖騎士の中でも一番のお年寄り……筆頭聖騎士が一歩前に出て柔和な笑みを浮かべる。


 まずは軽いトークからといったところだろう。


 さぁ、蹂躙を始めるとしよう。



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― 新着の感想 ―
本当にやっと始まりましたね。さて、何分持ちますかね?
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