68・遭遇1
「昼間でも眠れるものだな」
目が覚めると既に夜だ。
「とりあえず巡回してみるか。もし幽霊と遭遇したら、捕獲優先でそれが無理なら面倒だからやっつけちゃって」
「いいのですか?」
「かまわない。逃げられる方がやっかいだ」
「了解しました」
「ウチもやる!」
「なの!」
闘技場内をぞろぞろと練り歩く。全員で回る必要があるだろうか?
「お散歩なの」
「ウチなにすればいいの」
「……」
「静かにしてください。幽霊が逃げちゃいますよ」
こいつらにまかせて俺、戻ろうかな。
「アランは報告する役ですから、一部始終を見ておいて下さい」
いつも思うのだが、フォウは人の心が読めるのかもしれない。
夜の闘技場はひっそりと静まり返り、昼間の熱気など跡形もない。
俺たちの歩く足音が、その場内の壁に跳ね返り、こだまする。
「ちょっと……怖い……です……ね」
臆病なサーラはビクついている。
広い場内を無作為に歩き回る。何かあれば天使たちが感じ取ってくれるだろう。
観客席から控室、医務室と回りそのうち、なんの部屋か分からない扉の前に来た所で、フォウが小声でニナに囁いた。
「ニナ、わたくしが扉を開けたら突入してください」
「なの」
フォウが扉を少し開けた瞬間、ニナが滑り込む。その動きは速い。
途端に中から、けたたましい破壊音が鳴り響き、フォウも続く。
ルルとサーラは待機させて中を覗くと、ニナが飛んだり跳ねたりして部屋を荒らしていた。
目を凝らすと真っ黒な影を相手にしている。
その影は人型をしているがその姿は曖昧で、ゆらゆらとかげろうのように揺らめいていた。
ニナは影に向かって攻撃をしているようだが、それらはみな影を素通りしている。
影に対して打撃は有効打とならないようだ。
影からの攻撃は無い。だがニナは執拗に追いかける。
「ニナ離れてください!」
フォウの言葉に神速の反応でもってニナが飛び退いた刹那、フォウの左手から赤い閃光が迸る。
影に直撃したように見えたが、それは素通りして部屋の壁に焦げ目を付けた。
「ウチも手伝うよー」
ボフンと隣で竜の姿になったルルは「あ~ん」と、おもむろに大口を開けた。
「まさか! ニナ、フォウ! 逃げろ!」
ブフォッ! とルルの口から放たれた白いブレスは、影を飲み込みつつ激しい破壊音と共に部屋の壁を貫通し、遥か先まで大穴を開けた。
ルルのそれは炎でも光でもなかった。純粋な衝撃波だ。
天使たちは部屋の隅に退避していた。
「やったのか?」
「いえ、一瞬霧散したかのように見えましたが、その大穴から逃げたようです」
「逃げたなの」
「えっウチのせい? ごめんちゃい」
ルルの開けた穴から逃げたようだ。しかしこの穴、どこまで続いているんだ? いくつもの部屋を貫通していた。
この穴……弁償だろうか……。
ルルは子供なのでまだ五メートル級の竜だが、その攻撃の威力は計り知れなかった。
さすが竜と言うべきか。それとも古竜が特別なのか。
「まあいい。一日目から遭遇出来たんだ、まだ出会う可能性はあるかもしれん」
今の騒音でシャランも起きた事だろう。このまま報告に行くか。
まてよ、シャランはどこに住んでいるんだ? まさか事務室じゃないよな。
そう考えた時、そのシャランが現れた。
「何があったのだ!?」
寝る時の恰好なのだろうか、体のラインがはっきり分かる白いローブを着て腰帯で結んでいた。
その豊満な胸の隆起に俺の鼓動が跳ね上がる。無機質な鎧姿とはまた違って、女の色香を漂わせる雰囲気に頭がクラクラしてくる。
「アランしっかりしてください」
「だ、大丈夫だ。俺はまだ無傷だ」
「私の部屋の半分を破壊して衝撃波が通り過ぎて行ったぞ。あと少しずれていれば私も危なかった」
「そ、そうなのか? 他の連中は?」
「ここに泊まり込んでいるのは責任者の私だけだ。心配ない」
「ウチのせいなのーごめんちゃい」
人型に戻ったルルは謝るが、こいつのせいには出来ない。影に会ったら攻撃しろと命令したのは俺だ。
「お前は関係ない。ちょっとだけやり過ぎただけだ」
「ともかく報告を聞こうか。事務室までお願いする」
踵を返すシャランの後ろについて歩き出した俺は、その腰のくびれと、ヒップのラインに目が釘付けになっていた。
こいつ……下着はつけているのだろうか。シャランの事だ、その下は裸の可能性が高い。
俺は透視するかの如く睨んでいたが同時に、隣のフォウの視線が突き刺さるのを感じていた。
だが今はそれどころじゃないと、俺は無視を決め込んで前方に揺れる大桃を眺めるのに集中した。
「ただの変態ですよ。アラン」
「俺は今、あるスキルを習得するべく集中しているのだ。黙っていなさい」
本当に透視みたいなスキル、あったらいいなと切に願うのだった。




