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第18話 夜の情報収集……普通の意味で

 


 ぱちぱちと音を立てながら、俺の目の前で木がはぜる。


 いわゆるたき火だが……なんだろう……無茶苦茶落ち着く。ずっと見てられるな……何が面白いって訳じゃないんだけど……いや、面白いな。


 そんな風にぼーっとたき火を眺めていると、俺の傍に控えていたエイシャが声を掛けて来た。


「フェルズ様。バンガゴンガが来ました」


「そうか。通してくれ」


 俺の言葉に黙って頭を下げたエイシャが俺から離れて行く。


 っていうか通してくれも何も、ここ普通に平原だからな……許可するまでも無く風や砂がばんばん通っている。


 まぁ、俺の周りはしっかり部下達が固めてくれているから、風はともかく生物はそう簡単には通過出来ないだろうな。


 勿論、部下達は俺の周りだけではなく、ゴブリン達の護衛もしっかりとやってくれている……言い方はアレだが、ゴブリン達は貴重な収入源だからな。あの村の五倍……いやそれ以上に大事にしなくてはならない。


 そんなことを考えていると、俺が立っていたとしても見上げるような巨体と、俺が座っていても目の高さが合う……は言い過ぎだが、椅子に座っていたら目の位置が合うくらいの矮躯が連れ立って近づいてくる。


 いうまでもなくバンガゴンガとエイシャだ。


 この二人が並ぶと身長差が凄まじいな……。遠目ならともかく、近くに来た時二人の顔を同時に視界に収めるのは不可能だな。


「フェルズ様。お呼びとのことで参上仕りました」


「……あぁ。少し聞きたい事があってな。忙しいとは思うが付き合ってくれ」


 仕るって何だっけ……?まぁ……なんでもいいか。多分古めかしい言い回しなんだろう。


「……」


「……座れ。椅子は無いが、我慢してくれ」


「はっ」


 こういうのを一々言わないといけないのは本当に面倒だな……そんなことを考えながらバンガゴンガを見ていると、たき火を挟んで反対側にどかりと胡坐をかいて座った。


「知らなければ知らないで構わないから、気を楽にして聞いてくれ。バンガゴンガ、お前はこの辺を治める国の事を知っているか?」


「申し訳ありません。人族の国の事は存じておりません」


 バンガゴンガが申し訳なさそうに頭を下げるが……まぁこれは予想通り。いや、まぁ少しだけ期待してなかったわけじゃないけど、予想通りだ。


「そうか。人族を避けて暮らしていたのだからそれは仕方ないな。まぁ、そちらはいい情報源がいるからな」


 今頃、クーガーがいい感じにあの三人から情報を聞き出してくれているだろう。確かオッポレとか言ってたっけ?なんかちょっと違う気もするが、まぁどうでもいいか。


 それはともかく、尋問とかってのはレギオンズの頃は無かったからなぁ……クーガーは上手くやれているだろうか?レギオンズでの捕虜の扱いは配下にするか逃がすか……首チョンだったからな。


 閑話休題……。


「本題はこれからだ。俺達がこの辺りの人間じゃない事は何度か伝えたと思うが、色々と情報が知りたくてな……この辺りには、人族以外の種族が結構いたりするのか?ゴブリンは……確か妖精族だったか?」


「はい。ゴブリンは妖精族ですが……この付近にいる妖精族は恐らく我々だけです」


「ふむ……」


 この付近がどの辺りを差すのか分からないけど……いや、そもそも俺の聞き方が悪いのか。


「因みに妖精族というのはゴブリン以外にどのような種族がいる?」


「南の方に、ハーピーの村があると聞いたことがあります。後は、住んでいる場所は分かりませんが、ドワーフ、エルフ、スプリガンが妖精族です」


「ゴブリン、ハーピー、ドワーフ、エルフ、スプリガンか……」


 どれも聞いたことのある種族……いや、スプリガンってよく知らないな。ふわっと聞き覚えがあるくらいだが……外見は全く分からないな。


 いや、そもそもゴブリンも俺の知っている姿とは違うし、ドワーフやエルフも全然違う可能性はあるか。


「それぞれの種族はどんな見た目だ?」


「ハーピーは腕や足が鳥に近い感じです。腕は翼になっているのですが……知り合いのハーピーは、空を飛ぶことは出来ないと言っていました」


 ハーピーか……レギオンズで魔物としていたな。手足が鳥っぽい感じ女性型の魔物だったけど……アレって全部雌だったのかな?それはともかく、ゴブリンと同じくこちらでは妖精族か……。


 聞いた感じだと、レギオンズにいた魔物の姿に近いみたいだな……飛べないらしいけど。もしかしたら鶏系かダチョウ系か?


「エルフやドワーフ、スプリガンに関して私は直接見た事はありませんが……三種族とも人族に近い見た目だそうです。スプリガンはその中でもかなり体が小さいようです」


「ふむ……」


 ドワーフは……小さくないのか?俺のイメージではエルフは痩身、ドワーフは小柄でガタイが良いって感じだったんだが……まぁ、バンガゴンガも見たことがないなら説明のしようもないか。


「お前達の村で少し言っていた、魔族については何か知っているか?」


「申し訳ありません、魔族については私は全く……」


「そうか……魔王については?」


「魔王についても正確な情報は持っていません。ただ、その身からあふれる魔力が狂化の原因になっており、北方にいるということだけ」


 魔王についても分からず……か。まぁ、今は別にいいか。何が何でも知りたい情報じゃないしな。


 それより、俺が気になるのはゴブリン以外の妖精族も、魔石回収効率が人族よりもいいかどうかってことだ。


 もし他の妖精族も効率五倍だったら非常に助かるんだけどなぁ。


 とりあえず、南の方に住んでいるって言うハーピーの村に、魔力収集装置を置かせてもらえる様に頼みに行くか……バンガゴンガを連れて行ったら交渉しやすいか?


