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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第1章 めぐりあい編~ニナ~
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5・ある賢者の回想


 あれは、そう。二十年以上も前になる。

 私がチダア国の教会を訪れた時の事だ。


 ある二組の夫婦が授かった子供の魔力値を、それぞれ測ることになった。

 なんでも私が滞在していると知って、遠くの町からわざわざ訪れたらしい。

 会ってみるとどちらも裕福そうな出で立ちで、私を見るとどこか怯えるように俯いていた。


 順番を決めてもらい最初の夫婦の子供を診たところ、魔力値が(728)というかなり高い数値を出した。

 これは成長するにつれ、かなりの値に育つと思われた。成人したら三千台も夢ではない数値だ。

 なにしろ赤ん坊が五百を超える数値を出す事は、ほとんどないのだ。

 この世界で特殊な職業に就いている者を除けば、成人の平均魔力値はだいたい二千がいいところだ。

 三千も超えたなら、それなりの職業に就く事が出来るだろう。

 

 その事を伝えるとその夫婦は嬉々として帰っていったが、問題は次に診た夫婦の子供だった。

 その二組目の家族の子供に起こった事は、なんとも言えない珍しい事件として記憶に残っている。


 その子供は魔力が無かった。いや、数値はゼロではなかった。

 私の石が示したのはマイナス値だったのだ。

 はたしてマイナスという値が出るという事自体、信じられない。今までもそんな事は一度としてなかったのだ。

 その時の私の賢者の石は、計測した瞬間に割れてしまった。基本的に破壊不可能と言われている石が割れたのだ。


 いったいどれほどの負荷がこの時かかったのか、想像もつかない。そして石が割れる直前、私の目にははっきりとその数値は刻まれていた。


(-27115)


 これがもしプラスとしての値だったのなら、とんでもない事だった。それこそ今はなき魔王の再来として、さまざまな物議を醸す事になっただろう。

 だがマイナスとして出たその値に、はたして意味はあるのか。私は今だに分からないでいる。


 その夫婦にはしばらくは様子を見るようにと告げはしたが、夫婦揃って絶望的な表情のまま、目を虚ろに帰って行く姿から、もしかしたら私の言葉は届いていなかったのかもしれない。

 私はそれ以上に掛ける言葉も無かった。

 この世界において、魔力無しとして生まれた子は忌み子として疎まれ、世間から爪弾きにされる未来しかないのだから、心中察するに余り有る。


 だがマイナスとは言えそのありえない数値は、いずれなんらかの形で私の人生に関わってくるかもしれないと、その時は少しだけ期待もしたものだが、十年経ち、二十年が過ぎても魔力値に関して、この世間を騒がせるような出来事は、何も伝わってこなかった。


 やはり私の思い過ごしだったのだろう、もう思い出す事もないかもしれないと、私はこの記憶を頭の隅に押しやる事にした。




   

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