午前会議
勇者引きこもりの報告を受けてから数日後、遠隔での会議が開催された。
「勇者が引きこもりとは困りましたね」
真っ先に口を開いたのは女性かと思うほどの美貌を持つ銀髪の美少年の厚労相だった。
「魔王様、勇者に関する情報はどこまで把握していらっしゃるのですか?」
魔王様に配慮しながらも鋭い切り口で迫る老齢の防衛相は、セミロングで黒髪の青年である外務相の様子も伺っていた。
オジサマ魔王は閣僚の目を見て話し出した。
「大使及び大使館付き駐在武官からの報告は受けている。現在、勇者は担当部署を経由して5次下請けとなる担当機関から職位を受けている。非常勤の給与形態で3年半の任期となる非正規労働者でまともな道具も買えず精神を病んで実家に引き込んでいる」
「本当に文明国かと疑いたくなる」
法相はこの他にも問題となっている彼の国の法の濫用ぶりにも嫌悪感を持っていた。
「彼の国は汚染物質を海洋に放出することになった理由についても情状酌量の余地がない。そして、自国民へのこの扱い。酷すぎる」
農水相は禁忌を取り扱う免許試験も導入しておいてこの有様だということに頭を抱えずにはいられなかった。
「間接民主制であり、その責任が彼の国の国民である、ということだけが唯一の救いだと思うことにしましょう」
他の閣僚の怒りに同意しながらも輝く瞳が綺麗な金髪少年の副相が皆を宥めた。
オジサマ魔王は、副相に感謝しつつ、勇者について再び語り始めた。
「勇者は精神を病んでおり、4日以上休みをとっている。担当機関でこの問題は認識されておらず、組織的な問題に端を発しているとは考えてもいない。国民には知れ渡ってはいるが、勇者の仕事振りを非難する声が大きく聞こえている」
「大きく聞こえているというのは政府の監視の及ぶ表の範囲でということですね」
文科相が極めて冷静に言葉を発した。
「その通りです。実情をわかっている少数者は問題を認識しているようですが、少数者であるため政治的な力はありません。勇者の引きこもりという反道徳性を表に出し、問題の本質を隠して次の生贄を探して勧誘しているのです」
「現在の我々の経済レベルにおいて戦争を仕掛ける理由はありません。戦争になれば戦時国債を発行する必要がありますし、例え勝利しても管理可能な権益は無く、他国からの借金と我が国民への徴税負担が重くなるだけです。彼の国は自国民を犠牲にしても貴族階級に近い立法府の世襲の者たちとその周りだけ潤えば良いと考えているのでしょう」
経産相は防衛相の顔色を伺いながら慎重に言葉を発する。
その様子をじっと見ていた外相は慌てて口を挟む。
「未だ正式な宣戦布告を彼の国からは受け取っていません」
副相も防衛相を睨んで“文民統治だからね!”と念を押す。
オジサマ魔王はこの閣僚を纏めるのも大変だなと思いながら天を仰いで重い息を吐き、午前中の会議をここで一旦終了とした。