漏
広大な草原の中に風があった。緑の海原の様に見えた。
私はそこに居てその海に漂っていた。ほら、よく見るでしょ?海に浮かんでいる人は仰向けになって顔だけ水面から出して、どうしようもなく漂っているのを?私もそうして風を受けていた。
物語の登場人物は何かをしなくちゃいけない。何か目的があって、それを達成する。色んな困難を乗り越えて、それはとても面白い事なのだけれど・・・私には面白くなかった。だから私は只ここに居て草原の海を流れている。そういう話の方が難しいし、何処にも無くて、でも人が欲っしているモノだったりするの。
でもダメ。物語は何かを始めてしまう。それに支配されているから・・・あらゆる物事は最後には必ず帰結してしまう。どんなに出鱈目も、混沌も芥も牛鬼蛇神さえも・・・。
ほら、見えるでしょ?私に向かってこの海原を進む船が・・・。
「おーい、おーい」
そう言って男が一人私の方へ手を振っている。何かの間違いだ。私を過ぎた私と関係ない向こうの人に手を振っているに決まっている。
しかし、男は私の傍らで立ち止まって寝そべる私を見下ろした。
懐かしい風が吹いた。私と男とは少年と少女の様に思えた。二人とも無粋な無表情であるが裏側は恋だとか愛だとかの期待を赤く腫れあがらせていた。
「干渉縞だ」
男はそう言った。
丘の向こうからは巨大な縞模様がこちらに迫っていた。まるでこの野原をスキャニングして不穏分子を探すレーザービームの様に。
「何か始まってしまう事を恐れているのかい?」
男は私にそう聞いた。
私は遠くに瞳をやって宝石の様に光らせた。男とは違う。私は特別な人間なのよと言うように。関わらないで欲しいから。
「『無』なんてものは何処にも無いよ。あらゆるものには意味があって理由があって向かう先がある」
そんな事は分かっている。しかし私は『無』に憧れる。『無』が何処にも無いというのなら、それは無意味なモノでは無くて究極の存在で、探し求めるに値するものではないか?『この時間』が進むにつれて私は目的を持たされる恐怖を感じる。
男は両手を掲げて迫りくる干渉縞を迎え入れた。
干渉縞の通過と共に私たち二人はトリップした。
入り組んだ迷路みたいな夜明け前の汚い街に着く。徐々(じょじょ)に物語の形を成してきた事に私はため息を覚える。
勿論ごろつきどもが絡んできて男は草原で見かけただけの私をよく体を張って守ってくれた。深い傷をいくつも負って男は息絶え絶えであった。仕方ないので私は男の肩を支えながら抱えて何処か隠れられる宿などを探した。本当にめんどくさい・・・。
ようやく宿を見つけると部屋を一つ取って「私たちの事は言わない様に」と受付のバタフライナイフを回す男に金を多く握らせた。
男をベッドに寝かせて大体の所に包帯を巻いておいた。
男は始めてしまう。
「何人もやってしまったから、この町のボスに目を付けられたかもしれない。すまない」
勘弁してくれ、勝手にハードボイルドを始めないでくれ・・・。だったら、初めから逃げろよ。
私は「そう」と言って、この話を『無』に返そうとする。
「じゃあ・・・逃げましょ?車を調達してくるわ」
「え?」男はあっけに取られた。物語の構成では逃げるのはまだだ。最後の最後に逃げる。
「いやいや」男はそう言って私を止めようとしたが私はホテルを出て勿論恰好はスカーフを頭にかぶって人相を見られない様にした。
目立たなそうな車を持ってきて男を押し込んだ。そうして夜明け前にはこの町を出た。
砂埃の荒野をひた走る。目薬を何度入れたかわからん「もう、ここいらで終わりでいいんではないか?」私は男にそう言ったが男は只外を寂しそうに見ていた。
ガソリンスタンドで一度給油する。ほらあれだ。荒野の真ん中にポツンとあるガソリンスタンドだ。店員が一人汚い恰好でいた。こんな所で寂しくないのだろうか?
いや、いけない。一番『無』に近い所はきっとあの草原だ。そう思って店員にあの草原に通ずる地下道の扉を開いてもらい「私の事は言わない様に」そう言って金を握らせた。
そうして私はまた一人であの草原の波に揺られていた。置いてきた男の事など知らない。知ったこっちゃない。勝手に始めて・・・。私にはそんな義理は無い。
さて、これで終わればいいのだが・・・。そう思って微笑んだ。
・・・・。
それで幾らかの時間が過ぎたようだ。私はうたた寝して今、周りの状況を確認した。辺りは夜だった。遠くで狼か?コヨーテか?が遠吠えをしている。いいよしなくて・・・。
真っ黒な海原に私は沈んだ。地球の裏側に着きそうなくらい落下する感覚があって、そして真っ暗な所に着いた。
大きな風見車を見詰めている老人が一人暗闇の中に居て風車は強く回っていた。
「ほら!」嬉しそうにそう言って老人は自分の体を風車にポッキーを少しずつ食べる様に突っ込んで体を刻んでいた。
「なにしてんの?」
私がそう聞くと
「こうすれば風の強さが分かるだろう?」
回る速さで見ればいいのに?
