依頼NO.002 銀河最強のヒーロー
又、一つの星が戦いによって崩壊した。ミスターグリーリーと呼ばれる完全無欠のヒーローが異星の侵略者を倒したのだ。見るからに悪党の男が私と机を囲んでいる、紫色のスーツに同じ色のハット,インナーはゼブラ柄のシャツ、キャラが立ち過ぎだ。ラム&コークを飲み干し、男は語り出した。
「さすがのアンタでも不可能だろうな。あの男を殺すことは」男はニヒルな笑いを浮かべながらヒーローの映るテレビを見た。みるみる内に青筋が立ち、グラスを投げつけた。ストライク20インチの液晶テレビはただのガラクタになった。
「月並みな言葉ですけど、不可能はありません」
「光速より速く動き、10兆度の熱に耐え、巨大惑星を一撃で破壊する。そんな規格外のヒーローをどうやって殺すってんだよ!?」男は私を今にも殺しそうな勢いで叫ぶ。他の客はそそくさ逃げていった。店員の黒人男性が男に文句を言った。
「悪党は廃業しな!グリーリーは絶対に倒れはしないんだからよ」
「うるせいぞ!ぶち殺してやる」男は懐からリボルバーを取り出し突きつける。店員は叫ぶ。
「助けてくれ!!グリーリー!」店の電球が点滅した刹那のことだった。悪党の手からリボルバ―は消え、私の右手側の席に茶髪のオールバックの180cmはある男が座っていた。右手にコカ・コーラを持って笑っている。机の上には小さくまとめられたリボルバーが佇んでいた。
「ゼブラ伯爵、悪事は辞め給え。どこにいても僕のファンが僕を呼べば光の速度で僕が来るってことをそろそろ覚えてくれないか?」ゼブラ伯爵は体をねじの壊れておもちゃの様に震わしながら懺悔した。
「すまない、ほんの出来心だったのさ」と云っている途中に電球が点滅し,グリーリーは消えた。
「.....なぁ....ナラシンハさんよこんな怪物を始末できるのかい?」店員はいい気味だと笑い、ビールを飲んだ。
「毒は?」
「効かない。神経毒に混合毒、自然界の最上も科学界の最上の毒も効き目なし。放射能だって効きやしない」
「........」
「なぁ.......できるのかい?」
「で..きィ...ますとも」と私は苦虫を噛み潰したような顔で笑った。
ゼブラ伯爵の疑惑の目に耐えながらミルクを飲んでいると一人の美女が店に入ってきた。整った顔に長い金色に輝く髪。灰色に光る眼。素晴らしいプロポーション。ミス・ユニバース間違いなしの美女だった。
「パパ!また仕事を辞めて!そんなんだからママと離婚するのよ」父親?この店には伯爵と私に先ほどの店員だけ、伯爵は論外として店員の子供?今現在進行形で働いているのに?となると私?私がパパ?
