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第58話 とても大事な事

 


 ……またかよ。


 俺は突如目の前に広がった光景……荒野に夜空という組み合わせにため息をつく。


 とりあえず、前回ここに拉致された時よりは落ち着いているというか……思考がはっきりしている気がするな。ただの慣れかもしれないけど。


「なんか用か?」


「こんな美少女に呼び出されていきなりため息とは、贅沢な奴じゃな」


 俺が虚空に問いかけると、即座に返事が返って来る。


「知ってるか?自分の事を美少女と呼ぶ奴は、例え本当に可愛かったとしても、ほぼ間違いなくめんどくさい奴だ」


「なるほどのう。ということは、私は数少ない例外ということじゃな」


 どこからともなく姿を現した黒髪美人……フィオがドヤ顔をしながら肩を竦める。


「あー、めんどくせぇ」


 俺が心の底からそういうと、フィオはドヤ顔を止め頬を膨らませる。


「お主が逢いたがっておったから来てやったのじゃが?」


「は?」


「私が心の内を読めることは知っておるじゃろ?お主が意識すらしない、心の奥の奥までの……」


「ば、馬鹿な!?」


 俺がコイツに逢いたがっていた!?


 そんなこと考えた事も無いが……ま、まさか深層心理的な部分で、俺がコイツに会いたがっていたとでも!?


「まぁ、嘘じゃが」


 よし、ぶっ飛ばそう。


「短気は損気じゃぞ?」


「お前が煽って来るからだろ!?」


 やれやれとでも言いたげにかぶりを振るフィオの脳天に、拳骨を叩き込みたい衝動に駆られる。


 いや、この際一発くらいいいんじゃないか?一発ヤっとく?


「下品じゃのう」


「思考を読んでおいて非難するのはどうなんだ?」


「お主の品性が無いのが問題じゃな。悔い改めると良いのじゃ」


「……」


「まぁ、それはさておきじゃ。今日は前回以上に時間がなくてのう、あまり遊んでやれぬのじゃ」


「数分のやり取りだったが俺はもう疲れた。帰っていいか?」


 夢の中らしいこの場で、崩れ落ちる程疲れたんだが……コイツはアレか?精神にダメージを与える魔法か何かの使い手か?


「その手の魔法は得意ではないが……出来んこともないのう」


「……出来るのか?」


 この世界の魔法については調べてみたいと思っているのだが、カルモスの部下に居た魔法使いは、戦いで使う攻撃魔法と、敵の魔法を防ぐ防御魔法を少々使えるだけで、他にどんな魔法が存在するかはあまり知識がないとのことだった。


 そんな魔法使いアリ?と思ったが、どうやらこの世界の魔法使いというのは生まれながらに魔法を使うことが出来るらしく、ルモリア王国では魔法は学問として体系化されておらず、魔法を使える奴らは、何となくで使ってしまっているらしい。


 実に勿体ない話だと思うが……研究機関とか作れない物だろうか?魔石によるチャージを必要とする俺達の魔法とは別物だから、今後の為にも色々知りたいんだよな。


「東の方には魔法大国が存在するがのう。向こうでは魔法は学問として体系化されておるから行ってみてはどうかの?」


「へぇ、そんな国があるのか。面白そうだな」


「今度時間がある時に、私も魔法について教えてやるのじゃ」


「そりゃ助かるが……とりあえず、今日の要件はなんだ?時間がないんだろ?」


 魔法の事は非常に気になるが、こうして呼び出されたわけだし早めに要件は聞いておいた方がいいだろう。


「うむ。前回逢った時、お主が喧嘩を売りまくってくるせいで、伝えられなかったことがあったじゃろ?」


 ……俺のせいかよ……いや、ここは俺が大人になって、寛大な心で頷いておいてやろう。


「あぁ、すまなかったな」


「……全部聞こえておるからの?まぁいいのじゃ。お主、魔石を使った強化をしたがっておったじゃろ?アレ、出来るようになっておるからの?」


「は?」


 どういうことだ?キャラ強化が出来る?え?マジ?