老人はすっかり肉の塊になってしまって。私は頭を抱え首を横に振った。
「治してくれない?」
肉の塊からそう私に助けを求められた。風を見る事と自分の体とを天秤にかけたら、どちらを諦めるべきか、なんて誰にでも分かる事でしょ?と私は老人の助けを一度は断ったが、あまりにも不憫なので風呂敷に老人を詰めて魔法使いか最強の科学者かを探す事にした。どの魔法使いに聞いても「『死者復活』の魔法は禁じられているのよ」と言われるし、最強の科学者達は「肉を繋げる事はできるが命は戻らない」そう言う。じゃあ?どうすればいいの?
後ろから、ひたひた、妙なモノが歩く音がして私の所へ来た。
「私なら治せる」
そう嗄れた声で奇妙な獣がそう言った。
「代わりにお前の命が必要だがね」
私に何の義理が?私は老人の命と自分の命を天秤に掛けて明らかなのは自分の命の方が大切だという事だ。
「他に方法は無いの?」
「無いね」
ああ、面倒だ。私は風呂敷をべちゃっとその場に落とし、そこを歩いて去った。老人は付いて来る事はできなかったが、その嗄れ声はなぜか私を追ってきた。
「本当にいいのか?あの老人をあのままにして心は痛まないのか?」
私は無視した。
「気に入った!!」
必要ないが獣の功を奏した様だ。
「老人を無償で直してやろう」
なら初めからそうして欲しいものだ。
「その代わり少し俺に付き合ってくれ」
「何をするの?」
「話すと長くなるけどいい?」
「まあ・・・いいわ」
「遠い昔に偉大な魔法使いが俺の心に植え付けた一つの制約がある。それを引っこ抜いてくれないか?」
「一体なんの制約?」
「交換条件無しに物事や物体を壊す事が出来ない制約だ」
どういう風の吹き回しだろう?私は「いいわ」と軽く受けてしまった。
「そうか!では目印をよく覚えて」
「目印?」
「そう、これから俺の頭の中に入ってもらうから。魔法使いの棘が刺さった所までの道順を覚えて」
めんどくせ
「まずは良子ちゃんの・・」
「良子ちゃん?」
「俺の少年時代だな」
「初恋なの?」
「そうだよ」
「分かったわ。それで?」
「良子ちゃんがいるから日時計でどっちに行けばいいか聞いて、その方向へ行くと空から落ちるから海に入る前にじめじめした団地のエレベーターに乗って、いいか!!じめじめした団地のだぞ!!それに乗ったらボタンは何も押さずに団扇を扇いだおばさんが入ってくるのを待つんだ。ちなみにそれ俺の母さんね。母さんと同じ階で降りて家に入って俺の学習机でなくてベッドの下の箱を開けて隠してあるエロ本を少し見ろ。そしたら駅の改札で手を挙げて『ダイバージェンスサルベージ』て叫ぶんだ。時計屋の並びに黒い腕バンドの金の懐中時計を見つめる少年が俺だ。そいつには『ロールシャッハテストを!!』そう言って。海の環水平アークが見えたら成功だ。そこでやっと海に落ちなかった事が分かる。独特の味がするが浜辺の熱い時はミチェラーダ{カクテルの名前}が最高だから一杯注文して『キリカンターラ』と言うタブラオ{フラメンコショーがあるバー}のバイラオーラ{フラメンコの女性の踊り手}に『ムーチェス グラシアス ポル トド{今まで本当にどうもありがとう}』と言うときっと彼女は嬉しそうに微笑んでくれるから、そしたら路地を左に曲がって・・・確か?そうっ『デメララ』、鷲の絵の入ったデメララ{ラム酒}を飲んでいる老人二人に話しかけると(確かそれが親父だったわね)方角を示してくれるから森と朝と人混みを抜けてエルブス{円状の雷}が頭上で響いたその中心に行けば、そこが棘の刺さった所ね。全く長いったらありゃしない・・・。
私はそうしてそこに着いた。そこに棘は無かった。あるのは、いや居るのは岩に座った老人が一人寂しくそこにいるだけだった。
「すいません?ここに棘があると聞いたのですが?」
「ああ、あるよ」
「何処です?」
「その棘をどうするの?」
「抜くんです」
「それがどういう事か分かっている?」
「ええ、大体は」
「天文学的に言うなら『均一に開かれた世界』だよ」
ああ!だから私はあの獣の提案を受け入れたのか。
「そうですか。で?どこです?」
「私は魔法使いだ。私は世界を作った。正確には作ったのでなく認識できるように整理した。『混沌』を取り除いたのだ」
ああ、勝手にしゃべり始めたよ。そういう筋道を決めないで欲しいんだけどなぁ・・・。
