1 幼馴染と二人だけの同居生活
寝起きのぼんやりとした視界に映ったのは、あどけなさの残る美少女の寝顔だった。
傷のない白く滑らかな肌、伏せられた長い睫毛。
花の蕾のような唇は瑞々しくハリがある。
ふっくらとした輪郭はとても柔らかそうな曲線を描いていて、つい触ってみたいと思ってしまう魅力があった。
呼吸のたびに少しだけ上下する掛布団。
見た目通り熟睡しているのだろう。
薄い水色のパジャマから覗く肩のライン、そこにかかる水色の紐に目を奪われつつも、心の中で首を振る。
無防備な寝顔を見せているのは俺を信用してくれているからで、それを裏切るような真似はしたくない。
手元のスマホで時間を確認――まだ七時前。
急ぎの用事はないからと、しばらく可愛い寝顔を観察していると、閉ざされていた目がゆっくりと開いていく。
「……ん」
喉を鳴らして、目と目が合う。
そして、寝ぼけまのこのまま、にへらと頬を緩めて笑んだ。
「おはよ、ユナ。よく眠れた?」
「……おはよ、エイジ。まだちょっと、眠い」
「昨日は色々あって疲れただろうからな。二度寝しててもいいぞ」
同じベッドで眠るこの女の子は成瀬ユナ。
俺の幼馴染で――高校二年の夏休みから一つ屋根の下で一緒に暮らすことになった同居人だ。
引っ越してきたのは昨日のこと。
年齢に対しては小柄な身体には、まだ疲労が残っているのだろう。
ユナは小さく頷いて、
「エイジも、一緒に。……ダメ?」
上目遣いで、とろんとしたクルミ色の瞳が向けられる。
まさかダメと言えるはずもなく「いいよ」と頷けば、ユナは掛布団の中で両腕を伸ばしてきた。
そのまま流れで緩く抱きしめられ、ユナの顔が近づく。
寝間着越しに触れるユナの身体は柔らかく、どこか甘い匂いがした。
理性を崩しにかかる無自覚の誘惑に耐えながら、ユナのそれを受け入れる。
突き放すことは出来ないし、したくない。
抱き枕になるだけでユナが幸せなら喜んで身を差し出そう。
そのために、俺はユナといるのだから。
ユナを同居することになったきっかけは昨年の12月……ユナの家でクリスマスパーティをしていたときのことだ。
パーティが終わってから親に「大切な話がある」と呼ばれ、
「――エイジ。来年の春から地方の学校にユナちゃんと転校する気はないか」
そんな話を聞かされた。
俺の家とユナの家は隣同士で仲が良く、家族同然の付き合いをしている。
物心ついた頃から一緒にいることが多く、小学校、中学校、高校とその縁は続いたのだが……高校一年の夏休み明けに、ユナが不登校になった。
後から聞いた話だが、ユナはいじめられていたのだ。
一番近くにいたはずの俺が気づかなかったのは、学校では別のクラスで、ユナが俺の前では何もないように振舞っていたから。
ユナは誰にも言わずに耐えていたが、遂に限界が来てしまったのだろう。
きっと親や俺に言えば迷惑になるとでも考えたのかもしれない。
ユナはそういう、一人で抱え込むところがある。
それから俺は毎日ユナの元を訪れた。
幸い拒否されることはなかったし、意外と元気な姿を見せてくれた。
二人で話をしたり、ゲームなんかをして過ごす日々。
ユナは少しずつ元気を取り戻して、「学校に行きたい」とこぼすようになった。
だが、学校にはまだユナをいじめた奴らがいる。
今のままでは二の舞になるのはユナもわかっていた。
転校という選択肢は、そんな矢先の提案だった。
「もしも転校してくれるのならユナと二人で住んでもらうことになる。ああ、生活費と学費の心配もいらない。それは大人に任せなさい」
「いやでもユナは――」
「うちの娘はエイジ君ならいいと言っているよ。むしろ、エイジ君になら安心して任せられる。……娘の都合で悪いが、頼む、この通りだ」
ユナの家の両親が俺に頭を下げていた。
慌てて止めようとするも、俺の親も無言の視線で「任せる」と言っている。
俺は熟慮し、その場で首を縦に振った。
「わかりました。ユナのこと、任せてください」
後悔をしないために。
ユナとまた学校に行くために、俺は提案を受け入れた。
春の予定が夏に延期されたものの、諸々の手続きや用意を済ませ、親元を離れて今に至る。
「……それにしても、一緒のベッドで寝るのは心臓に悪いな」
ユナの寝顔を眺めつつ、予算の関係で一つだけになったベッドに小言をこぼす。
親の金で二人暮らしをさせてもらっている関係上、なるべく節約はしたい。
引っ越してきたマンションは1LDK。
俺の父親の友人が所有している物件を一部屋貸してくれたのだ。
トイレと風呂は別で、エアコンも完備。
ユナがいるために、セキュリティ面でも相応に強固な場所を選んでもらった。
個人部屋はないものの、親元を離れて二人暮らしをさせてもらっているのだから俺に文句はない。
ユナ的にはどうなのかと思うものの、そこは俺が気を付けよう。
転校先の学校は徒歩十分。
駅も同じくらいで、近くにコンビニやスーパーもあるので不便はしなさそうだ。
ここで少なくとも卒業までの間、ユナと二人で暮らすことになる。
そもそもユナの両親は娘を男と一緒のベッドで寝かせて心配じゃないのだろうか。
手を出すつもりはないけど……俺だって男だから、そういう欲求はある。
それも、ユナのように魅力的な女の子となればなおさらだ。
だから今も……実は結構危なかったりする。
身体のあちこちに柔らかい感覚が当たってるし、寝息が首元にかかってこそばゆいし、心臓がずっとバクバク鳴っている。
昨日寝れたのは疲れていたからだろう。
というか、これが今後も続くのか。
……頑張って慣れよう。
そのために新学期が始まる前の夏休みに引っ越してきたのだから。
「エイ、ジィ……」
甘さを残したユナの寝言。
子猫のようにすり寄ってくるユナに苦笑しつつ、これからの生活に思いを馳せるのだった。
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