92・風立ちて
「笑いながら死んでいった。気持ちの悪いやつだ」
俺はフォレスとの合体を解いて、ジークの死体を見下ろしていた。
合体の効果で俺の体にダメージはない。フォレスの腕も元通りだ。
恐ろしいやつだった。
天使二人と竜、さらにはイロモノ魔法探偵少女まで相手に、大立ち回りを演じたのだ。
たった一人で。
あの天使たちが最初から最後まで翻弄されていた。
凄いやつだった。
「アラン、サーラの事が訊けませんでした」
本当ならサーラの居場所を吐かせるため、殺してはならないはずだった。
だがフォレスと合体している間の俺は、精霊の持つ能力を自然と理解していた。
「サーラは……生きて魔族領に居る。こいつの思念を読んだ」
「そうなのですか? なら迎えにいきませんとね」
フォレスのドレイン能力は、その魔力を吸収するだけではなかった。
相手の思念さえも、取り込んでしまうのだ。
それによって俺はサーラの今を知った。
――知ってしまった。
今のサーラはとんでもない事になっているらしい。
魔王だと? 人間ではなくなるって事か?
サーラに何があったのかは分からない。四天王に何かされたとしか考えられなかった。
ジークの恐怖は本物だった。
だがそれでもサーラはまだ、魔王になっていたわけでもない。
ジークはサーラの言葉を記憶していた。
サーラは俺を連れてこいと言っていた。それは……つまり。
サーラが何をしようとしているのか、なんとなく分かったような気がした。
魔王になった自分を、俺に倒させようとしているのではないのか?
俺のチカラの解放のために。
もしそうだとしたら、そんな事のために俺は、サーラに会えるわけがない。
俺は仲間としてサーラを迎えに行きたいだけなのだ。
「くそっ……どうすればいい」
「アラン様……」
フォレスが心配そうな顔をしている。
そうだ。フォレスは合体していたから、この事を知ってしまっている。
「フォレスには、関係のない事だ」
「……はい」
その顔を悲しげに、俯かせる。
「アラン、すぐにでも出発しましょう。サーラが心配です」
「そう……だな」
何にせよ、このままにしてはおけない。
サーラに会って、確かめなければならない。
「魔族領へ、行くぞ」
「アラン様、色々とありがとうございました」
「ああ。俺もフォレスのおかげで命拾いした」
俺とフォレスは見つめあう。
「それは私もそうです。アラン様との合体……決して忘れません」
「なんだか、恥ずかしいものだな」
「そうですね……体をひとつにしてあの快感を共有した者同士ですものね」
フォレスは顔を赤らめて、自分の体を抱きしめ、クネクネさせていた。
「そろそろいいですかっアラン。聞いてるあたしらもなんだか、恥ずかしいんですけどっ」
「では出発だ。ルル、翼はもういいのか?」
「ニナが治してくれたのー」
ルルはジークの魔力弾で翼に穴が開いていたはずだが、既に完治していた。
サーラの居場所は分かった。
だがこの先に待つ運命を思うと気分が重い。
ジークの記憶の中のサーラを、頭の中で再生させる。
彼女は本当にサーラなのだろうか。ジークでさえ、そう感じていた。
巨大なチカラを感じる。
これは。
アレなのか?
チカラの解放。
だとしたら、サーラは四天王に何かされたのではなく、サーラが四天王に何かしたのだ。
いや、ジークの記憶ははっきりと認識していた。ヴィーダは死んだ、と。
つまり、そういう事なのか?
あの非力なサーラがいったいどうやって。
そして魔王だなどと、ワケが分からない事だらけだ。
だから、俺は会いに行かなければならない。
サーラに。
サーラは既に、俺にとって大事な仲間なのだ。
「助けに、行くぞ」
周りを見渡せば、頼もしい顔ぶれじゃないか。
こいつらが居て、サーラを救えないわけがない。
金や銀に赤や青。
カラフルな髪たちが、風に遊ばれ、なびいている。
森の木々の上の空は高く、澄んだ青が広がり――
これから訪れる、季節を予感させて――
涼風が今、吹き抜けた。