「『混沌』とは君が獣と呼ぶものの事でそれに制約を与えて混沌ではなくした訳だ。『混沌』の時はあらゆるモノは一つで『量』と言う考え方は無かった。だが『混沌』を取り除いてみると混沌とは無限に近い個体が飽和的に均一に混じった状態である事が分かった。混沌を制約し個々が『量』を持ってこの世界が出来た」
「それは完全に自然に逆らっている行為ではないですか?身勝手なのはあなたでしょう?もし『混沌』を元に戻したいという人が現れたらあなたは断る権利などない。只、あなたが興味本位で「『混沌』を取り除いたらどうなるのだろう?」とやった事だ」
「さて、それは多くの人が望むだろうか?」
「望む人も多く居るわ」
「愛や喜びが無くなってしまうのだよ?」
「悲しみや憎しみもね」
「悲しみや、憎しみがあるから、愛や喜びがある」
「馬鹿じゃないのそれは只の享楽よ。他人に押し付けないで。きっとあなたは自分の全身全霊を使わないと混沌を制約し続けられないと見たけど、きっとそうね。もう遊びは終わりにしましょう」
「鋭いお嬢さんだね」
「あなたは私たち万物を牢獄から出したと思っているだろうけど、その逆よ。あなたが私たちを牢獄へ入れているのよ」
老人は深い意味のため息と微笑みとをして立ち上がった。
「棘は私だ。私が自分自身で抜けようとしなければ抜けない」
「そう、早く抜けて」
「君にいい物をあげよう」
「いらないわ」
「何か聞いてからにして欲しいんだが」
「なに?」
老人はスネークウッドで作られたダイヤルゲージを私に渡した。耳金が無く、ぱっと見は懐中時計の様だったが外枠には12個のダイヤルと測定子が何かの宝石の様で緑に光っていた。
「なに?これ?」
「それは時間を超える事が出来る道具だ」
要らない、要らない、そんなややこしい物は。でも一応貰っておこう。
「では私は抜けるから」
そう言って棘は抜けた。
世界の端から秩序が解けてすべての絵の具を混ぜた様な色に成っていく音がグリグリかビリビリかグチャグチャか何か無理やりの音で鳴っているのを私は聞いた。遠くの海の潮騒を微かに聞き取る様に、その中には肉塊の老人が「ありがとー」と叫ぶ音が混じっていて私は「約束は果たされた様ね」そうぼそっと声に出した。
森羅万象の有象無象が幾星霜、無尽蔵の踊躍歓喜の宴を延々(えんえん)、永遠なのか?沛然なのか?している様だがそれは静かで音が無かった。しかも真っ暗で体も持たなかった。呻吟、快哉、禍福倚伏は常に同時に同じ場所にあり全てのモノが一つとなり『量』を持たず世界は零になった。
苦痛と同時に快楽があり、不幸と同時に幸福があり、不安と同時に安心がある。それは超臨界であるがダイバージェンス(発散)の無い悦楽をあたしに満たした。偉大な魔法使いが言っていた事は正しかったのだ『悲しみや憎しみがあるから愛や歓びがある』楽で思い通りになる人生は愛や歓びが希薄である事は言うまでもない。辛く苦しい道のりを傷だらけで涙を流して踏みしめてきたからこそ死ぬ最後には、心から『いい、人生だった』そう言えるのだ。この『混沌』では後者が常にあってそしてとこしえにその感覚が持続した。
私は満足だった。
が、どの時間なのかここには時間が無いからわからないが・・・。それは『無』ではないという事を唐突に認めてしまった。それはそうだ。どちらかと言うと『無』の全く対極の位置ではないか?あらゆる物が『有る』のだから。
そうして私は偉大な魔法使いがくれた道具を使った。世界は整理され、私は草原で寝転んだ。
溜息を真上の澄んだ空に吐いて私は考えた。
何故?私は『無』を求めるのだろうか?私の存在の意味に対しての帰結的物語を始めようとしている・・・はぁ・・・仕方ない。物語は物語に支配されているのだ。
この世界では私が『無』にこだわる事を疑問に思っている。何もないよりも何か心躍る事や楽しい事があった方がいいに決まっている・・・と。普通ならそうだろう。しかし私の存在に疑問を向けストーリー性に支配させてしまうと意味を持ってしまう。それは根幹的意味で自分さえも知りえない意味である。
もし、私が普通の人間であればこの世界は楽園の様な物だ。冒険や重大な選択を試しにできたりする、恋もあって遊園地の様に来場者を楽しませる。
