6・天使
「ニナのおうちに泊まって、朝しゅっぱつするなの」
気安く泊まるように勧めてくれるニナ。俺も疲れていたし、何も考えずにそうしたのだが、いざ寝ようと思っても――
――眠れない。
寝床はやはり最初に俺が寝かされていた、藁の敷き詰められた場所だ。ニナはというと、その隣になんのためらいもなく横になって寝ていた。
ワンピースのまま大の字になり、その裾はめくれて白いふとももも露わに、隙だらけの恰好で寝ている。
すうすうと可愛らしい寝息を立てていた。
俺はここにきて、やっと冷静になった。いいのか? これで。
この少女はいくらなんでも隙を見せすぎだ。さすがに俺に少女趣味はないが、襲ってくださいと言ってるような無防備さを見ていると、少し心配になってくる。
いままでよく生きてこれたものだと思ってしまう。
だが、よく考えてみれば彼女には計り知れない魔力がある。
その全貌を見たわけではないが、垣間見た彼女の魔法にはなにか、底知れないものを感じる。
なにより回復魔法と、それ以外の魔法を自由に操るのだ。
もしかしたらこの子は、そこらへんの誰よりも強いのかもしれない。
だからこその、この無防備さなのだ。……きっと。
俺はひとり納得した。
今も寝ながらにして、絶対的な防御を誇る迎撃システムが、その身を守っているのかもしれない。
すぐ隣で横になっているニナが寝返りをうち、大の字からゴロンと俺の方に転がり、横向きになって丸くなる。
今日会ったばかりの素性もしれない俺の傍で、安心しきった顔で寝ているニナはとても大物なのか、馬鹿なのか。
ただ言える事は魔法の使えない俺は、この子よりも遥かに非力な人間だと言う事だ。
それこそ話にならないくらい弱いだろう。
それでもこの可愛い寝顔を見ていると、守ってあげたいという想いが湧き上がってくる。
妻を娶った事も子供を持った事もない俺だが、父性とはこういうものなのだろうかと思うほどに。
俺は思わず、その可愛い寝顔の頬に指を近づけていた。
ぷにと指がやわらかい頬に抵抗なく触れた。迎撃システムは働いていなかった様だ。
その感触が気持ちよくて俺はいつまでもつついたり、つまんだりしていた。
「うぅ……お肉まだ食べるの。なの」
寝ぼけたニナがよだれを垂らしはじめた。俺はいつのまにか自分が微笑んでいた事に気付いて、驚いた。
もう何年も笑った事など無かったはずだ。ここまで心が和んだ事などあっただろうか。
いつだって生きるのが辛かった。この数年はいつ死のうか、そればかり考えていた。
いざ死のうとして死に損なって、拾われた命の先には……
……天使がいた。
そう、天使だ。
あんなに荒んでいた心が、たった一日でこんなにも洗われた気持ちになるなんて、天使じゃなかったらなんだって言うんだ。
もう死んでもいいや。
そして生きよう。
この天使のために、俺の命を使ってもいい。何が出来るかなんて全く分からないが、けれど少しでも、ほんの少しでもいいから、この少女にお返しをしたいと思う。
そんな誓いを心に刻んで、俺はいつしか眠りに落ちていった。