「前回ここに呼んだ時点で、お主の言うキャラ強化を出来る様にしておいたのじゃ。玉座の間で強化をしたいと念じるだけで良い。まぁ、玉座に座ってやった方がいいじゃろうな」


「マジか!?すげぇ助かるんだけど!」


 人手不足解消できるじゃん!やっべ、超助かる!


「う、うむ。そこまで喜んでもらえると、良い事をした気分になるのう……」


 フィオが少し照れたようにしながら頬を掻く。


「いや、良い事したどころじゃねぇよ!マジ助かるぜ!ありが……ん?前回呼んだ時点で?」


「そんなに感謝されてしまうと面映ゆいのう。あ、そうじゃ注意事項が……」


「ん?待て……前回ここに来た時に出来るようにしたのに、黙ってたのか?」


 苦労したとは言わないが、結構その事に頭を悩ませていたんだが?


「仕方ないじゃろ?前回教えてやろうと思っていたが、思いの外時間が足りなかったのじゃ」


 ……そうだったか?なんか前回は、最後の方全力で馬鹿にされた気がするんだが……その時間があれば伝えられたんじゃね?


「世の中とはそんな単純なものではないのじゃ。不可抗力という奴じゃな」


「……いや、明らかにお前の器の小ささが問題だよな?確か……良いこと教えてやろうと思ったけど止めたとかなんとか言ってたよな?それがこれの事だろ?」


「そうじゃったかのう?」


 こちらから視線を逸らし、すっとボケるフィオ。いや、ほんとにボケたのかもしれん。


「……年寄りが」


 俺の一言にフィオが、満面の笑みをこちらに向けてくる。


「どうやら命が惜しくないようじゃな?覇王フェルズ(笑)よ」


「それはこっちの台詞だ、ババア…もう一度俺の名前を言ってみろ」


「(笑)」


「どんな名前だゴラァ!!」


「そっちこそ!うら若き乙女を捕まえて、とんでもない暴言を吐きおったな!」


「はっ!本当のうら若き乙女は、ババア呼ばわりされたところで気にしねぇんだよ!反応するってことは自覚があるって証拠だ!」


「なっ!ぐっ!お主っ……!」


 言葉に詰まったフィオを俺は一気に畳み掛ける!


「はっはー!言い返せないみたいだな!いや、悪いなぁ!事実と言う名のカミソリで傷つけてしまって!謝るわ!……わりっ!」


 俺が爽やかな笑みを浮かべつつ片手を上げて謝ると、フィオは顔を真っ赤にしながら拳を握る。


 どうやら、照れてるようだな!はっはっは!


 俺が勝利を噛みしめていると、拳を握り締めて歯を食いしばっていたフィオが、突然力が抜けたように項垂れる。


「……酷いのじゃ……お主が……困っておったから……」


「む?」


 俯いたフィオから、小さなつぶやきの様な物が聞こえてくる。


「……確かに前回、カッとなって伝えなかったけど……それで困ってたから……だから、早く伝えないといけないって思って……」


 フィオの表情は見えないが、握りしめられた手は先程のものとは違う様子で……よく見ると肩も小さく震えているように見える。


 ま、まずい……言い過ぎたか?


「……だから、無理して……なんとか、短時間でもと思って……伝えたのに……」


「あ、あー、その、フィオ?」


 い、イカン……本格的にマズい気がする。


 俺はフィオの名を呼びながら近づく。


 しかしフィオは顔を上げることなく……俯いたフィオの顔辺りから何かがぽたぽたと地面に落ちる……。


「そ……それ、なのにっ……お……お主はっ……ぐす……」


 な……ナカシター!?