何が言いたいかと言うと『私を窺った世界』なのだ。私を楽しませるための世界なのだ。だから『無』などと言う概念が否定的であるのだ。その否定的な『無』の概念に私は固執する意味が、私の根幹的意味をストーリー性に支配させた結果である。
私はこの世界に『無』と言う意識を持つ事で抗っているのだ。そしてこの世界は私をこの世界の中に閉じ込めておこうとしているのだ。私の『無』への欲望は私の無意識下のこの世界に対する逃走と交戦で『無』に意味が在るわけでは無くて『無』と言う武器でこの世界と戦っているのだ。それを理解する所までが私の戦いだ。
・・・。
黒い魔女は暫く腹を抱えて大笑いしてから背を向けて去ろうとした。
「永遠に私の作った世界の中で遊んでいるといいわ」
そう言って対する魔女に幻想世界に閉じ込める魔法をかけた。存在とは欲のモノだ。だからその欲を満たすように作られた世界に入れられた者は二度と出てこられなかった。今までこの魔法をかけられた者は皆そうだった。そうやって顔に楽園の悦楽を浮かべてその場で寿命を終えて死ぬ。今まですべてそうだった例外なしに・・・しかし、私は『無』と言うモノを使った。
黒い魔女は魔法をかけて間もないのに目を覚ました私に振り向いて疑問に歪んだ顔を見せた。
「なぜ?」
とても綺麗で若い魔女で、私は「好き」そう言いたかったけど言えなかった。何故なら、それぞれの部位に名前がある程に私の体は分解され丁寧に並べられていたから口も動かせなかった。
黒い魔女は「ふん」と鼻で笑った。この世界で最強の魔女二人なのだから抜かりなく相手を倒さなければいけない。
「なぜ?」今度は私が声に出てしまった。つり革につかまって立っている私の前にゴスロリの黒い恰好をした先ほどの魔女が座っていて小説を読でいて、声が出てしまった私を一瞥する。上から覗き見していたが、これがなんと魑魅魍魎な文章か。こんな格好でこんな本を読んでいてそれで美しいなんて・・・反則だ。彼女に私は惚れてしまった。魅了されてしまった。
声を出したついでに話しかけてみた。
「ねえ?連絡先を教えてくれない?」
黒い魔女は私をボーとみて、スマホを差し出した。
「なんて言う本なの?」
「漏」
会話はそれだけだった。
「おはようございます」
私はバイト先の喫茶店の店長に挨拶して服を着替えた。店長は偉大な魔法使いだ。右奥の席の一人でため息を吐きながらパソコン仕事をしている男が町でギャングをやっつけたつまらない男。入口には狼とコヨーテが遠吠えしている置物。15時に毎回店の前をよぼよぼ通るお爺さんは風車の。蓬髪で寝不足の虚ろな目の汚い男があの獣「何をしている人?」と聞いた事があり作家だそうだ。目の前にあるガソリンスタンドの店員はたまにコーヒーを飲みに来る。暗くなるとガソリンスタンドの淡い光が線の様に見えてそれが『干渉縞だ』
私はカウンターに頬杖を突いてつまらなそうに溜息を吐いた。店長にスカートをあげて妖しくちょっかいを出しても偉大な魔法使いはそんな事では動じ無かった。胸を見せた時も偉大だった。基本的にこの喫茶店は客が少ない。私を雇う必要があるのだろうか?私は退屈している。この退屈が『無』だ。奇妙な物語を『無』で退けてしまうなんて・・・なんと贅沢な・・・。私はこの『無』に価値を見出せない。しかし奇妙な物語の現実は私の理想とは違って不安と苦しみとかそんなモノが伴う事を私は知っているから結局踏み出せないでいた。しかし今朝の通勤電車で私は現実の奇妙な世界に手を振ってしまった。それはあの黒い魔女と連絡先を交換した事だ。何らかのアクションが起きる事を期待している。
「チン」
早速スマホが鳴った。隠す事もなくスマホをいじった。例の魔女から「助けて」と来ていた。私は高鳴った。履いていたTバックを脱いで店長に渡して店を飛び出した。私は矢継ぎ早に質問する「どういう事?」「どうしたの?」「どこにいるの?」
黒い魔女は山の中にシャベルを持っていた。
「殺しちゃった」
そうさらっと言うとその荒い息の理由となった穴の中に男が一人横たわっていた。
「え?」
恐ろしく急展開で私はその男と魔女とを交互に見続けた。
「一応、掘ったんだけど浅い気がするのよね。だから、もっと深くするの手伝って」
二人で堀に掘った。地球の裏側とは言わないが5メートル程掘ったのではないか?