「因みに……ゴブリン以外の妖精族と人族の関係は良好なのか?」


「……良好とは言いづらいですね。人族……いえ、この辺りの種族は他種族を見下す傾向が強いので」


 あー、人が他の種族を見下すって、物語ではよく見る感じだけど……ここもそうなのか。


 人族っていうのは排他的ってことなのかね。まぁ、その辺の情報も、次第に集まっていくのだろうけど……バンガゴンガがこの辺りのってわざわざ言い直したのは……俺達も人族だからってことか。


「もし俺達が、バンガゴンガ達の様に他の妖精族たちも迎え入れたいと言ったら、問題はあるか?」


「……それは、その者達次第ではないかと。恐れながら、他の妖精族の生活様式を私は存じておりません。共に暮らすにあたって、致命的な生活習慣の違いが無いとは言い切れないかと」


「それは至極当然だな。直接話をしてみない事には分からないか」


「……フェルズ様は、他の妖精族も民として迎え入れて行くのですか?」


 伺う様にバンガゴンガが尋ねてくる。他種族共生国家みたいなのは普通じゃないのか?


「おかしいか?俺は理性を持ち、会話の出来る者はすべからく民となり得ると考えている。そこに貴賎はない。あるのはそれぞれの個性だけだ」


 そう、会話が通じる相手ならば何も問題はない。寧ろ考え方や在り方を種族単位で枠にはめて見るべきではないと思う。同じ国、同じ言葉、同じ人種であっても、話の通じない事なんてざらにあるしね。個人個人考え方が違うのに、種族とかの大雑把なくくりで一纏めにして、変なレッテルを貼るやり方は俺は好きじゃない。


 だから俺は、ゴブリンだから善良とも考えないし、人族だから話は通じるとも考えない。どんな相手だろうと疑ってかかるし、どんな相手だろうと会話は試みる。その上で判断していきたい……そういう覇王であろうと思う。


「フェルズ様の考え方に敬服いたしました。フェルズ様のような考えの統治者が多ければ……差別やそこから生まれる争いは無くなるのでしょうか……」


「はははっ!バンガゴンガ、それは違うぞ!俺は明確な差別をする。我が民とそうでない者に対する差別をな。無論、我が民でないからと言って蔑みはしないし、無下に扱う事はしない。全ての存在は我が民となり得るのだからな。だが、守るべき我が民を害そうとする者がいれば、容赦はしない。例え相手が百万の人族であろうと、百万のゴブリンであろうと……我らに牙を剥くと言うのであれば、容赦なく薙ぎ払う」


 敵には容赦はしない……流石に斬りかかってくる相手をいなして会話を試みようとする程お人好しではない。


「相手の言い分もあるだろう。もしかすると俺が悪いのかもしれない。だがそんなことは関係ない。無論、慈悲は与えるし、まずは会話を試みよう……だがそれでも牙を剥くと言うのであれば、逆に牙を突き立てられても文句は無かろう?」


 俺が笑みを浮かべながらそう言うと、バンガゴンガは喉を鳴らしながらつばを飲み込む。


「俺は王だからな。容認できる事と容認できない事がある。まぁ、その線引きは簡単だ。俺や部下、そして民に危害を加えることは許さない。それだけだ。だからバンガゴンガ。もしお前達が俺に着いて行けないと思った時は……忌憚なく俺に意見をぶつけに来い。俺は部下や民の声に耳を塞ぐほど狭量ではないつもりだ。だがいきなり刺しにくれば……それなりの対応をせざるを得ない。こうして会話を交わせた相手にそんなことはしたくないがな」


 というか、積極的に意見を言いに来て下さい。マジで俺の舵取りで行先が決まっていくのは心臓に悪い。


「……心に刻んでおきます」


 神妙な面持ちでバンガゴンガが頭を下げる。


 少し脅し過ぎたかもしれないけど……無下にはしないからちゃんと不満とかあったら言ってねって伝わったよね……?いきなり後ろから首へし折りに来ないでね?


 とりあえず、空気を変えよう……なんかめっちゃ空気重くなった。


「ところでバンガゴンガ。お前達は……酒は呑めるか?」


「は……?あ、いえ、申し訳ありません。酒は好物です」


「そうか……なら俺達の拠点に着いたら宴でもするか。バンガゴンガ達は我が城下町の最初の住民だからな。交流も兼ねて酒や料理を出そう」


 レギオンズにはお酒ってアイテムもあったから、それを出せばいいだろう。ってそう言えばフェルズって何歳なんだ?ゲームでは特に何歳って明記されていなかったよな……まぁ、成人はしているだろうけど。多分。


「それは……楽しみにしておきます」


「明日の昼頃には到着予定だが……少しは休みも必要だろう?宴会は夜に行うとしよう」


「お気遣い、感謝いたします。集落では酒を造るのも一苦労でしたし、皆も喜ぶと……ぐっ!?」


 穏やかな笑みを浮かべながら話していたバンガゴンガが、突然胸を押さえて苦しげな様子を見せる。


「どうした?大丈夫か?」


 肋間神経痛か?一瞬そんなことを思ったのだが、バンガゴンガは胸を押さえながら項垂れ、噛み殺す様に苦し気な声を上げている。


 これは……ちょっとマズそうだな。


「どうした、バンガゴンガ!?」


 俺が立ち上がりたき火の反対側にいるバンガゴンガに近づこうとした所、苦しげな呼吸をしながらバンガゴンガが俺を押しとどめるように掌をこちらに向ける。


「ふぇ……フェルズ……様……も、申し訳……ありません。これは……きょ……狂化……です!」


「なんだと!?」


 このタイミングで!?



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