97・サーラ 覚醒
わたし、告白します。
わたし、魔族語わかりません。
馬車が転倒した瞬間、わたしは以前洞窟のおじいさんの所で体験した、あの感覚に包まれました。
転移です。
転移した先でいきなり、悪魔のような容姿の巨大なものと対峙していました。すごく怖いです。
直感で四天王だと感じましたが、その貫禄はすでに魔王と呼んでもいいような佇まいでした。
真っ黒で大きいです。一つ目の鬼よりおっきく見えます。
わたしが現れた瞬間こそ、驚いた様子でしたが。すぐに睨まれました。怖いです。
その形相はまさに悪魔で、とても直視できません。睨まないでほしいです。
そしてただでさえ怖いのに、わざわざ『威嚇』まで発動したようです。
止めてほしいです。本当に怖いのです。ぷるぷる震えてしまいます。漏らしそうです。
「من∥ أين Ⅲأتيت؟x هلДИ ⅱتريد 〇الموت؟∩」
何か言っていますが、わたしに魔族語はわかりません。
何が言いたいのでしょうか。
でも顔は怒っているようです。とても怖いです。
どうすればいいのでしょう。あやまったら許してくれるのでしょうか。
わたしは平和を意味するという、ピースサインというのをやってみました。
ぶいっ。
するとなにやら悪魔さんは余計に怒りだしたようです。何故でしょう。納得がいきません。
もう全然意思の疎通が出来ません。未知との遭遇です。歌でも歌えばいいのでしょうか。その歌で文化に目覚めればいいと思います。
あっ悪魔さんの背中から何かが出てきました。……触手のようです……それも一本や二本じゃありません。
百本はあろうかという触手が蠢いていました。
「や……やだ……」
わたしは戦慄しました。あんなに気持ち悪いものを見たことがありません。黒くて、テカテカしていて、ぬめぬめしていそうです。そんなものが百本も!
ゆっくりと近づいてきました。嫌です、汚らわしいです。
わたしはあんな気持ちの悪いモノに、汚されてしまうのでしょうか。鞭のように打たれ、貫かれ、絡め取られる姿が想像できました。もう生きた心地がしません。
目の前にまで近づいてきました。もうだめです、お婆様。先立つ不幸をお許しください!
わたしは怖くて目も開けられずに、お婆様の杖をぶんぶんと振り回しました。
「やだ……やだ……やめて……わたしを……汚さないで……お願い……ゆるして……ごめんなさい……痛く……しないで……こわい……こわいです……こんなの……いや……いや……嫌あっ!!!」
とても恐ろしい想像をしていたわたしですが、いつまでたっても触手が触れてきません。
恐る恐る目を開けてみました。
「……」
なんという事でしょう。
目の前には触手もろとも、ぐちゃぐちゃになった悪魔さんが居ました。
いえ、すでに居ませんでした。ぐちゃぐちゃですから。
モザイクを掛けないと直視できないほどです。
いったい誰が!?
見ればわたしの杖の魔石が、これまでになく光輝いていました。
「これは……」
わたしの体が、魔力を解放した後の余韻で温まっていました。
それも大魔法を何発も連発した後のような、気怠さを伴って。
「わたしが……したの……かしら」
そう思った直後です。わたしの体に異変が起きました。
「あっ……あっ……あああっ!」
何かが入ってきます。わたしの中に。
そして何かがわたしの中から出てきます。外に向かって。
「こ……これ……は」
チカラが……溢れます……こぼれます……吹き出します。
「ああああああああああああああああああああっ!!!」
その瞬間わたしは理解しました。
これは、アレだと。
チカラの、解放だと。
「だめ……これは……このチカラは……アラン様の…」
アラン様が居ないこの状況でわたしだけが解放などと……。でも……だめ……止まらな――
チカラの全開放。
それは果てしない快感を伴って、やってきました。
わたしは何度も痙攣して、だめよ、だめだめと思いながらも、受け入れてしまいました。
そしていつしか気を失って、目が覚めた時には、すべてを理解していました。
わたし、告白します。
わたし、覚醒しました。




