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第159話 とある日の執務室にて

 


「兄貴、相談が……」


「帰れ」


 俺は執務室に入って来たオスカーの台詞を、皆まで言わせずに追い返す。


 どうせコイツの相談ってあれだろ?


 空から女の子が降ってきたとか、大商会の一人娘が陰謀に巻き込まれた所を助けたとか、怪我をしている鳥を助けたら女の子だったとか、悪役令嬢を助けたいとか……そんな感じだろ?


 どうせなんやかんやあって上手く片付けられるんだから、わざわざ俺に相談する必要もない。


 そもそも我覇王ぞ?相談する相手おかしいだろ?


「いや、待って下さい兄貴!違うんです!今日は仕事です!仕事の相談です!」


「……なら聞いてやろう。どうした?」


 今日はという辺り、こいつ自身自覚があるようだと思いながら、俺は書類から顔を上げてオスカーに先を促す。


 顔を上げて初めて気づいたのだが、オスカーは資料なのか書類を手にしており、それを俺に手渡していい物か若干悩んでいるようだった。


「応接テーブルの方に資料は置いてくれ。そちらで話を聞こう」


 俺が立ち上がりながら言うと、オスカーはすぐに資料を応接テーブルへと並べ俺を待つ。


 並べられた資料に目を落としつつ、俺はオスカーに任せている仕事の事を思い出す。


 オスカーに任せている仕事は二つ。回転の魔術回路開発とギギル・ポーで発見した例の魔道具の解析だが……どちらの話だろうか?


「これは……回転の魔道具か。順調に性能が上がっているようだが、何が問題なんだ?」


 オスカーの資料を見る限り、順調に回転する力を高めて行っているようだし、速度や回転の向きを変化させることも可能になっているようだ。


 これを使えば、重量があり過ぎて馬では牽けないような鉄製の馬車とか作って動かせるかなぁとか、レールを敷いて鉄道とかも行けるんじゃないかとか考えているのだけど……ぶっちゃけ、俺達自身は移動手段としてのそれらは全く必要としていない。


 しかし転移は今の所一般人は利用できないし、鉄道等の輸送力の強化は国としては悪くないと思うんだよね。


 それはそうと、鉄道と言えば蒸気機関ってイメージもあるけど……いや、まったく仕組みが分からん。


 なんとなくは分かるよ?


 水を温めて水蒸気にしたら体積が一気に増える……それを密閉した空間で行って、逃げ道を作ればかなりの力が出るとかなんとか……うん、俺の知識でこれを実験したら、大爆発とかしそうだよな。


 ドワーフにちょろっと伝えてみるか?水蒸気ってパワーありそうじゃない?みたいな感じで。


 あとアレよ、そうやって作ったエネルギーをどう使ったら、あんなデカい列車が動くの?さっぱり分からん。っていうか、そもそも石炭って何?なんで燃えるの?石じゃないの?


 とまぁ、この辺りが覇王の限界だった為……じゃぁ魔道具で車輪自体を動かす方向でいったらいいんじゃね?みたいな発想である。


 それには相当なパワーと決して軽くないコストが必要なので、オスカーには日々その両方に重きを置いて回転魔道具の研究を進めて貰っているのだ。


「御覧の通り、魔術回路の開発は順調と言った感じなのですが、最近この魔術回路を使うと部品の方が耐えられなくなってきまして……兄貴から教えて貰ったギアってパーツや車輪を支える軸が破損してしまうんですよ」


「ほう、魔術回路の研究者としては素晴らしい成果じゃないか。汎用性はなくなっているようだが……」


「えぇ……だからこれ以上の強化は止めて、コストを下げる方の研究に専念した方がいいのかと思いまして」


「それで相談か。ふむ……」


 もう一度俺はオスカーの持ってきた資料に目を落とす。


 現時点での回転の強さは……六頭引きの馬車を動かす程度。


 ただし馬車と違って本体を引っ張るわけではなく、車輪自体が回転し前に進む構造の為部品にかかる負荷が高い……なるほどね。


「馬車本体は街の職人に作らせたものだったな?」


「はい。腕の方は問題ないと思うので、純粋に素材の耐久力が足りないのだと……」


 軸受けの部分を工夫したらいけないかな……?ベアリングの軸受けを作る……いや、無理か。


 ベアリングの玉とかころの部分って、製作難易度が凄い高いって聞いた覚えがある。流石に街の馬車職人じゃ……あぁ、そうか。そう言えば、今エインヘリアには技術者集団が大量に加入した所だったな。


 ベアリング云々はとりあえず置いておいて、オスカーとドワーフを引き合わせればいいか。


「オスカー。コストダウンも必要ではあるが、今はまだ俺が望んでいるだけの回転力まで到達出来ていない。俺は将来的にもっと巨大な車をオスカーの開発している魔道具で動かしたいと考えているからな」


「もっと巨大な車をですか……?ですが……」


「部品の強度が足りない点に関しては……実は先日からドワーフの国ギギル・ポーがエインヘリアに加わってな。彼らを使うとしよう」


「ドワーフですか!?確かにドワーフの技術ならもっと頑丈に……」


 オスカーが顎に手を当てつつブツブツと呟き始める。


 ……こいつも職人だからな、多分ドワーフ連中とは上手くやれるだろうし……何より自動車やら列車やらの研究だから、ドワーフ達も大興奮間違いない。


 オスカーがドワーフにぶん殴られる可能性はあるけど……それは全然構わない、というかもっとやれ。


「よし、何人かこの城に来ているから紹介してやろう。ドワーフ達に何を作っていて、どんな実験をしているか伝えて構わない。とりあえずの目標は……六頭引きの馬車を裸馬が駆ける程度の早さで走らせることだな」


