67・それは開かれた
「このままではいつ出発出来るか分からないので、シャランに相談しよう。そうしよう」
サジリアに報告した翌朝、俺は元気に闘技場へと向かった。
一人で行く気満々だったのだが、何故か全員ぞろぞろ付いて来た。
フォウ曰く。
「わたくしはサジリアの言っていた黒い幽霊が少し気になります。アランは一人で行動しない方が良いと思います」
だそうだ。
ちなみに昨夜はルルも馬車に泊まったが、ルルは床がいいと言うので、床に寝てもらった。
本人がそう言うのだから構わないだろう。決して虐待などではない。
さて、事務室の扉の前だ。
二度あることは三度ある。三度あったら四度ある。
心の準備は万端だ。
俺は扉の前でストレッチを始めた。
入念に行う。
どのような動きも咄嗟に出来るように、体を柔らかくしておかなければならない。
前回の俺は自らの限界を超えた身体能力を発揮し、見事避けきってその先の天国を味わったのだ。
俺は出来る! やれば出来るのだ!
ストレッチを終え、目を閉じ、精神を集中させる。
ゆっくりと深呼吸を数回。
扉を開けた後のイメージを、シミュレートする。
飛んでくる例のものはその角度によって、回避方向を瞬時に見極めなければならない。
横か後方か前方へ……まてよ! 前方は有効かもしれない!
体勢を低くして、前転を決める事が出来れば、回避するだけでなく距離も縮められるではないか!
敵との距離を縮める=それだけ間近でアレを拝めるという事だ。
行ける!
俺は勝利を確信して、閉じていた目を開いた。
「扉が……開いているだと!?」
目の前の扉は既に開かれ、他の連中は皆、中に入っていた。
「ど、ど、ど、どういう事だ!」
「アランがぶつぶつ言っている時に、ニナがさっさと扉を開けて入ってしまいましたよ」
鎧も飛んで来なかったらしい。
中ではしっかりと鎧を着こんでいるシャランが、テーブルに着いていた。
「お、お前! いつものお約束はどうしたあ!」
「なんの事だ? アラン殿。私は約束などしてはいないはずだが」
俺は愕然と膝を落とし、頭を垂れた。
「お、俺の……てん、天国……天国が……」
「アランしっかりして下さい。ここには今後の相談に来たのではないのですか?」
「あう……あう……あー」
「アラン殿すまぬな。いや私が謝る事でもないのだが、そんなに落ち込まないでくれ。なんなら私は……その……いいのだぞ?……いでも」
違う! 分かってねぇ!
見たかったら見せましょうじゃないんだよ!
見るつもりなかったのに見えちゃったラッキー! これが欲しいんだよ!
見るつもり満々だったけどサ!
ハプニング的なものを求めているんだよ!
ラッキースケベは男の浪漫なんだYO!
「負けた。今回は俺の……負けだ……帰るぞ」
「何しに来たんですか!」
帰ろうとする俺の襟首を掴み、引っ張るフォウの力は強い。
俺は引きずられながらシャランの前に来た。
「ところでアラン殿、黒い幽霊の件はサジリアから聞いていると思うが、昨夜も現れたらしいのだ」
「あう……」
「そこでアラン殿のパーティーにこの調査を依頼したいのだが、どうだろうか? その幽霊は闘技場周辺にばかり出るので、ここのイメージダウンになりかねないのだ」
「あう……」
「もちろんギルドは通すのでちゃんと報酬も出る。頼まれてくれないか?」
「あー」
「それは承諾してもらえたという事なのだろうか?」
「……わかったよ……調べるだけ調べておく。フォウが殺した魔族の幽霊かも知れないからな」
俺はなんとか復活し、虚ろな目で答えた。
「そうか助かる。ところでその子はどうしたのだ? 新しいメンバーなのか?」
シャランはルルを見ながら俺に聞く。竜だとバラしても大丈夫だろうか。
いや、余計な事は言わないでおこう。
「こいつはわけあって俺が預かっている。ルルだ。パーティーとは違うが……なんだろう、……ペット的な?」
「よく分からないがアラン殿も大変そうなのだな。とにかく幽霊の件は頼んだ。それで例の魔族の件だが、これもしばらくは様子見でお願いしたい。そうだな一か月くらいは王都に居てほしい。よろしくお願いする」
「ああ」
「そうだ。アラン殿は馬車で寝泊まりしているのか? もし良かったらここの宿泊施設を利用してくれても構わないのだが。今回の依頼の事もあるのでそっちの方が都合もいいのではないか?」
そんなものがあるのか。
「そうだな。では使わせてもらおうか。よろしく」
「うむ。では早速案内しよう」
意気消沈したまま案内してもらい、俺はそのままその部屋のベッドで不貞寝した。
「今日はもう寝るおやすみ」
「まだ午前中ですよ? アラン」
ベッドに突っ伏していた俺は、首だけフォウに向ける。
「いいか? フォウ。この依頼の幽霊の出没時間は夜だ。だから今のうちに寝て、夜に行動するんだよ」
実際はもう動く気力もないからだが。
「そうですか。ではわたくしたちも休む事にしましょう」
俺たちは仲良く昼間の睡眠を貪る事にした。
ルルは何故かベッドがあるのに床で寝ていた。地べたが好きらしい。




