表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/25

5 ダメ人間でもいいのに


 トントントン、と小気味いいリズムにつられて、俺は薄く目を開けた。


 温もりが残る布団。

 隣で寝ていたユナの姿はもうなく、その音を(かな)でているのはユナだと推察できる。

 結構寝てしまっていたらしい。


 微睡(まどろ)んだ思考は心地よく、否応なしに二度寝へと(いざな)おうとしてくる。


「ふぁ……」


 だが、いつまでも寝ていられない。


 欠伸をして、誘惑へ逆らうように布団を退()ける。

 ベッドから起きて身体を伸ばせば、パキパキと関節が小さく鳴った。


 それからリビングとキッチンに顔を出せば、案の定エプロンをつけた料理中のユナがいる。

 食欲をそそるコンソメの香りが漂うキッチン。


「ん、起きた」

「ユナの方が早かったな」

「もうちょっと待ってて。すぐできる」

「手伝えることはあるか?」

「出来たら運んで」

「りょーかい」


 返事をしつつ、調理の様子を盗み見る。


 (ふた)が落とされた鍋の中身は買い物のときにリクエストしたロールキャベツだろう。

 別の小鍋では彩り豊かな具材が煮られたポトフ、豆腐を主体にしたサラダは既に大きな皿に盛り付けられていていた。


 ユナは家にいた頃から料理が好きで、たびたび作ってもらう機会もあった。

 味については心配していない。


 今日はユナが一人で調理したいのだろう。

 一応俺も料理は出来るが、ユナほどうまくはない。


 後で家事の分担とかも決めておかないとな、と考えつつ、夕食の完成を待つ。


「――できた」


 すると、ユナがひょこっと顔を出した。

 呼ばれてキッチンに行ってみれば、盛り付けもされた料理が並んでいる。


 コンソメスープの海に並んだ二つのロールキャベツ。

 同じくコンソメベースのポトフにはにんじん、タマネギ、ジャガイモなどの大きめにカットされた具材が浮かんでいた。

 豆腐とレタス、トマト、コーンなどが和えられたサラダも美味しそうだ。


 リビングのテーブルに運び、席に着いたところで夕食の時間となった。

 手を合わせて、ユナに勧められるので先に頂く。


 ロールキャベツを箸で一口大に切ると、中から閉じ込められていた肉汁がじわりと溢れ出る。

 そのまま口に運び、咀嚼(そしゃく)

 噛むたびにほろほろとコンソメの染みたひき肉の種が崩れ、それがキャベツの甘さと溶け合って思わず頬が緩んでしまう優しい美味しさだった。


「……美味い」

「ん、よかった」


 端的な一言だったが、ユナはそれに気を良くしたのか目を細めて微笑(ほほえ)んだ。

 もっと言葉を考えろというのはその通りなのだが、真っ先に浮かんだのがそれだったのだから仕方ない。


「これからもいっぱい作る。いっぱい美味しいって言って欲しい」

「任せろ。毎日美味しいって言うから。それと、俺も料理するぞ? まかせっきりは良くないし」

「任せてくれていいのに」

「それは……同居なんだから、二人でやるべきだろ。いくらユナが良いと思っててもさ。俺がダメ人間になる」

「ユナ的にはダメ人間でもいいのに」


 男としての甲斐性(かいしょう)を考えると遠慮(えんりょ)したい。


 前々から思っていたけど、ユナは俺を甘やかしたい欲があるのだろうか。

 時々見せる幼馴染以上の距離感はその表れと考えれば納得できる。


 だが、同じくらいに甘えたがりで(さび)しがり屋なのも知っている。

 実家にいた頃からよく引っ付いてきたし、昼寝をしていたときに抱き着いてきたのも延長線上。

 スキンシップが過激すぎる気はするものの、それは信頼の裏返しだ。


 それを裏切りたくはないし、裏切る気もない。

 ユナの両親にも任せられている。


「そいえば、家事の分担どうする? 朝は俺が作った方がいいよな」

「ん。起きれない。じゃあ、ユナが夜担当」

「おっけー。掃除洗濯は一日交代、ごみ捨ては基本的に俺がやるよ。ユナには重いだろうし」

「いいの? それだとエイジの負担が大きい」

「むしろユナを動かしてたら男の矜持(きょうじ)的な何かが減る。だから気にせず任せてくれ」

「……わかった。なら、休みの日のお昼はユナがやる」

「まあ、そんな厳密に守る必要はないけどな。二人で作っても面白いだろうし。できないときは変わるからさ」


 二人で暮らすのだから、助け合うのは当然だ。

 ユナも納得しているのか、もぐもぐと口元を動かしつつ頷く。


 とりあえずの役割分担が決まった頃には、俺は完食していた。


「おかわりある」

「……なら貰うか」

「ユナが持ってくる」

「そこまでは――」

「いいから」


 俺よりも先に椅子から立ったユナが、空になった皿を持ってキッチンに消えていく。


 そこはかとない新婚感……いやまあ幼馴染ではあるんだけどさ。

 甲斐甲斐(かいがい)しいユナのそれはありがたいものの、くすぐったさを感じてしまう。


 ちゃんと俺もユナを支えないとな、なんて思っていると、おかわりの皿が目の前に置かれた。

 コンソメの香り、その美味しさを知っているからこそ頬が緩んでしまう。


「まだあるから」

「かなり作ったな」

「実質初日だから張り切った。それに」

「それに?」

「今日はたくさん栄養補給したから元気」


 いつになく上機嫌な表情でユナが呟く。

 ユナはあまり表情を動かす方ではないが、今回のはわかりやすい。


 それにしても栄養って何のことだ?

 間食でもしたのだろうか……にしては普通に食べてるし。


 うん、わからん。


 聞いても教えてくれそうな雰囲気ではないし、俺はユナの料理を食べるので忙しい。


「美味しそうに食べてくれるの、嬉しい」

「だって美味しいからな」

「ん。明日も明後日も、これからずっと美味しい料理作る」

「楽しみにしてるよ」


 素直に思いを伝えて、おかわりのロールキャベツに舌鼓(したつづみ)を打つのだった。


読んでいただき、まことにありがとうございます!


もし少しでも「面白い!」「早く続きが読みたい!」と思っていただけましたら、


よろしければブックマーク、ポイント評価をお願いします。


広告↓の【☆☆☆☆☆】から評価できます!


モチベーションにも繋がりますので、是非ご協力お願いします!


もう少しで日間ランキングに入れそうなのでご協力お願いします!!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『図書室で助けた美少女と本物の恋人になるまで』もよろしくお願いします!!図書室で出会った二人が恋人になるまでのじれじれ初恋ラブコメです!!10/31に完結予定です!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