「そ、それがとりあえずですか?」


「あぁ。大丈夫だ、オスカー。お前ならやれる」


 何の根拠もないけど俺がそう言い放つと、オスカーが男臭い笑みを浮かべる。


「兄貴にそう言われちゃ、やるしかないですね。分かりました、全力で当たらせて貰います」


「期待している。ヘパイを呼ぶから後は任せる、上手くやってくれ」


 俺はそう言いながらアビリティを起動してヘパイに執務室に来るように伝え、ついでに簡単な説明もしておく。


 これで後はヘパイに任せておけば、オスカーを良い感じの職人と引き合わせてくれるだろう。


 既にオスカーは自分の世界に突入しており、部品の強度の問題で試すことが出来なかった魔術回路について、色々と考えを巡らせているらしく、持ってきた資料に何やら色々と書き込んでいる。


 うん、この様子ならドワーフ達ともバッチリやっていけそうだな。是非とも顔面が変形するくらい仲良くやって貰いたいと思う。


 程なくして執務室に来たヘパイに連れられて、オスカーは退室していったのだが……彼らと入れ違いになる形で、今度はバンガゴンガが執務室にやってきた。


「珍しいな?バンガゴンガが俺の所に来るのは」


「あぁ、ちょっと気になる事があってな。さっきイルミット様から聞いたんだが、ドワーフ達が農地の見学をしたがっているらしいんだ」


「あぁ、ドワーフ達は食料不足に悩まされているからな。うちの種は成長が早いし、土が農地に適してなくてもあまり関係ないだろ?元々は俺達から食料を輸入する予定だったが、ギギル・ポーもエインヘリアの一部になったからな。無償で回しても良かったんだが、今後の事を考えて、ある程度自分達の土地でも食料を生産できるようにしておきたいってところだろうな」


 一応少ない土地で農業をやっているドワーフもいるらしいけど、家庭菜園レベルの収穫量だったらしいからな……うちの種を使えば問題ないだろうけど、農地は広げる必要があるだろうね。あの山でどのくらい土地が確保できるか分かんないけど……いくらレギオンズ産の種を使っても、流石に採掘場じゃ太陽もないし育たない……よね?


「それはいいんだが……見学させてもいいのか?」


「どういうことだ?彼らも既にエインヘリアの民だ。確かに特殊な種だが、管理をちゃんと出来るようであれば問題はないぞ?」


 ドワーフ達も情報を秘匿する事の大切さはよく分かってくれているし、しっかりと言い含めておけば問題ない筈だ。


「いや、そうじゃなくて……羊も見せるのか?」


「……大丈夫じゃないか?ドワーフ達ならあまり細かい事は気にしないだろ」


「いや、アレは全然細かくねぇよ。本当にいいのか?」


「上質な羊毛や皮、それに肉……歩き回らないし餌も必要ない。どこに問題がある?」


「見た目だな」


「……」


「……」


 物凄い説得力のある一言に、思わず黙り込んでしまう。


 いや、惚けて見せたけど……分かってたさ!確かにうちの羊畑は少々、そう、少々見た目のインパクトがあったりする。


 心臓の弱い人はちょっと発作とか起きちゃうかもしれないし、子供が見たら夜中トイレに行けずにお漏らしをしてしまう程度……いやその場で泣き出すくらいには破壊力がある。


 バンガゴンガが危惧する気持ちも分かるという物だ。


 まぁ、以前エファリアに城下町を案内していた時に羊畑に連れて行こうとして、バンガゴンガに止められたから気付いたんだけどね。


 だが、同時に俺は思うんだ。あいつら《ドワーフ達》なら問題ないんじゃないかって。


「ドワーフ達は細かい事を気にしないだろ」


「だから細かくねぇって」


「……ドワーフ達なら大抵の事は気にしないだろ?」


「……言いたい事は分かるが。本当にいいんだな?」


 なんか、バンガゴンガに念押しされるとすげぇ迷うんだけど……。


 俺の勘では大丈夫なんだが……。


「……うちの傘下に加わった以上、隠し事はするべきじゃないな。羊肉は輸出項目の中にあったし、下手に隠す方が後で拗れるだろう。エインヘリアで羊と言えばアレがスタンダード。至って普通の羊畑だといった体で案内すればいいだろう」


「……分かった。確かに俺もあの話し合いの場にいた訳だし、隠す方がおかしいな。俺が責任をもって案内させてもらう」


「よろしく頼む。もし拗れそうだったら俺に話を投げて構わない」


「そうならない様に、誠心誠意ドワーフ達に説明させてもらうさ」


 そう言ってバンガゴンガは凶悪な笑みを見せると執務室から出て行く。


 バンガゴンガには最近苦労かけてばかりな気がするな……今度なんか褒美でも出すとするか。


 バンガゴンガの出て行った扉を見ながら俺は、バンガゴンガへ何を褒美としたらいいのか考えを巡らせた。



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