86・囚われのサーラ
サーラがさらわれた。
馬車が横転した瞬間を狙われたのだ。だが、どうやって?
フォウやマルゲリーテでも、何が起きたのか分かっていないようだ。
「ちょっといいですかアラン」
マルゲリーテが赤毛をかき上げながら、近寄ってくる。
「消えた状況からして、おそらくこれは転移させられた、と言えるでしょう。やり方は不明ですが。つまりサーラはあのジークとかいう魔族の元に居る可能性が高いと思われます。そしてあたしがジークの立場だったら、サーラは殺しません。そのまま人質として使いアラン、アナタをおびき出す道具とするでしょう。間違いないっ。だからとりあえずは相手の動向を見るしかないと思われますっ」
くそっ、そんな事は分かっている。
「分かっている! そんな事は俺にも分かる! だけど……あのサーラだぞ。あのサーラがさらわれたんだ。殺されなかったとしても、どんな酷い事をされるかも分からないんだぞ! いいか? あんな可愛い子がむさい男の元にひとりで居て、何もされないと思うか!? ありえないだろう? あんなに可愛いんだぞ? しかもあの性格だ。何も抵抗出来ないに違いない。ああっ、あんな事やこんな事をされるに決まっている! ちくしょう! あんな事やこんな事だ! あの子はこれまでだってずっと酷い目に遭って来たんだぞ……それなのに今更また……あんな事やこんな事だなんて……許せないだろう……くそっ……あんな事……こんな事……」
フォウが珍しく、蔑みではない瞳で俺を見つめてくる。
「落ち着いてくださいアラン。すぐにでも移動しましょう。わたくしは魔力の感知を全開のままにします。サーラはきっと無事です。探しましょう」
「ウチが空飛べたら……よかったのに……ごめんちゃいアラン」
ルルまで心配して俺にくっ付いてきた。いかん。俺がこんな事ではいけない。
「大丈夫だルル。すぐに移動だ。マルゲリーテ、最後に感知した魔族の位置は分かっているな?」
「うん。方角は分かるよっ。とりあえずその周辺を調べましょうかっ」
あの魔族の事だ、簡単に尻尾を掴まれるような真似をするわけがなかった。
それでも俺たちは何かしらの情報を求めて、動かないわけにはいかない。
何の手がかりも掴めないまま一日が過ぎた。
「ジークが接触を図ってくるまで待つしかなさそうですね」
フォウの魔力感知に引っかからないという事は、もう既に近くには居ないという事だ。
「ちょっといいですか? アラン。四天王は魔力のマイナス値まで感知できるとして、それはいったいアランとサーラ、どっちを脅威だと思っていると思いますか? やはりどっちもなんでしょうか。そしてそのチカラは反転されると信じているからこその脅威ですよね? おかしいと思いませんか? それってつまり、四天王は魔力なしのアランに倒される事があり得ると思っているみたいじゃないですか。……いや、ごめんなさい。これも違いますねっ。四天王はアランのチカラが反転してプラスになって自らの脅威になり得る事を恐れた。つまり、四天王を倒す前の事が前提になってました。となると倒すのが条件でもないって事にもなります。ますます分からなくなってしまいましたっ。うーん」
マルゲリーテは地面に木の枝で、俺とサーラと四天王を簡単な絵に描きながら語っていた。
それはいいのだが、しゃがんでいるので下着が丸見えだ。なんとなく言ってはいけないような気がしたので、注意もしないで丸見えのままにさせておいた。
「四天王はとりあえず置いておけ。まずはサーラだ。ジークというやつは絶対に接触してくるだろう。その時の対応を間違えると全滅するぞ」
「そうですね。対抗策を練っておかなければなりませんね」
「ちょっといいですか? アラン。もしジークがアランとサーラの身柄を交換すると言ってきたらどうしますっ?」
そんな事、分かり切っている。
「それは迷う事もないだろう。俺が出て行く」
「殺されますよ?」
「サーラが助かるのならそれでもいい。あの子はもう苦しみから解放してやりたい。その苦しみは俺自身味わってきたものだ。どんなに辛いものか俺は知っているんだ。サーラはあの若さでずっと耐えてきた。これ以上苦しむべきじゃないんだよ」
フォウがまたいつもと違う視線を向けてくる。
「アランの口からそんな言葉が聞けるなんて驚きました。これまで冷ややかな視線を送ってしまっていて申し訳ありませんでした」
フォウまで畏まりだした。調子が狂う。
いや調子を狂わせていたのは俺の方か。
俺たちは少しずつ北へと進んだ。
その間ジークからの接触を待っているのだが、何もない。
どういう事だ。
サーラを失ってから三か月が過ぎた。




