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第146話 起こって欲しくない事は大体起こる

 


 正式にドワーフ達から採掘場の奪還を依頼されて二日、今日は魔力収集装置の設置が完了する日だ。


 この日までバンガゴンガは勿論、ドワーフ達の中にも狂化する者は現れなかった。


 オトノハの話では昼頃には装置の稼働が始まるらしい。


 稼働が始まったらすぐにエインヘリアから開発部の子達がギギル・ポーに来て各街への魔力収集装置の設置を始める。


 全ての街に設置が終わるまではまだ十日程かかるが、この十日さえ凌げば今後ギギル・ポーのドワーフ達が狂化する事は無くなるだろう。


 本来であれば、一刻も早く魔力収集装置を設置するために動いた方がいいとは思うのだが、オトノハはこれから俺達に合流して、ここよりもう少し山の上の方にある街に向かう。


 ドワーフ達の足でも一日と掛らない距離なのだが、そこに向かう理由は問題の採掘場だ。


 ガルガド達との約束である全ての採掘場の奪還。


 ただ魔物を倒すだけならば、各採掘場にうちの子達を送り込めばいいだけだし、何だったら魔力収集装置を設置して召喚兵をガンガン送り込めば話は終わるだろう。


 だが、それでは原因を調べることが出来ない。


 折角魔物を殲滅しても、俺達がギギル・ポーから離れてから再び魔物に採掘場を占拠されたとなっては話にならない。


 だからこそ、最低でも一か所は俺の手で探索し魔物達と戦うつもりだ。無論、俺には調査なんか出来ないから調査をするのはオトノハだ。まぁ、ゲームではないのだから最深部に原因となる物があったりするわけではないだろうし、そもそも簡単に原因が判明するとは思っていない。


 しかし、オトノハだけではなく、俺の目を通してフィオも採掘場の事を確認出来るはずだ


 この二人が何も原因を見つけられない様なら、多分俺達では原因を見つけることは出来ないと思う。


 その場合は……中々格好悪い気もするけど、採掘場の奪還だけをして原因究明はドワーフ達に任せることになる。しかし、そうなると問題は狂化だな。


 街に設置した魔力収集装置の効果が、採掘場に蔓延している魔王の魔力を吸収出来るかどうか……それ次第で、例え採掘場を奪還したとしても、ドワーフ達が採掘場に入ることが出来ないという意味のない結果になってしまう。


 これについては、街に設置した魔力収集装置の効果が採掘場まで効果が及ばなかったとしても、採掘場がレギオンズのダンジョンと同じ状態になっていれば問題は解決する。


 レギオンズのダンジョンと同じ、つまり魔力収集装置の簡易版が採掘場内で稼働するということだ。これが実現すれば、ドワーフ達が採掘場で狂化する事はなくなるだろう。


 しかし、簡易版の魔力収集装置を採掘場に設置できるかどうかは、現地を調べてみなければわからない。


 一応この街にも採掘場はあるのだが、ここの採掘場は魔物に占拠されておらず今もドワーフ達が採掘に精を出している。だから魔物に占拠されている採掘場と条件は異なるのだが、一応この街の採掘場はオトノハの部下であるヘパイが、魔力収集装置の稼働後にこちらに来て調査する手筈になっている。


 もしこの街の採掘場にも魔力収集装置を設置出来るようであれば、話は簡単なのだが……。


 そんなことを考えながら窓の外に目を向ける。


 生憎と今日はあまり快晴とはいえず、空はどんよりとしている。山道を移動しないといけないから、あまり天気が悪くなって欲しくはないのだが……でも、そんなことを思うとほぼ間違いなく雨って降るよな。世の中そんなもんだ。


 俺は心の中でため息をつきつつ、部屋の中に視線を戻す。


 部屋の中にいるのは今日もいつもと同じメンバー、リーンフェリアとバンガゴンガだけだ。


「バンガゴンガ、今日俺達は昼過ぎから別の街に向かうが、お前はこの街に残ってくれ。護衛はリーンフェリア達の代わりにリオが来る。俺達がいない間もドワーフ達と話をするのだろう?」


「あぁ、今日も魔力収集装置の稼働が終わってから話がしたいと言われている」


 先日ガルガド達がこの迎賓館を訪れて俺と話をして以降、バンガゴンガは連日ドワーフ達と会談をしている。


 会談と言っても、ドワーフ達の質問にバンガゴンガが答えるだけのようだが、その内容はエインヘリアについて妖精族であるバンガゴンガから見て、どのような国なのか、そして俺という王がどんな王なのか……そういった事を聞かれているらしい。


 バンガゴンガを連れて来た理由は荷物持ちではなく、ドワーフ達に俺達の事をゴブリン目線で話して欲しいと思ったからだし、大いに宣伝してくれるとありがたい。


 俺はバンガゴンガに忌憚なく正直に話してくれて良いと言っているので、良い事も悪い事もドワーフ達の耳に入っている筈だ。


 まぁ、バンガゴンガは真面目だし気も使える義理堅いタイプなので、あまり悪い事は言っていないかもしれないが……俺としては、良くない部分も早い段階で知っておいてもらった方が、後々面倒なことにならないと思うので正直に言ってくれと伝えている。


「護衛は必要ないと思うがな。魔力収集装置も稼働するし、もし万が一何かあった場合は、エインヘリアにすぐ帰還しろ。その際、ドワーフ達も避難する必要があるとお前が判断したら、ドワーフ達も転移させて良い。まぁ、いきなりエインヘリア城は問題があるから……ヴィクトルの所にでも転移してくれ」


 この街はギギル・ポーの中心地にして最大の街で、ここに住むドワーフは二千人位いるらしいが……まぁ、ヴィクトルなら上手い事捌いてくれるだろう。


 といっても、街全体が避難しなきゃいけない様な事態になんか、そうそうならないだろうけどね。


 この山が噴火するとか、ドラゴンが襲来……は、うちの子達がいるから平気か。後は土砂崩れとか?