 慌ててフィオに駆け寄り、俺は全力で謝る。


「ふぃ、フィオすまん!俺が悪かった!お前が無理をして……」


「顎ががら空きじゃー!!」


「あっぱーーーーーーーー!!」


 とんでもない衝撃と共に、俺の意識は暗転していく。最後に見えたのは、満面の笑みで天に向かって拳を突き出したフィオの姿だった。






「いや、おかしくね?夢だろ?なんで目が覚めた後も顎がいてぇんだよ……」


 俺はフィオに殴られた顎を摩りながら、玉座の間で文句を言う。


 あれか?精神の傷が肉体にも影響を及ぼすとかって奴か?


 そういえば、精神にダメージを与える魔法を使えるとか言ってやがったな……とんでもないババアだ……次に会う時は、フルフェイスの兜を装備した状態で会いたい。


 まぁ、とりあえず、それは置いておいて……強化だ。


 あの野郎が嘘を言っていなければ、玉座の間で俺やうちの子達の強化が出来るはずだ。


 不足している外交官や、開発部に人を増やすことが出来るようになったのは非常にありがたい限りだが……何故か、フィオの奴に素直に感謝する気にはなれない。


 いや、そもそも、突然アイツが俺をこの世界に呼び出したのだから、感謝する以前の話だよな?


 アイツのせいで色々苦労しているわけだし……いや、楽しんでいないとは言わないが……。


 だが、もう少しアイツに話を聞く必要はあるよな。


 どうして俺をこの世界に引きずり込んだのかとか……そもそもお前は一体何なんだとか……。


 多分、今この瞬間もストーキングしている筈だから、次に会った時に説明してくれるかもしれないが……また時間が、とか言って大事な事を何も言わない可能性もあるからな。


 アイツが味方なのか敵なのか全く分らんが……いや、敵だな。明確な敵だ。


 俺は未だ痛む顎を撫でながら、結論を下す。


 思考が脱線したが、とりあえず強化を試してみよう。確か強化したいと念じればいいんだったな?


 次の瞬間、俺の視界が切り替わり、ゲーム時代に慣れ親しんだ、キャラクター強化画面が表示される。


 いきなり視界が切り替わったからめっちゃびっくりしたんだが……悲鳴を上げなかった俺を誰か褒めてあげて欲しい。


 『鷹の目』を発動した時のような感覚だな。


 俺の身体の感覚はあるのに目に見える場所が違う……VRのHMDを被ってるみたいな感じだな。操作は……『鷹の目』と同じで意識すれば動かせる感じだな。


 とりあえず……試しに、誰かメイドの子に開発向けのアビリティでも習得させるか……?


 いや……ゲーム時代ならともかく、今は本人に希望を聞いた方がいいな。


 となると……今回はお試しということで、俺自身の強化にしておくか。


 魔石の総数はここで確認できたはず……お?魔石の総数がゲーム時代の上限だった一億を突破してるな。


 これは助かる……ルモリア王国との戦争前に二回の収支があったけど、ヨーンツ領を手に入れたおかげで、施設維持費に皆の魔力チャージ、そして数度に渡る兵の召喚……これらの消費分を余裕で回収出来るくらいの魔石収入があった。


 もうこれで、内心びくびくしながら兵を呼び出したりしなくて済むぜ……ルモリア王国全土を手に入れたら、それこそウハウハだな。


 しかも、このタイミングで強化まで出来るようになったんだ。魔石の消費は大きいけど、これで人手不足も解消出来るってもんだ。


 そうなって来ると、今度は新キャラ作成をしたくなってくるが……そっちの実験もするか。


 強化が出来なきゃ、新規キャラの作成をしても意味がなかったから、後回しにしていたんだよな。


 とりあえず、今はフェルズの強化をするか……お試しで能力値をちょっと上げるか?


 と言っても、武力と統率と指揮は最大値だからな……知略でもあげるか?


 戦争中の計略の威力とか魔法の強さに関係する能力値だが……フェルズは脳筋系だからそこまで高くないしな。


 ってか……知略上げたら俺、賢くなっちゃうんじゃね?うん、知略……上げるしか無いな!


