65・黒い影
「とりあえずニナの着替えを渡してやれ」
ひとしきり泣いた後、俺はフォウに頼んだ。
ルルは背丈も体格もニナとそっくりだ。ニナのワンピースが着れるだろう。
フォウは袖口ポケットからニナの替えの服を出して、ルルに着せてやる。
「ありがとう。ウチ、服もってなかった」
白いワンピースを着たルルはニナとそっくりな恰好になり、髪色の違う姉妹のようだ。
しかも金髪と銀髪って凄いな。
「お前、ここらで人間襲ったりしてたか?」
とりあえず事情を聞く事にする。こいつが凶暴なやつなら、俺たちをいきなり襲ってきていてもおかしくなかったはずだ。
「ウチ食べ物もらおうとした事はあるけどー襲ってないよー。でも人間が襲ってきたらやり返してたけど」
「お前からは手を出してはいないって事か?」
「うん!」
「でもまさか竜の姿で、人の前に出てないだろうな?」
「だめだった?」
「竜の姿のままじゃ怖がらせるだけだろう。人は竜を恐れるものだ」
人は竜を魔物とは違った扱いをする事がある。竜を崇拝、信仰する地域もあるくらいだ。
人はそれを畏れ、神と同等のように崇めるのだ。
だがその一方で恐怖の対象というものは、安寧を求める人間の生活から排除されるべきものとして捉えられてしまう。
人間の勝手で崇められたり、討伐されたりと竜からしたら迷惑な話にしかならないが。
「ここでのお前は討伐対象になっている。依頼も出ているのだ。行く所がないなら付いてこい、飯ならいくらでも食わせてやる」
フォウに相談した方がよかったかな? と一瞬思ったが、ここは俺のパーティーリーダーとしての独断で通す事にする。
俺は既にこの竜の子に同情してしまっていた。
「そうなの? ウチ悪い事してないのにー。でもごはん食べれるなら一緒に行くー。おじいちゃんも居るし!」
どうやら竜の餌付けに成功したようだ。討伐はしていないが、依頼達成になるのだろうか。
サジリアに聞いてみよう。
飛べない竜の子ルルは、俺たちの一行に加わった。
◇ ◇ ◇
「竜の子を手懐けたと言うのですの? しかも……古竜ですの?」
五日掛けて戻った俺たちは、ギルド本部にてサジリアに報告していた。
「ああ、だからあの地域にはもう竜は出ない。これまでもこいつが一方的に襲っていたわけでもなかったらしいぞ」
「そうですの。様々な噂が交錯してしまって、正確な情報が伝わってなかったようですわね。ですがこれであの地域は竜の出現を恐れる事もなくなりましたわ。依頼達成とさせていただきますわ」
「ならよかった」
証拠として竜の姿を見せていたルルは、ボフンと人型に戻った。全裸ではなくニナのワンピースを着ている。
竜の姿の時はこの服はどこにあるのだろう。竜の時は着ていないのだ。
「それで話は変わるのですが、少し不穏な動きと言いますか、噂がございますの」
「噂?」
サジリアは、声のトーンを落として話し始めた。
「はい。アラン様たちが王都を出てからの話ですわ。なんでも王都の街に夜な夜な黒い幽霊が出没すると噂され始めたのですわ」
「幽霊だって?」
「黒い姿というのは共通しているのですけど、はっきりとその姿を見た者は居ないのですわ。今の所被害はないのですけど、その黒い幽霊は闘技場の近くに出没するそうですわ」
黒い姿と聞いて、あの魔族を思い出した。
もう次の斥候が来たというのだろうか。
「とりあえず被害は出ていないんだろう?」
「被害が出てからでは遅いのですわ。ですからアラン様たちも気を付けてくださいな」
「ああ、わかった。情報ありがとうな」
念のため、心には留めておくことにする。
「ではルルは俺たちが保護するから、よろしく」
「そうですわね。アラン様にお任せしますわ。よろしくお願いしますわ」
大所帯になってしまったが、別に構わないだろう。それに竜の子なら戦力になるような気もする。
「アランはハーレムでも作りたいのですか?」
フォウは俺の思ってもみなかった事を言う。俺はお子様には興味はない。
「だったらお前らもうちょっと成長した姿になってくれ。これじゃ引率の先生状態だ」
俺は正直な思いを口にした。闘技場の女騎士の姿を想像してしまったが、それは秘密だ。
――だが、フォウの冷ややかな視線がそれを看破しているかのようで、……ちょっと怖い。




