91・ジーク 決着2
何日か経っても俺は自失したまま、ただひたすら歩いていた。
いつしか俺はかつての妖精の森へと入っていた。
妖精たちは今は居ない。精霊どもが多少棲みついているだけの森だ。
大木のひとつに寄り掛かり、座り込んだ。
足を投げ出し、ぐったりと首を垂れ、そのまま眠った。
眠るのは城から逃げ出してから初めてだ。
眠れなかったのだ。……恐怖で。
その後の俺は、精神的ダメージを少しでも無くしたくて、この森の精気を吸収し始めた。
何でもいい、この心を少しでも安らかに保ちたい。毎日が不安で仕方がないのだ。
◇ ◇ ◇
何日かしたら、やつらがやってきた。――化け物たちだ。
俺はこの森が、魔族領へと続く街道の途中である事すら、頭になかった。
城の次期魔王様はこいつらを連れてこいと言っていた。
だがこいつらは勝手にあの城へと行くだろう。
なら俺はどうする。
そうだ。俺は暗殺者だ。そうだった。――俺は暗殺者なのだ。
この中の誰ひとり、手にかけないで終わっていいのか。
せめて一人や二人、地獄に送らねばならない、そんな気がする。
何よりもアランという男に俺は何も出来ていない。
あの男の使う魔力を見ないで終われない、そんな気もした。
――ならば、やってやる。
「おいジークとやら、サーラはどうした?」
まぬけめ、俺と一緒だと思っていたらしい。
「さあ……な。俺が訊きたいくらいだ」
サーラという女はもう居ない。そんな存在など居ない。
本当にどうしてそうなったのか、説明してほしいくらいだ。
あの城に居るのは次期魔王様なのだ。
森の力は……半分か。これでは防御壁くらいしか作れないだろう。――仕方ない。
「何かを企んでいます。気を付けて下さい」
少女の声を合図に俺は動いた。
俺は魔力弾を強化させていた。
短かったスタッフを長めの杖に持ち替え、籠める弾も威力を強化させた。
こいつらに通用するとも思えない。気休めだ。
だがそれでも精霊の腕を破壊し、竜の翼には穴を開けた。
どうにかアランに攻め寄りたい。あの男の魔力を使わせてみたい。
それだけの思いで今の俺は動いていた。力の配分などお構いなしだ。
消費の激しい影スキルも構わず連発する。
どうだ、俺はまだ動けるぞ。
見たか、少女二人を翻弄している。
だが完全にノーマークだった、後ろでパフォーマンスをしていた少女が、突然その身を飛ばしてきた。
突撃を腹に受け、俺は弾き飛ばされた。
アランからはかなり距離が離れた。
前衛組の少女二人が俺に追い迫る。
竜のブレスも飛んでくる。
それは俺にとってチャンスだった。
今アランの側には誰も居ない。
あと一回使えるかどうかという影スキルを発動。
アランの前に出た。
俺は短剣を逆手に持ち、その首に振り下ろした。
アランは動かない。
グサリと刺さった。
やった。
短剣が根元まで埋まった。
だが何かがおかしい。
血も吹き出ない。
こいつは余裕の表情だ。
両手を広げている。
何をする気だ。
俺はその両手に抱きしめられていた。
こいつの首には短剣が刺さったままだ。
ダメージは見受けられない。
だが……魔力のようなものが見える。
ついに……俺はついに、こいつに魔力を使わせたのだ!
俺は抱きしめられたまま、魔力が抜けていくのを感じていた。
何だ……これは。
先程まで森の精気を吸収していたチカラのパイプから、その森のチカラが放出される。
それだけでは済まず、森のチカラが抜けきった後も続けて、元からある俺の魔力が抜けていく。
それはすべて、アランに吸収されていった。
これがこいつの……チカラなのか?
『エナジードレイン』だと!?
俺にはもう抗う力は無かった。
気付けば魔力がもう、カスしか残っていない。
これさえ抜けきったら、後は死ぬだけだ。
だが俺はこの状況で笑っていた。
こんなに愉快なのは初めてだ。
だってそうだろう?
この男がその能力を使わなければならない状況に陥ったのは――
俺のせいなのだから。
俺は城から逃げ出して来てから初めて、心の安らぎを感じた。
俺の趣味が紅茶を嗜む事だったと、思い出した。
ああ、最後に一杯、あの香りを楽しみたかった――
「おい、ネイファ……一杯淹れてくれ……」
俺はジーク。孤高の暗殺者だ。
俺は最強の男にチカラを使わせた、最強の暗殺者だ。