 しかし、思うだけで操作出来るって楽でいいな……とりあえず、知略を80から85に上げて、決定っと……これで賢くなったのかしら?三桁同士の掛け算とかやってみちゃう?


 そんなアホな事を考えながら、俺は何となく魔石の総数に目を向ける。


 そこには、五千万という数字が燦々と輝いている。


 ……ん?


 ははっ……見間違えかな?五千万ってそんな馬鹿な……俺は目が充血せんばかりに力を込めて魔石の残量を確認する。


 いち……じゅう……ひゃく……五千万。


 どどど、どゆこと!?


 何で五千万しかないの!?


 ほんの少し前まで一億ちょっとあったよね?


 なんで!?


 いや、え、うそ?ごめん、俺のせい?


 俺が強化したから……?


 え?でもほら、あれじゃん?能力値80台だったら1上げるのに必要な魔石は百万では?


 調子こいて5あげたから……使ったのは五百万では?一掛ける五掛ける百万は……五千万だっけ?いやいや、五百万でしょ!?上がった知略がそう言ってる!


 ある程度収入に目途が立ったから……調子に乗って五百万使ったのよね?


 フェルズ、そうよね?


 落ち着いて残りの魔石総数を数えて御覧なさい?


 ほら……何度数えても五千万!!?


 嘘だろ!?


 もしかして……これはゲーム時代との差異なのか!?


 いや、強化する時に必要な魔石の数は書いてあったけどさ!ぱっと見、五百万も五千万も分かんないって!カンマ……ちゃんとカンマつけといてよ!その辺UIしっかり作っといてよ!


 運営に文句の電話入れたいんだけども!?


 詫び魔石よこせごらぁぁぁぁぁぁ!


 ……いや……認めよう……これは、俺のミスだ。


 調子に乗って、ちゃんと確認もせずにぽんぽん事を進めた俺が悪いのだ。


 大して使いもしない能力値に五千万も突っ込んで……あぁ、やばい……心が折れる。


 五千万……確かカルモスは、ルモリア王国の人口は百万くらいって言ってたっけ……?


 魔力収集装置の設置が終わっても、月一千万……五千万を取り戻すのに五か月……しかも魔力収集装置の設置は、そんな簡単に終わるものじゃないし……今の開発部の人数だと王国全土に設置するには数か月掛かってもおかしくない……。


 っていうか、まだ全土支配した訳じゃないし……。


 あぁぁぁぁぁ……やらかしたぁぁぁぁ……。


 浮かれ切ってた数分前のフェルズの顎をぶん殴りたい……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 自業自得とは言え、盛大な溜息をつく。


 あぁ、死にそう……。


 そんな、海よりも深く沈んだテンションのまま、強化画面を閉じて頭を抱えていると、玉座の間の扉が勢いよく開け放たれ、血相を変えたイルミットが駆け込んできた。


「フェルズ様~大変です~!」


 あまり大変そうに感じられない口調だが、イルミットの表情はかなり真剣な物で何かが起こったことは間違いない。


 俺は気持ちを切り替え、覇王モードでイルミットに尋ねる。


「何があった」


「ま、魔石が~」


 その一言で、俺は腹に氷の剣でも突き立てられたかのような冷たさを覚える。


「魔石が突然なくなりました~!今調べているのですが~およそ半分ほど~突如として消えました~!申し訳ございません~!」


「……良い、気にするな。それは問題ない」


「え?」


 俺はフェルズ……覇王フェルズだ。


 何の因果か、覇王になってから異世界に来てしまい、徐に国の大事な資源を半分も食いつぶしてしまった、ただのゲーマーだ。



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― 新着の感想 ―
や〜ら〜か〜し〜た〜www
[良い点] 大笑いしてしまった。 この作品は、ギャクとシリアスの兼ね合いが絶妙です。 [一言] 読み始めたら止まらない。 続きが愉しみです。
[良い点] さすがに短絡的すぎたかもね… この知略+5を使って、その挽回ができると信じます!笑
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