「分かった。何か起こると考えているのか?」


 俺の言葉に、少し訝しむようにバンガゴンガが尋ねて来るが、俺は肩を竦めながら答えてみせる。


「いや、そんな事は無い。だが、ここは他国だからな。緊急時の動きは決めておいて損はない」


「……なるほど、分かった。留守は任せろとは言えないが、少しでもエインヘリアに良い印象を持ってもらえるように話をしておく」


「あまり無理はするなよ?興味を持たせすぎると凄い勢いで詰め寄って来るぞ?」


 俺が冗談めかして言うと、バンガゴンガは歯を剥いて凶悪な顔をする。


「俺は技術的な話は一切出来ないから問題ない……いや、一度危ない事があったな」


「何があった?」


 問題があったとは聞いていなかったけど……この流れならドワーフ達を興奮させたってことだよな?


「エインヘリアの城下町で俺達が色々建設しているだろ?その最初の手ほどきをオトノハ殿にして貰ったと言った時にな……なんというか、物凄い剣幕で距離を詰められて……思わず手が出そうにな……」


「なるほどな……まぁ、バンガゴンガの気持ちはよく分かるが」


 ドワーフ達はオトノハの技術に心酔しているというか……オトノハの一挙手一投足に注意を払い、その全てから自分に生かせる技術を得ようとしている。ほっといたら信仰とか生まれそうな勢いだ。


 流石のオトノハも、そんなドワーフ達の視線に困ったような曖昧な笑顔を見せていたが……それで済ませるオトノハはやはり大物……いや、良い娘だね。


 そんなオトノハから手ほどきを受けたなんてぽろっと口にすれば……ゴブリン達がドワーフ達の嫉妬から襲撃を受けるかもしれん……いや、それはないだろうけど、詰め寄られるのは間違いないな。


 現にそれをやらかしたバンガゴンガが、街長達に詰め寄られているわけだし……。


「彼等の沸点はかなり低いから、あまり迂闊な事は言わないようにな。まぁ、その分拳で黙らせても文句は言わない様だが」


 だからと言って、外交に来た人間がそうぽんぽんと殴って良いわけがない。


 リーンフェリアとレンゲはやったけど……アレは王である俺を守るためだから致し方なし。


「流石に殴りはしねぇが……」


 バンガゴンガは二メートルを超える身長に筋肉もりもりと言った体つきだ。対するドワーフ達は同じく筋肉もりもりではあるが、その身長は百五十センチもない……正直、見た目で言えば完全にバンガゴンガが悪者になってしまうと思う。


 実際は、酷い目に遭っているのはバンガゴンガなのだが……。


「バンガゴンガは、長年隠れ里に住んでいたわりにうちで一番常識的だな」


 俺がにやりとしてみせながら言うと、バンガゴンガも苦笑するように肩を揺らす。


「こちらは心配しなくて良い。先ほど言われた様に、何か起こったらすぐに逃げるからな。フェルズ達の方は……心配するだけ無駄な気もするが、それでも気をつけてくれよ?」


「無論だ。俺にはまだ成さねばならぬことがあるからな。それに今回の件は、俺にとって避けて通ることの出来ない事だ。ドワーフ達を味方に引き入れる必要が無かったとしても、採掘場を調べなければならなかっただろう」


 そう言って俺は視線を窓の外に向ける。


 先程と変わらず、今にも雨が降り出しそうだが……街を歩くドワーフ達の様子は非常に活気があり、今ギギル・ポーが抱えている問題なんて存在していないのではないかと思える程だ。


「それと、この街で狂化して眠らされているドワーフ達についてだが、オトノハの代わりにヘパイをこの街に駐留させる。それとエイシャもな。あの二人なら問題はないと思うが、バンガゴンガも手伝ってやってくれ。もし完全に狂化した者達を救えるとなったら……それは何よりも嬉しい話だからな」


 もし完全に狂化した者を助けることが出来たら、フィオも相当喜ぶだろう。


 俺はそう思いながら視線を部屋に戻す。


「あぁ……俺に何が出来るか分からねぇが、全力で当たらせてもらう」


「……」


 真剣な表情で言うバンガゴンガの目を見て思い出す。バンガゴンガは狂化した村の者を手にかけていたのだ。当時は他に方法が無かったとはいえ、それを救う方法があったと判明するのは……酷な話だったかもしれない。


「……フェルズ、気にしないでくれ。俺達にはドワーフの様な技術はない。狂化した者を、寝かしながら生きながらえさせるなんてことは不可能だ。だから……俺達にとって、アレが最善だった。悔しくないと言えば嘘になるが、自ら覚悟を決めたあいつ等の想いを無下にするような事は言うつもりは無い」


 俺の考えている事を読み取ったバンガゴンガが、小さくかぶりを振りつつ言う。


 バンガゴンガのその姿は、俺なんかよりもよっぽどリーダーとしての覚悟と責任があるように見えた。



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