81・ランクS
俺は世界に数える程しか居ないとされる、ランクSを二人知っている。
一人はあの馬鹿勇者で、もう一人は今目の前に居る真っ赤な少女だ。
どうやらランクSとは、変人にしかなれないらしい。
「俺はアランだ、こいつらは……」
「知ってますよっ、大体の事は聞いてますっ。これからいくつか質問させてもらっていいですか? まず聞きたいのは――」
いいですかと聞いておきながら、返答を待たずに質問するらしい。
どうにもマイペースだな、このマルゲリーテというやつは。
「アナタ、魔王もしくは四天王、またはそれに近い魔族に心当たりはありませんか?」
「は?」
思わず聞き返してしまった。
これまでこの事件の取り調べにいろいろ答えてきたが、魔王なんて言葉が出た事など無かった。
何を根拠にこの少女はそれを導き出したのだろう。四天王の事さえ知っているというのだろうか。
「この事件の裏には、魔王クラスの魔族が絡んでいます。それは確実なのですっ。何故かって? そんなものは見れば分かるじゃないですかっ。あの髪の毛ですっ、髪の毛。あれはですね、魔族領の地域でしか採れない貴重な鉱石がふんだんに使われています。それだけではありません。あの髪の毛に籠められた術式は、人間のものではありませんし、なおかつ、とてつもない魔力の持ち主が長い年月を掛けてその魔力を編んでいますっ。あたしの目に狂いはありません。そこらへんのただの魔族が、これを行う事は無理なのです。つまりこれには魔王クラス、幹部クラスの魔族が絡んでいるのですっ。そんなモノに狙われたというアナタ、何者ですか?」
マルゲリーテというランクS魔法探偵の少女は、ここまで捲し立てて言い切った。
「あとですねっ、現場に残された短剣ですけどっ。それもまさに魔族の物ですねっ。 間 違 い な い 」
初見で四天王の関与を言い当てただと?
確かに髪の毛を調べてそこまで分かったのなら、魔族と推測できよう。だが、しかし。
魔族領の地域の鉱石の知識を何故この少女が持っているのか、どうやってその成分を鑑定したのか、魔族の術式を何故知っているのか、使われた魔力の大きさが分かって、それに組み込まれる年月の長さも何故分かるのか。
それらをすべて、このマルゲリーテが調べたというのだろうか。
だとしたら……こいつ……只者じゃない。
ただのイロモノ少女だと思っていたら、なかなかやるのかも知れない。
俺はどこまで話をすればいいのか迷った。
もしはぐらかそうものなら、物凄い追及にあいそうだ。
それに俺の直感だが、こいつの頭脳とその知識は役に立つかも知れない。
あの四天王から俺がどうやったらチカラを取り戻せるようになるのか、知恵を貸してくれるかもしれない。
「話をするにしてもここじゃ無理だ。誰も居ない場所に移動したい」
サジリアにも聞かせたくない。俺は提案すると――
「ではちょっと外に行きましょうかっ。サジリン! あたしはこれからこの人たちとお話しをしてきますから、アナタは戻ってくれてダイジョブよっ」
「分かりましたわマルちゃん。では私はこれで失礼いたしますわ」
――サジリアは俺たちに一礼すると、足早に去っていった。
彼女もまだ、傷も癒えないうちにこの屋敷に来て、胸中穏やかではなかっただろう。
俺たちは屋敷の外に出ると人通りの無い雑木林に向かった。そこでマルちゃんことマルゲリーテはおもむろに――
「くるくるくるりんくるりんぱっ!」
――体をくるくるさせて何やら唱えだした。
くるくる回っている間、ずっと水色ボーダーが丸見えだった。短すぎるだろこのスカート。
こんなに短いスカートを履いているやつなんて、見た事がない。
だが……ブーツからスカートの裾までに見える、生の足が若々しくて……眩しい。
「アラン、これは……」
フォウが絶句した。
「あたしの作った結界よっ。誰も覗けないし、誰も入れないし、誰も壊せないよっ」
「わたくしでも無理ですね、こんな結界の構築。アランこの人……普通じゃないです」
普通じゃない天使のフォウに言われるとは。……確かに普通じゃない。
「さて、話を聞こうじゃないのっ、アラン。何もかもよっ。あたしの期待に応えておくれ!」
何もない所に突然出現した人数分の椅子が、円を描いて並んでいた。
その一つに腰かけて、足を組んだマルゲリーテは目を輝かせた。
こいつは……こいつからは逃げられない。――俺は冷や汗をかいていた。
「ぢゃあアランがあたしに話しやすいように、、あたしからひとつ先に出しておくわねっ。別にこれが切り札とかでもなんでもないからねっ。ただの情報よっ。ただあたしが先にこの情報を出す事で、アランが嘘をついたり、はぐらかす事をしなくなればいいと思うのよっ。それだけなのよっ」
こいつは俺が嘘をついてもすぐに見破りそうだが、あえて俺に釘を刺すべく何かを出すという事だろうか。
その『ただの情報』とやらがどういう類のものかは測りかねるが、それを聞く事によって俺が嘘いつわりを言いにくくするための情報なのだとしたら、それなりに重要な事柄なのではないのか。
そしてこの程度の情報、私でも知ってますよ、だから嘘ついても意味ないですよ、と言いたいのではないのか。
――だがそんな情報を、いつ手に入れられたというのだ、まだ現場を見ただけの少女に。
「アナタが知っているのか知らないのか、あたしは知らない。でもねっ、今回の事件に関与している魔族は……」
ここでいったん区切り、マルゲリーテは組んだ足を左右組み替える。短いスカートはその奥のデルタゾーンを覗かせる。
「関与している魔族は……四天王ヴィーダと、その幹部ジークよっ」
「!!!」
俺の知っている名前と、知らない名前が出てきた。
この少女は……本物だ。
俺は汗をかいて唸った。
こいつは……正真正銘――ランクSだ。
「キラリンっ」
マルゲリーテが不敵に笑っていた。




