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依頼NO.003 約束された勝利を掴んだ男

 全てにおいて勝つ。なんと甘美な魅惑の言葉だろうか。努力の必要なし、素振り?血統?それは掛ける必要のない休日のアラームと同じなのだ。見た前、金の鎧を着た筋骨隆々の剣聖が、一度も膝を着いたことがない天賦の才が、血反吐を吐きコロシアム(どの世界でも人間は戦いを娯楽としているものだ。)の壁にめり込んでいる。ただ一人、皮の鎧の男が空を仰いでいる。剣は粗末な金属の塊。試合の序盤は剣聖の磨かれ続けた剣技が見せられていたというのに、皮の男が一言「スキル発動」と叫んだと思えば、筋道があるかの様な試合と化した。時間、才能、努力、熱意、血統がまるで下らぬ要素の様に見えた。男が剣を振った瞬間剣聖は吹っ飛び今の有様。賭博士様やパトロン様達の悲痛な叫び声は山に響く猿声の様に響き渡る。フルーツエールに似た酒で喉を潤す。今このコロシアムの客で喜んでいるのは、男の観客席の家族や友人と大穴狙いのあぶく銭患者だけだった。

 思い起こすと久しぶりの神様からのご依頼だった。夢枕にて黒い布で顔を隠した少年は「仕事を頼みたい。パワーバランスを間違えたのだ。」と仰った。そうこの少年こそ、この世界の神だ。

 「承りました。して、能力は?」

 「全てに勝つ能力だ」神様は笑いながら奏せられた・

 「それは、それは..厄介な。文字通りですか?」

 「文字通りじゃ」

 「神にも?」

 「勝つ」

 「魔王にも?」

 「勝つ」

 「貴方様にも?」

 「それはわからん」

 「なんでそんなのをお作りで?」

 「可哀想での、不憫での」私はまじめに努力しているこの世界の彼らは可哀想ではないのか?と言う言葉を飲み込んだ。神は気まぐれなのである。神のお目に留まり、同情されただけでこういう事が起こる。そして神様はその慰めた者の処理を私に頼む。現代の神様はとてつもなく賢いお方だ。事実今回の様な事例を数える程度しか行っていない。

 「殺しのご依頼で?」神は殺害しか頼まない。人の依頼主は目標を行動不可能にするだけで満足するが神は恥を消したいと思う一心だ。

 「うむ」

 「お任せあれ」


 と言う事情で今に至る。私はそそくさとコロシアムから抜けて、対象家族を尾行した。だが、私はしがないサラリーマン彼らの仲間のスキンヘッドの男にナイフを突きつけられた。

 「バレバレの尾行をすんじゃねぇよおっさん」おっさんではない。今年で..?。まぁ年齢なんかどうでも良いじゃないか。問題は私の利き手の骨折と全身の打撲である。完膚なきにまで叩きのめされた。現代の一般男性がスキルやゾンビにドラゴンがありふれた世界のスキンヘッドに勝てる訳がない。現代社会の小太りのスキンヘッドのもペコペコするしかないと言うのに。

 「弱いのぉ?」金髪の少年がゴミ捨て場で伸びている私に話かける。

 「神様..せめて彼らの情報を教えてください。正確な依頼書が必要です」

 「なんか、あいつを超えるチートで殺してくれるもんかと思っておったのだがのぉ」少年に変身した神様は空中に指で文字を書く。一通り書き終えると黒い煙が発生し、そこに手を入れると手は蜃気楼の様に消え、煙が消えると浮上した潜水艦の様に手は現れ依頼書を持っていた。

 「チートを殺すのにチートを使っていたら本末転倒です。インフレの加速化が進むだけですよ」依頼書に目を通す。

  

 イライジャ・デモフ 36歳

  

 スキル ”絶対勝利”すべてで勝利を収める

 好きな者 ”妻に娘”

 好きな食べ物 ”妻の手料理”

 現代日本出身、本名 田中 泉賀場。東京都の公立高校からの下校中にトラックに引かれて異世界転生。ある程度の剣術スキルは持っていたが努力をせず、毎日不平不満を空にぶつけていた為、現能力を授けた。


 イライジャ・アライジャ 22歳

 

 デモフの妻。奴隷出身。特記能力なし

 

 イライジャ・ミント 4歳

  

 デモフの娘。特記能力なし。


 以下モブ10名。特記能力なし。



 呆れた。なんて杜撰な依頼書だろうか、それに努力をして生きている人間を一纏めにしてモブ呼ばわり。神様失格だ。主観でしかモノを捉えれない子供。容姿そのままの精神性。だがいつもこんなモノだ神様は、仕方ないのだ。私は私の仕事をするだけだ。

 「ありがとうございます。神様」と形式上の言葉を吐いた。


 そして4日程経ち、痛む全身を引きずり私はデモフの家の戸をノックした。返事はない。失礼しますと一言添えてドアを開けた。家族と鍋を囲んでいたであろうデモフは椅子から滑り落ち、皮下脂肪やらの身体の貯蓄したエネルギーを消費して生きようとしていた。デモフはその胸に亡骸となった可哀想なミントを抱き私を乾いた目で見つめていた。そして、喉を震わし「ころ..して」と呟いた。私は自分の行った非人道的行為に胸を絞められた。彼は漢だ。科学的には動かぬ筈の体を動かし、こと切れそうな娘を抱いたのだ。神さえいなければ彼ら家族は幸せに生きれたであろう。私はナイフで彼の脳漿を壊して結果報告に向かった。仕方ない仕事だから、チートに頼った罪だ。


 「神様。」と私はコロシアムの観戦をしている少年に声をかけた。

 「なんじゃ?」

 「終わりました」と私はデモフから切り取った面の皮を見せた。

 「ど......どうやって殺したんじゃ?」

 「ナイフで」と私は血痕のついたナイフを見せた。

 「違う違う。どうやって殺しまでもっていったのじゃ?」

 「.....特殊な遺伝操作を施したバクテリオファージを野菜に仕込みました。そしてそれは中枢神経や小脳の細胞にだけ自身のゲノムを注入し複製します、またこのファージは最初に注入された細胞の遺伝情報をコピーします。そしてそれに気づいた免疫細胞、つまりヘルパーT細胞や白血球などは汚染された細胞とそうでない細胞の違いも判らず殺して回ります..その結果として」神様は話を遮った。

「待て。待て。そういった法則はそちらの世界だけじゃ。もう少しこの世界にあった言葉で説明してくれんか?」

「はい。え~。まずデモフを国に例えます。最強の」

「ふむ」

「...ゾンビ。その国の王様や王子様または役人がゾンビになりました。そしたらどうなりますか?」

「アンデットを人に戻す秘術を賢者が行うの」

「賢者や魔法使いは死に絶えました。ゾンビ化は不可逆です」

「まぁ..となると..殺すの..その国の軍隊が。」

「はい。ではその国は以前の国の様に活動できますか?」

「できぬの。軍閥が台頭すればできるじゃろが」

「人体はそんな流動性はありませんよ。デモフと言う国家は活動不能になりました。しかし民を貪るゾンビは絶滅しました全てに勝つ軍隊のおかげで、そして残念なことにその日はハロウィン、正常な役人もゾンビと間違えられ殺されてしまったのです。そうして、最強の軍隊を残したまま国は滅亡しました。」

「ふ~ん。そうか、金は送っておいた。」神は気まぐれ。もう彼には興味を失くしてしまったようだ。




「..あの奴隷剣士の少年..可哀想じゃの..」

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