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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第1章 めぐりあい編~ニナ~
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6・天使


「ニナのおうちに泊まって、朝しゅっぱつするなの」


 気安く泊まるように勧めてくれるニナ。俺も疲れていたし、何も考えずにそうしたのだが、いざ寝ようと思っても――


 ――眠れない。


 寝床はやはり最初に俺が寝かされていた、藁の敷き詰められた場所だ。ニナはというと、その隣になんのためらいもなく横になって寝ていた。

 ワンピースのまま大の字になり、その裾はめくれて白いふとももも露わに、隙だらけの恰好で寝ている。

 すうすうと可愛らしい寝息を立てていた。

 俺はここにきて、やっと冷静になった。いいのか? これで。


 この少女はいくらなんでも隙を見せすぎだ。さすがに俺に少女趣味はないが、襲ってくださいと言ってるような無防備さを見ていると、少し心配になってくる。

 いままでよく生きてこれたものだと思ってしまう。


 だが、よく考えてみれば彼女には計り知れない魔力がある。

 その全貌を見たわけではないが、垣間見た彼女の魔法にはなにか、底知れないものを感じる。

 なにより回復魔法と、それ以外の魔法を自由に操るのだ。

 もしかしたらこの子は、そこらへんの誰よりも強いのかもしれない。

 だからこその、この無防備さなのだ。……きっと。

 俺はひとり納得した。

 今も寝ながらにして、絶対的な防御を誇る迎撃システムが、その身を守っているのかもしれない。


 すぐ隣で横になっているニナが寝返りをうち、大の字からゴロンと俺の方に転がり、横向きになって丸くなる。

 今日会ったばかりの素性もしれない俺の傍で、安心しきった顔で寝ているニナはとても大物なのか、馬鹿なのか。


 ただ言える事は魔法の使えない俺は、この子よりも遥かに非力な人間だと言う事だ。

 それこそ話にならないくらい弱いだろう。

 それでもこの可愛い寝顔を見ていると、守ってあげたいという想いが湧き上がってくる。

 妻を娶った事も子供を持った事もない俺だが、父性とはこういうものなのだろうかと思うほどに。

 俺は思わず、その可愛い寝顔の頬に指を近づけていた。


 ぷにと指がやわらかい頬に抵抗なく触れた。迎撃システムは働いていなかった様だ。


 その感触が気持ちよくて俺はいつまでもつついたり、つまんだりしていた。


「うぅ……お肉まだ食べるの。なの」


 寝ぼけたニナがよだれを垂らしはじめた。俺はいつのまにか自分が微笑んでいた事に気付いて、驚いた。

 もう何年も笑った事など無かったはずだ。ここまで心が和んだ事などあっただろうか。


 いつだって生きるのが辛かった。この数年はいつ死のうか、そればかり考えていた。

 いざ死のうとして死に損なって、拾われた命の先には……

 ……天使がいた。


 そう、天使だ。


 あんなに荒んでいた心が、たった一日でこんなにも洗われた気持ちになるなんて、天使じゃなかったらなんだって言うんだ。


 もう死んでもいいや。


 そして生きよう。


 この天使のために、俺の命を使ってもいい。何が出来るかなんて全く分からないが、けれど少しでも、ほんの少しでもいいから、この少女にお返しをしたいと思う。


 そんな誓いを心に刻んで、俺はいつしか眠りに落ちていった。




   

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