61・四天王の恐れるモノ
出発を決意したはずなのに俺たちは今、王都に戻ってきていた。
決して俺が未練を引きずったわけではない。
とりあえず闘技場の一番遠い場所から中央を覗こうとしたら、そこに居た黒いやつが目ざとくこっちを見やがった。
「既にバレてますね」
覗き見もさせてくれないらしい。俺たちは諦めて出ていった。
黒いやつと十メートル程離れて対峙する。
見た目は細身の小さいやつで身長は一メートル程しかない。頭には角を一本生やしている。
全身真っ黒で、それが服なのか皮膚なのか判別に迷う外見だ。首元には襟のようなものも見受けられるが、どう見てもそれは首に直結していた。
背中にはその体躯に比べてそこそこ大きな、一対の蝙蝠のような翼が生えている。
飛べるのかもしれないな。――見た感じはそのまんま悪魔ってやつだ。
そいつは俺たちを順番に見やり、最後にサーラの所で視線を止めて言った。
「四天王ヴィーダ様の命令で視察に来タ。俺様はガブ。この場所で巨大な魔力が感知されタ。ヴィーダ様は懸念されたガそれは杞憂だったようダ。ここには半端者しか居なイ」
四天王だと!?
こいつは四天王の配下なのだろうか。……だとしたら情報が欲しい。
「そのヴィーダってのは、何処で高見の見物をしてるんだ?」
「ヴィーダ様は魔族領のヴェルト山に籠っていル。そこからでも感知できたのダ。すごいだロ。だがさすがに誤差が大きかったらしイ。わざわざ転移させてもらって来たガ、それも無駄足だっタ」
こいつ……馬鹿だ。――誘導次第でいろいろと教えてくれそうだ。
「フォウ、どうだ?」
小声で隣のフォウ先生にお伺いを立てる。
天使がこの魔族に対して、勝てるかという意味だ。
「余裕です」
――だろうな。
「なら生け捕りにして」
「了解です」
「ブギャあ!」
疾風迅雷。――気付けば魔族の黒いやつは倒れていた。
何をしたのかも分からない。
まさに、瞬間移動。
十メートルの距離も、フォウにとっては無いに等しかった。
「あ」
フォウのその呟きは何を意味するのか。
「申し訳ありません。殺してしまいました」
「……」
弱すぎだろ魔族……。
生け捕りにするべく、手加減されたフォウの攻撃にあっけなく命を刈られていた。
「もっと情報が欲しかったが、四天王の居場所が知れた。まあいいだろう」
四天王は巨大な魔力を感知して、それを危ぶんだという事だ。そしてこの斥候はここには半端者しか居ないと判断した。
だがもしその四天王が、賢者の石並みの感知能力を持っていたとしたら?
それはマイナス値をも測れたという事だ。つまり俺のマイナス値、およそ(ー27000)の魔力を知って、なおかつそれがプラスに反転する事も分かっているとしたら、それを恐れたって事ではないのか?
――それならば納得がいく。
魔力値は成人するまでに魔法を使い込んでいれば、そこからさらに成長するらしいが、俺は十二歳の時ギルドで測ってから一度も魔法を使っていない。
――使えないからな。
だからその時の測定値のままのはずだ。
四天王と接触してこのマイナスがどうやってプラスに反転するのか分からない。だが四天王はそれを恐れた。そういう事だ。
「四天王ヴィーダとやらは転移魔法も使えるらしいですね。やっかいな相手だと思います」
「そう……だな」
俺は四天王にマークされたのかもしれない。
この先刺客も現れるかもしれないが、もう進むしかないのだな。
ここにこうして居てもなんだという事で、魔族の死体は闘技場のスタッフに任せて、俺たちはシャランの事務室に移動した。
「すまなかった。手間をかけたな。助かった」
礼を言うシャランの隣に見覚えのある女性が立っていた。
「何ごともなく終わって良かったですわ」
ギルドマスターのサジリアも駆けつけていたようだ。
「それで魔族の狙いはわかりましたの?」
「詳しくは分からん、ただ俺たちの誰かを恐れて斥候を一匹送り込んだようだ」
「これは申し遅れましたわ。ギルドマスターのサジリアと申します。アランさん……でよろしかったかしら」
サーラの魔力測定で会ったきりだが、サジリアは俺の事を覚えていたようだ。
「ああ、アランだ。うちのサーラがギルドで世話になった」
「アラン殿はそちらの三人を率いるパーティーリーダーだ。ニナ殿はローランド様と戦って圧倒していた程の強さだ」
「それは……素晴らしいですわ。勇者様を圧倒する者……そしてそのリーダー……もしかしてアランさんはサーラ様よりもお強いのですの?」
何故サーラが出てくるのか分からなかった。しかも……『サーラ様』だと?
まあいい、俺の聞き間違いだろう。
「俺がチカラを出せばこの中の誰よりも高い魔力値となる。それは確実だ。だから正直に言うが、あの魔族は俺を目当てに来たと思われる」
先ほどの自分の見解を明らかにした。
「サーラ様より……」
サジリアが何か呟いていたが、驚きの表情を隠さない。
そりゃそうだろう。俺の力が表に出ればそれは(27000)もの数値となるのだ。
このギルドマスターは俺の事を登録名簿で調べるかもしれない。そして俺のランクがDだと知れば、頭を混乱させる事だろう。
ちなみにその名簿に魔力値は記載されていない。