「アンナ....そんなこと言うなよ」伯爵はニヤニヤしながら笑っていた。
「.....伯爵...依頼内容を精査してもいいですかね?グリーリーを解決すれば良いんですよね?」
「そうだよ」
「パパ!そんなの無理よ、貴方も死んじゃうわよ?」
「.....グリーリが貴方の邪魔にならなければ...良いんですよね?」
「できんのか?」
「できますとも、ミス・アンナの協力さえあればね」
「私?」
「えぇ.....ペンは剣よりも強し。ペンを動かすは初恋のインク」
「つまり?」
「グリーリが性欲を持たないゴーレム出身だったら、非人道的行為が必要でしたが、彼は人です。そして正義の”心”がある。花を愛でるのには眼と心が必要です。彼は二つともある」
「回りくどいな」私は伯爵に耳打ちする。
「愛した娘の父を殴れますかね?正義漢が」伯爵は悪党のように甲高く笑った。
人が人を愛するとき容姿だけで十分だろうか?もしそうなら、ハリウッドスターはどんな女性とも付き合えるのか?それは違う。問題は状況とタイミングだ。同じ道で、同じ時間に躓くだけでも恋は発生する。しかし相手は銀河最強の男。並大抵の状況だと駄目だ。助けを求める世界中の人々の声を忘れるような素敵なタイミング。そこである実験を思い出した。ある実験を行うと、人は類似性に好感を持つといった結果がでた。そして彼は銀河最強。裏返せば銀河でただ一人の男。孤独だ。以上を踏まえて私が考え付いたのは、ミス・アンナを銀河最強のヒロインにすることだ。
まず、ゼブラ伯爵も参加している全国悪党會にて協力を要請した。何人かは不満を述べたが、他にいい提案を出せれなかったので渋々承知した。以外なことに悪党も民主主義なのだ。そこから連日連夜のリハーサルにレッスンだ。著名な演出家や映画監督に作家、詩人までも参加した一大プロジェクトになった。プロジェクト名”ミューズの誕生”と誰かが言い始めた。
まず、最初に悪魔皇帝デムーロ率いる悪魔軍団の最終基地をドラマチックに爆破した。そして炎上する基地から何百人もの人質を抱えミス・アンナ扮するミス・ミューズはカメラの前に立ち決め台詞を吐く。
「一日一善」ちなみに人質とアンナを浮かせるために数十人のサイキッカーの力が必要だった。総テイク数640回。悪魔皇帝は打ち上げの時泣いていた。悪魔もローンには敵わないらしい。
次に超人悪党ナーサリーとの決戦を撮った。島の形を変える程の演出での戦いだった。前作..失礼前の戦いとその美しさにミス・ミューズはお茶の間の人気者になった。そのころミスタ・グリーリは数光年先に量子テレポーテーションで飛び、ホンモノの史上最強の超人と戦っていた。
グッズも飛ぶように売られ、ミス・ミューズ社は上場を果たした。だがそんなことが目的ではないとゼブラ社長は全国数万人の社員に中継にて語る。
「我々の目的は愛の成就である!!銀河最高の愛をプロデュースするのだ。かの大作家も大詩人もできなかったことをするのだ!!」社員たちの目に情熱の炎が燃えた。目的と過程を混合しているが、その情熱に私も感化されて労働意欲がわいていた。
24人目の悪党が倒された時、緊急会議が開かれた。
「マンネリ化している。一作目の様な真新しさがないのだ。」フォーマット監督が吠える。
「だが、客の評価も批判家の声も悪くないだろう?」数光年先からはらばるやってきた青い皮膚の超人はかたる。
「敵は自分だ!」監督はコップを超人に投げつける。監督の剣幕に超人は涙目になることしかできない。
「ゼブラceo...次をラストにしましょう。これ以上は拝金主義だ。」
「つまり?」
「銀河最高のラブロマンスを作ります」
「.......よしやろう」
わが社の威信を賭けた作品を作り始めた。フォーマット監督はこう語る。「愛に銃やサイキックは不要なのです。年頃の少年少女が同じ作家の本を持っていれば始まるのです。そこに生まれる閃光を撮れれば私は死んでもいい」彼は末期がんを社員に告白した。それはこの作品が遺作であることを意味し、悪党どもの目に感謝の涙が光る。
秋の夕暮れ、冬の冷たさを着こんだ風が少女に吹き込む。人肌恋しい季節、と寂しくつぶやく。前の路地裏から、青い肌の超人との再戦に勝った少年が出てくる。少女は気づかず歌う、少年の好きなロックバンドのラブソングを。少女は少年に灰色の瞳を流し目で送り、次のフレーズを歌う。クシュン。寒さがくしゃみを読んだ。そのとき全社員の念で生まれた冷気が吹く。少年は緑の血が付いたジャケットを少女の肩に掛けた。恋が始まった。銀河最強の愛の芽が出た。
報酬を受け取り帰った。銀河最強は愛におぼれたのだ。愛に殺してやったのだ。これは....殺し屋か?。次からちゃんと殺し屋らしい仕事をしよう。
ワンパ〇マンの倒し方