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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第7章 姿なき追跡者編~ジーク~
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91・ジーク 決着2

 何日か経っても俺は自失したまま、ただひたすら歩いていた。

 いつしか俺はかつての妖精の森へと入っていた。

 妖精たちは今は居ない。精霊どもが多少棲みついているだけの森だ。


 大木のひとつに寄り掛かり、座り込んだ。

 足を投げ出し、ぐったりと首を垂れ、そのまま眠った。

 眠るのは城から逃げ出してから初めてだ。

 眠れなかったのだ。……恐怖で。


 その後の俺は、精神的ダメージを少しでも無くしたくて、この森の精気を吸収し始めた。

 何でもいい、この心を少しでも安らかに保ちたい。毎日が不安で仕方がないのだ。




  ◇   ◇   ◇




 何日かしたら、やつらがやってきた。――化け物たちだ。

 俺はこの森が、魔族領へと続く街道の途中である事すら、頭になかった。


 城の次期魔王様はこいつらを連れてこいと言っていた。

 だがこいつらは勝手にあの城へと行くだろう。

 なら俺はどうする。

 

 そうだ。俺は暗殺者だ。そうだった。――俺は暗殺者なのだ。

 

 この中の誰ひとり、手にかけないで終わっていいのか。

 せめて一人や二人、地獄に送らねばならない、そんな気がする。

 

 何よりもアランという男に俺は何も出来ていない。

 あの男の使う魔力を見ないで終われない、そんな気もした。

 

 ――ならば、やってやる。




「おいジークとやら、サーラはどうした?」


 まぬけめ、俺と一緒だと思っていたらしい。


「さあ……な。俺が訊きたいくらいだ」


 サーラという女はもう居ない。そんな存在など居ない。

 本当にどうしてそうなったのか、説明してほしいくらいだ。

 あの城に居るのは次期魔王様なのだ。


 森の力は……半分か。これでは防御壁くらいしか作れないだろう。――仕方ない。


「何かを企んでいます。気を付けて下さい」


 少女の声を合図に俺は動いた。


 俺は魔力弾を強化させていた。

 短かったスタッフを長めの杖に持ち替え、籠める弾も威力を強化させた。

 

 こいつらに通用するとも思えない。気休めだ。

 だがそれでも精霊の腕を破壊し、竜の翼には穴を開けた。


 どうにかアランに攻め寄りたい。あの男の魔力を使わせてみたい。

 それだけの思いで今の俺は動いていた。力の配分などお構いなしだ。

 

 消費の激しい影スキルも構わず連発する。

 

 どうだ、俺はまだ動けるぞ。

 見たか、少女二人を翻弄している。

 

 だが完全にノーマークだった、後ろでパフォーマンスをしていた少女が、突然その身を飛ばしてきた。

 

 突撃を腹に受け、俺は弾き飛ばされた。

 アランからはかなり距離が離れた。

 前衛組の少女二人が俺に追い迫る。

 竜のブレスも飛んでくる。

 

 それは俺にとってチャンスだった。

 今アランの側には誰も居ない。

 

 あと一回使えるかどうかという影スキルを発動。

 アランの前に出た。

 俺は短剣を逆手に持ち、その首に振り下ろした。

 アランは動かない。


 グサリと刺さった。

 

 やった。

 短剣が根元まで埋まった。

 

 だが何かがおかしい。

 血も吹き出ない。

 

 こいつは余裕の表情だ。

 両手を広げている。

 何をする気だ。


 俺はその両手に抱きしめられていた。

 こいつの首には短剣が刺さったままだ。

 

 ダメージは見受けられない。

 だが……魔力のようなものが見える。

 ついに……俺はついに、こいつに魔力を使わせたのだ!


 俺は抱きしめられたまま、魔力が抜けていくのを感じていた。

 何だ……これは。


 先程まで森の精気を吸収していたチカラのパイプから、その森のチカラが放出される。

 それだけでは済まず、森のチカラが抜けきった後も続けて、元からある俺の魔力が抜けていく。

 それはすべて、アランに吸収されていった。


 これがこいつの……チカラなのか?

 『エナジードレイン』だと!?


 俺にはもう抗う力は無かった。


 気付けば魔力がもう、カスしか残っていない。

 これさえ抜けきったら、後は死ぬだけだ。


 だが俺はこの状況で笑っていた。

 こんなに愉快なのは初めてだ。


 だってそうだろう?

 この男がその能力を使わなければならない状況に陥ったのは――

 俺のせいなのだから。


 俺は城から逃げ出して来てから初めて、心の安らぎを感じた。

 俺の趣味が紅茶を嗜む事だったと、思い出した。

 ああ、最後に一杯、あの香りを楽しみたかった――


「おい、ネイファ……一杯淹れてくれ……」




 俺はジーク。孤高の暗殺者だ。


 俺は最強の男(アラン)にチカラを使わせた、最強の暗殺者(おとこ)だ。




  

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