そして男を投げ入れて埋めた。
「ふぅ、助かったわ」
私は以前唖然としていた。
魔女は私が共犯だと言って私を洗脳して私を支配した。魔女の住む世界は爛れていて不衛生だった。怖そうな男とのエロいパーティーに参加させられて「ほら、強い男を捕まえて貢いでもらわなきゃだめよ」そう強要した。私は連夜乱暴に抱かれながら、あのつまらない男を思い出して懐かしんでいた。ギャングに一人で立ち向かって行こうとした男の事だ。傷は治っただろうか?一体どんな大義名分を持って一人で組織丸ごと破壊しようとするのか?私が居れば私がその大義名分になるが・・・。
そこら中で喜怒哀楽の色んな雄叫びや悲鳴やらが上がっていた。その中に私の耳を引いた音を捉えた。何の変哲の無い事なのだが・・・どこかの戸枠にぶら下がっているビーズが付いた暖簾を誰かが揺らす音。この魔窟に誰か入って来たのだ。
暫くして「俺の女に手を出すな」そう聞こえた。私を抱いているこんがり焼けたマッチョの後頭部に拳銃が押し付けられた。見ただけではわからないがきっとマグナムだろう。人の頭を打ちぬくのは難しい。あのギャング男だった。もう一つ蹄をコツコツと鳴らす足音がして部屋の中央でぎょろりと周りをあの獣が見ていた。気づいた時には偉大な魔法使いが私の傍らで立っていて私を見下していた『レギュラー満タンです!!』と爽やかにガソスタ定員が言って、そこによぼよぼ歩いてくるお爺さんを全員静観した。お爺さんはTバックを震える手で握りしめていた。私のだ。ゆっくり私のもとに来て「助けてくれてどうもありがとう」と言って私にTバックを握らせ、私の手を優しく叩いた。私の妄想大集合と言った所だ。
黒い魔女が全裸のまま私の所へ走り寄ってきて呪文を唱えた。不思議と何を意味する呪文か私には分かった『分解の呪文』私の意識を・・・一つの帰結へ向かう私の認識を私が理解できない程に分解しようとしている。
そこに偉大な魔法使いが立ちはだかった。目元をぴくぴくさせて黒い魔女は偉大な魔法使いを睨んだ。偉大な魔法使いは黒い魔女を抑えながら呪文を言う覇気が無くてボソッと呟いた。そしてそれは黒い魔女に対してでは無くて私に対してだった。その言葉が一体何が真実か私に明確にさせた。
「おきなさい」
「でも・・・またすぐに精神世界に落とされてしまう・・・」
「君にプレゼントしたものがあったね」
「時計の事?」
「状態は既に把握できているはずだ。即座に再生の魔法を使いなさい」
「ありがとう」
私は時計を使って行くべき時間へと針を合わせた。
黒い魔女は暫く腹を抱えて大笑いしてから背を向けて去ろうとした。
「永遠に私の作った世界の中で遊んでいるといいわ」
そう言って対する魔女に幻想世界に閉じ込める魔法をかけた。存在とは欲のモノだ。だからその欲を満たすように作られた世界に入れられた者は二度と出てこれなかった。今までこの魔法をかけられた者は皆そうだった。そうやって顔に楽園の悦楽を浮かべてその場で寿命を終えて死ぬ。今まですべてそうだった例外なしに・・・しかし私は時計を使った。
黒い魔女が『なぜ?』と口に出す前に再生の呪文を強烈な意識で行使した。
バラバラだった私の体は一瞬のうちに再生し黒い魔女と対した。
私は黒い魔女にやさしい微笑みを向ける。黒い魔女は「くっ」とギリギリと歯ぎしりをして私を睨んだ。
「さすが世界最強の白魔女だけあるわね」
「あなたもゴスロリの恰好半端じゃなく可愛かったわ」
「何言ってんの?」
「私たちが戦っている目的って何?」
「最強の座よ」
「そんなのはあなたに譲るわ」
「そういう問題じゃないのよ!」
」