94・春が訪れる秋の森1
「そろそろ教えてくれないか? たのむよ……美少女魔法探偵マルゲリーテよ」
危うくSランクを怒らせそうになった俺は、下手に出る。
「仕方ないですねっ。でもこれは、アランが自分で気付いた方がいいかも知れませんよ?」
「俺にはなんの事だか、さっぱりなのだが?」
「このにぶちんがっ! さっさとフォレスを呼ぶがいいわっ!」
何故か結局、怒らせてしまった。
「呼ぶってどうやるんだよ。おーいフォレスーって呼んだら来るのか? フォレスに訊いたら分かる事なのか? まあ確かにこの森の精霊だから、そうなのかもしれんが」
すると一陣の風が舞い上がり、目の前に緑色のドレスをはためかせたフォレスが現れた。
「あ、来たぢゃないですかっ」
「本当に来たか」
「お久しぶりでございます。アラン様。また逢えて……嬉しゅうございます」
顔を赤らめたフォレスが、俺だけに挨拶してきた。
「そんなに日も経ってはいないけどな。……ところでフォレス、どうやら俺たちは、この森から抜けられないようなんだ。なんとかならないか?」
「なんと。そのような事が……私には分かりかねますが、いったいどうした事なのでしょう」
どうやらフォレスに訊いても分からないようだ。――だがここに異議を唱える者が居た。
「異議あり! ちょーーっと待ったぁ! そこのお嬢さん。アナタっ。何か身に覚えはあーりませんか?」
マルゲリーテはフォレスに向かって、偉そうに指を突きつけていた。
「ええっ? 私ですか? 私には何も……」
「おいマルゲリーテ、いったい何を疑って……」
「だーまらっしゃいっ! てやんでぇっ! フォレスとやら、世間の目はごまかせても、あたしのこの目は、ごまかす事なんて出来ねーぜっ! アナタ、自分じゃ分からないかもしれないけど、――顔が赤いぜっ!」
マルゲリーテはフォレスの目の前に仁王立ちとなって、捲し立てた。
「そ、そんな」
フォレスは自分の頬に両手を当て、チラリと俺を見た。
そこへマルゲリーテは例のパフォーマンスを始める。
「ひとぉつ、人の世の生き血を……」
新作だった。
「ふたぁつ、不埒な悪行三……」
「ちょっと待ったマルゲリーテ。お前さっきからいったい、何を言っているんだ? フォレスが困ってるじゃないか」
「邪魔するんぢゃないわよっ! このにぶちんがっ!」
パフォーマンスを邪魔されて、怒り心頭に発したマルゲリーテは、俺を殴ろうとフォレスをすり抜け――
――すり抜けた?
「あっ逃げた!」
フォレスはいつの間にか消えていた。
「アラン! あんたのせいで犯人逃がしちゃったぢゃないのっ! どーしてくれんのよっ!」
「犯人って、フォレスがか? もしかして森から抜けられないのは、フォレスのせいだとでも言うのか?」
「あたりまえでしょっ! あんたバカぁ? よく考えなさいよっ。なんでフォレスがあんたにしか挨拶しなかったのかっ。あんたの前で顔を赤らめてたのかっ。……あんたしか目に入らなかったのよっ。あんたの事を好きになっちゃったのよっ!」
「えっと……つまり?」
「つまりも糞づまりもないわよっ! あの子はあんたが好きで離れたくなくて、森から出さないようにしてるのよっ」
「ええええ!?」
魔力なしで生きてきて、かれこれ二十五年。
俺にそんな甘い話が降って湧くとは、思いも寄らなかった。
「ど、ど、ど、どうすれば!?」
「ど、ど、ど、童貞ですかっアランは? 初心ちゃんですか? せっかく追い詰めてたのにっ。アランのせいですからねっ責任とりなさいよっ。あたしはもう知りませんからねっ。爆発しろ!」
マルゲリーテはそっぽを向いてしまった。
本当にどうすればいいのか分からない。チラリとフォウを見れば――
「わたくしもその手の事は疎いので、よく分かりません。ご自分でなんとかしてください」
――けんもほろろだった。
「分かったよ。俺が何とかすればいいんだろ。フォレスを説得してくればいいんだな」
どうやら俺が原因らしい。
女どもは手を貸してくれそうにないので、俺は一人でフォレスを探す事にした。




