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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第6章 王都編~黒い影~
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60・苦悶の夜と出発の朝

 今夜からは馬車で寝る事にした。パーティーの方針だ。

 食べ物はフォウの袖口ポケットに大量にある。しばらくは狩りもしなくて済むだろう。




 俺は悩んでいた。

 金は大量にあるし馬車もある。既に当初の目的だったそれは達成済と言える。

 王都を出て先に進んでもいいのだ。


 ……だが悩んでいた。


「アラン……またシャランの所に行こうとしてませんか?」

「え? なんの事? もうあそこに用はないよね? 行く必要ないよね!? 一人でなんて絶対に行かないよ? ホントだよ?」


 シャランの所へ行こうかどうしようか悩んでいた所、フォウに図星をつかれて少しあせったが、なんとかごまかした。たぶんバレてない……と思う。何でこいつはこんなに勘がいいのだ。


「……」

「さて寝ようか! ニナおいで! 寝ますよ!」

「はいなの」


 ニナを抱っこして、さっさと横になる。

 サーラもいそいそとフォウに近づいている。今夜も仲良く一緒に寝るようだ。

 馬車だからそうするしかないのだが。


 


 俺は悩んでいた……。

 王都を出よう心に決めると決まって、シャランのあられもない姿が思い起こされ、後ろ髪を引かれる思いで決意が鈍ってしまうのだ。



 だが朝になり目が覚めた時には、俺はついに王都を出る決意をしていた。


「というわけで王都を出ることにした」

「どういうわけですか」

「そういうわけだ」

「……」


 決定打はあの馬鹿の存在だ。あの馬鹿がこの王都に居る限り俺の心に安らぎはない。

 闘技場の事務室に未練はあるが諦めよう。


「そうと決まればすぐに出発だ。朝飯食ったら出るぞ」

「はいなの!」

「はい……」

「先に進むのは賛成です」


 馬車はすでに王都を出た森の中だ。

 森でフォウの結界を張ってキャンプしている。




 ところが朝飯を食っていたら、なんと俺の未練が馬に乗ってやってきた。


「アラン殿はいるか!? 私だ! シャランだ!」


 シャランが名乗った時には俺と目が合っていた。


「どうした? というかなんでこの場所がわかった」

「ギルドマスターのサジリアに聞いたのだ」


 そういえばギルドにはギルドマスター権限で、すべてのギルドカード所持者の所在がわかるという機能がある。

 

 これによって単独でダンジョンに潜ったものが、状態異常や怪我で動けなくなって予定日を過ぎても帰って来なかった場合などに、極めて早期に救出に向かえるのだ。


 パーティーの場合でもやむなく誰かを置いて行く状況になる事もあるし、残った者が同じ場所に居続ける保証もない。

 あくまでも緊急時だけと言うのが建前だが、ギルドマスターなら冒険者の所在など、知ろうと思えばすぐに知れるのだ。


「緊急だったのだ」


 シャランは説明する。


「今朝早くに魔族が一匹、闘技場にやってきて魔力の高い者を出せと言ってきた。私はニナ殿の事だと思った。だがサジリアに相談するとアラン殿のパーティーは他の者も高い魔力値だと言う。だとしたら誰の事なのか分からない。そこで貴殿に相談しに来たというわけだ」


 魔族だと?


「いやいや、俺たちの誰かを魔族に差し出せとでも? 勘弁してくれ。そういう事はあの馬鹿、――勇者にでも丸投げすればいいだろう。なんのための勇者だ? 少女に喧嘩売るだけが取り柄なのか?」

「その魔族の目的が分からないのだ。貴殿たちに思い当たる事がないかも聞きたくてな。それにローランド様はもう王都には居ない」

「はあ? 勇者が居ない?」

「ニナ殿に竜王の防具をダメにされて、その修復のためにドワーフの里へ向かった。その防具は一品物で、王都の鍛冶屋でも直せないらしい。昨日のうちに旅立ったそうだ」

「使えねーなあの馬鹿」


 俺たちも旅立っていてもおかしくなかったが、俺が悩んでいた一夜のせいで捉まってしまったという事か。


「フォウ、何か思い当たる事はないか?」


 こういう時は、教えてフォウ先生だ。

 

「闘技場に現れたという事でしたら、ニナの事ではないでしょうか。昨日勇者と戦った事でその魔力が魔族に感知されたとか……勇者よりも魔力は高いと思いますし」

「フォウという可能性はないのか?」

「感知が優れていたら、戦っていなかったわたくしたちの事も知れたかもしれませんね。そうなると一番あやしいのはサーラという事になりますが」

「わた……わた……?」


 こんな時にも、冗談の言える子になったのかフォウは……。


「とにかく目的も分からないのなら、のこのこ出て行く必要もないだろう。その案件は遠慮したいな」

「それがその、言いにくいのだが、確かに貴殿たちには関係のない事かも知れない。……だがその魔族は闘技場の中央に陣取って動かないのだ。つまりこちらにとっては営業妨害で……このままでは今日の開催は無理で……」


 おいおい……それって。


「本当に関係ないよね? 俺たち」

「ぬ、脱いでもだめか?」


 赤面しながら言うな! 出来ればそういうのはフォウ達の居ない所で言ってくれ!


「ま、まあでも、ものは考えようで、俺たちはいずれ四天王に会わなければならない。ここで魔族の雑魚も何とか出来ないようでは、この先に進む意味も無くなるだろう。そうだな? フォウ」

「アラン……残る理由を見つけたという事ですか? そんなにシャランの下着が――」

「ウォホン! ゴホン! 失礼、喉の調子が……いやまあ、なんだ。人の縁というものは大切にしないといけないのだよ。フォウ君。ここで俺がシャランの下着――王都の危機を見捨てて先に進む男だと思うのかい?」

「……」


 ああ……いつにも増してフォウの視線が冷たい。


「よ、よし。見るだけ見てみるか? その魔族」

「来てくれるのか? アラン殿! 助かる! 今脱げばいいのか?」

「いや、それは後で……じゃなくて、小声で言ってください」

「……」

「おにく」


 出発を決意したその日に、残留が決まった。




  

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