96・さよならのボーダー
「なあフォウ、今のマイナスが表に出たら、やっぱり死ぬかな?」
俺たちは無事に森を抜けだして、北へと街道を進んでいた。
「今までのアランのマイナス値が既に限界だったのではないでしょうか。今のアランは……とてもじゃないですけど、器が持つとは思えません。あの森に起こった事以上のものが、その体を襲うのですから」
だよな、この体が耐えられるわけもないか。フォレスだってその身が持たなくて溶けてしまった。
今回の事は誰のせいでも何でもない。自業自得なのだ。なら諦めるしかないのか。
「ところで、マルゲリーテ。お前なんでまだ俺たちと一緒に居るんだ?」
「ふぇっ? あたし? えっと……」
「お前、ジークを捕まえるのが仕事じゃなかったか? そのジークはもう居ないんだ。王都へ戻らなくていいのか?」
「あ~~~~っそういえばっ、そうでしたねっ。次の町までは一緒に行きますよっ。そこで王都行きの馬車を拾って帰りますです」
こいつ、忘れてたんじゃないのか?
「そうか。じゃあ次の町でお前ともお別れだな」
「そうなりますねっ」
この魔法探偵少女も、なんだかんだと役には立ってくれた。
あのジークに一撃さえ入れていた。
要所要所ではその知恵と知識も出してくれた。
「ありがとうな。マルゲリーテ」
感謝の言葉が自然と出た。
「えっ? なんですかっ急に。そんな言葉アランらしくないですよっ。むっつりアランが間違って、イケメンアランに見えてしまいますよっ?」
馬車の中、向かいの席に座ったマルゲリーテは、膝を抱えている。足を揃えていれば見えないのに、それをハの字にしているものだから、奥の黒ボーダーが丸見えだ。
俺はこいつと別れる前に、聞いておかなければならない事があった。
「お前しましまパンツしか持ってないのか?」
「はあ? アホですか? エロですか? これは見せパンなんですっ。残念でしたっ。むっつりアランめっ。そうじゃなかったらこんな短いスカート履けないでしょっ。バカですか? それに縞々以外にだっていっぱい持ってますっ。レースのエロエロ勝負下着とかっ。アランには絶対に見せる事なんてありませんけどねっ」
「むむむ」
見せてもいいパンツと、そうじゃないパンツの違いがわからん。
水着はよくて下着はダメみたいなものなのか。それにしたって、たいして違いがないように思える。
身近なものでいうと、フォウのピッチリしたパンツは見られて恥ずかしいもので、ニナのかぼちゃパンツはそうでもない、そんな感じだろうか。いや、これは大人と子供のそれじゃないか。違うな。
見せてもいいパンツという事なので、その股間をガン見しながらそんな事を考えていたら、マルゲリーテに目つぶしを食らって、ニナの回復魔法のお世話になってしまった。
一瞬失明したかもしれない。
そういえばこいつにも、ひとこと言わなければならなかった。
「おいルル。お前そろそろパンツ履け」
「えーウチ履いたことない」
ルルは出会ってからこれまでに、一度も下着を履いた事がないのだ。
竜の姿の時は気にならないが、さすがに人の姿でたまにチラリとされると、少女とはいえ人の目も気になる。
ニナと同じワンピースを着る事が多いので、丈はそれほど短くはないのだが。それでもだ。
「寒くないのか?」
「寒くないよーおといれも楽だしー」
「おい! こいつの教育係は誰だ!?」
「アランです」
「え? 俺なの?」
てっきりフォウだと思っていたのだが。
「違うのですか?」
「じゃあそういう事にして、教育係の俺が命令する。パンツ履け」
「えーじゃあパンツ履くからこの服脱ぐよー?」
「お前は一枚しか着れない体質なのかよ! 二枚着たら死ぬのかよ!?」
「ウチずっと裸だったしーなんか重ーい」
「どこの竜が服一枚着て重い言うんだよ! そのワンピ一枚よりお前の鱗一枚のがよっぽど重いだろうが!」
「だって鱗はぁ、肌のいちぶー? みたいなー? アランウザーい」
「お前はいつから反抗期のJKになったんだよ! お父さん悲しいぞ!」
JKって何だ? 俺は自分でも知らない単語を口にしていた。
これも前世の記憶ってやつなのだろうか。
兎にも角にも――
子供の扱いは難しい。
◇ ◇ ◇
森を出て、一ヶ月も経っただろうか。ようやく町に着いた。
たいして大きくもない町だ。
「俺たちはこのまま北へ行く。達者でな。マルゲリーテ」
全員で馬車を降り、マルゲリーテを見送る。
「あたしは王都行きの馬車の時間を調べて、それまでここで休んでますっ。アランも気を付けて」
俺たちは町に寄らずに、すぐに出発する事にした。ここで補給するものなど特にない。寝るのも馬車だ。
「またなの!」
「たんてーのおねーさんまたねー」
「お元気で」
「うん。みんなも元気でねっ」
マルゲリーテは振り返りもせずに、町の中へと駆けて行った。
別れを惜しんで泣く事もなく、抱き合う事もなく、まるで素っ気ない別れだった。
またすぐにでも会える。そんな感じだった。
こんなものだろう。
駆けて行く彼女の後ろ姿は、短すぎるスカートをはためかせ、例のボーダーの下着をその姿が消えるまで見せつけていた。
変な男にでも絡まれなければいいのだが――まあ、Sランクのあいつなら心配はいらないか。
「騒がしい人が居なくなって、静かに……寂しくなりますね」
「なの」
「あのスカートじゃ、ちょっと寒そうだな」
取り留めのない事を呟きつつ、馬車に乗り込む。
木枯らしが落ち葉を巻き上げ、吹き抜ける。
それを見た瞬間、寂寥感がこみ上げ、俺は一度だけ、マルゲリーテの去った町並みを振り返った。




