74・晩夏
「魔族領まであとどれくらいだ?」
王都を出て三日もしたら飽きてきた。
やる事もなく、ただ移動するというだけの日々は、ストレスが溜まる一方だ。
「どこにも寄らずに休みなく走れれば、一年くらいで着くんじゃないでしょうか」
馬車馬にそんな過酷な労働を強いるわけにもいくまい。
俺らにしても無理だ。
途中の村なり町なり寄らないと、発散する場所もなく精神的にまいってしまうだろう。
「先は長いな」
「その間に例の魔族も、現れるんじゃないですか?」
「その時はその時だ」
「おなかへったなの」
「さっき昼飯食ったよねー? ニナさん?」
食糧はたんまりあるから節約する必要もないのだが、こいつは太ったりしないのだろうか。
「あー暇だ」
「休憩しましょうか?」
「そうだな。そろそろ気分転換が必要だな」
もう少しすれば夕方だ。そのままキャンプしてもいいだろう。
街道をすこし外れ、緩やかな川の畔に馬車を停める。
もう夏も終わるのだろうか、少し涼しげな風が残暑に差し込む。
「そうだたまには温泉に入ろう。フォウ頼む」
川の近くに温泉用の穴を大きめに作ってもらい、それに湯を満たせば、あっという間に露天風呂の出来上がりだ。
フォウのこの作業も既に慣れたものだ。
俺はさっさと服を脱いで入った。
他のやつはどうするかと様子を見ていると、ニナとルルは迷わずに全裸になって俺の所に入ってくる。
サーラはなにやらフォウに相談して、タオルを出してもらっている。さすがにサーラは俺の前では恥ずかしいのだろう。体にタオルを巻いて入ってきた。フォウは見られても大丈夫らしい。
しかし、残念だ。
揃いもそろって美少女ばかりなのに、何故みんなお子様なのだ。サーラは十七歳なので、子供とは言えないかもしれないが、俺からしたら子供に見える。
天使たちや竜の子がもうちょっと成長した姿だったら、ハーレムと言えただろう。
「アラン、見張りは居なくていいのですか?」
全員が温泉に浸かってから、フォウが今更のように言う。
「大丈夫だろう? 魔族のやつが来てたら、さすがに天使のアンテナに引っかかるだろ?」
例の魔族以外だったら、特に慌てる必要もない強豪メンバーだ。心配はいらないだろう。
「なあフォウ。俺がチカラを取り戻すのに、四天王を倒す以外に何か方法があると思うか?」
「わたくしには想像もつきません。ジダルジータ様も何もおっしゃっていませんでした」
そうだ。あのジジイ、結局自分でもどうすればいいのかは、知らなかったんじゃないのか。
「いざ倒してダメだった時は困るんだよなあ。倒せるかも分からないんだけど」
「わたくしが思うに、倒すにしてもアラン本人の手で、倒さなければならないのではないんですか?」
「それだ。その可能性は高い。そして俺がこの手で倒せる可能性はゼロだ」
「わたくしたちが倒す寸前までダメージを与えて、とどめをアランが刺せばいいのではないでしょうか」
「やるにしてもそうなるな。だが、それにしたって俺の手で出来るとも思えないんだよなあ」
俺の攻撃力はゼロに等しい。
魔法を使わずに物理攻撃で、魔族にダメージを負わせられるイメージが湧かない。
「そうなると厳しいですね」
マイナスの力を反転させる方法を、四天王本人の口から聞けるとも思えないし、このままでは八方塞がりだ。
「ウチ泳げないんよ! 抱きつかないで!」
「ニナ泳げるなの! 教えるなの!」
お子様がキャッキャと楽しそうだ……平和だ。
いっそこのままこいつらと、旅して暮らすだけでいいんじゃないだろうか。
四天王なんかほっといて。
でもなあ、あの魔族にちょっかい出しちゃったしなあ。
見逃してくれないよなあ。
それにこの天使たちだって、言わば神様から借りている状態だよな。
いつかは返さなければならないのだろうか。
期限は今の所ないようだが、ジジイの気が変わってすぐに返せとなったら困る。
やはり俺のチカラは取り戻せるようにしておかないと、俺が生きて行けなくなる。
今、こいつらと離れたとしたら、俺はすぐに死ねる自信がある。
小型のウルフと遭遇しただけで、あっという間に尽きる命だろう。
こいつらとこうしていられるのも、いつまでの事だろうか。
空を見上げればやはり晩夏なのだろう。足早な夕暮れが迫っていた。




