56・ニナVS勇者2
グオオンと凄まじい衝撃音が会場に響き渡った。
ローランドからニナへ向って、幅一メートル程の亀裂が一直線に地走る。
ニナを通り過ぎた衝撃波は、その後方の結界にぶつかり亀裂を生じさせ、見えない結界を視覚化させた。
観客席はとりあえず無事だ。
「あいつ! 観客ごと殺す気か!?」
いつのまにか隣のフォウが、両手を前に突き出している。
「わたくしの結界も展開しました。危なかったです」
「わた……わた……」
サーラも杖を前に出してアセアセしている。チカラが無くても何とかしたいという思いが、無意識に行動させたのだろう。……健気だ。
ニナは……無事だ。
難なく衝撃波を避け、いつのまにか亀裂の横に立っている。
「ころして……いいなの?」
「いや僕は本気ではないぞ。ちょっとした準備運動だ。この剣の威力が凄すぎてね。魔力の量を少しばかり間違えたかもしれない(笑)」
ローランドが言い訳しているが、ニナはゆっくりと動き出す。
彼女の長く美しい金髪が巻き上がり、体全体が微かに発光し、勇者に向けて左手を開こうとした。
「おっとぉ! させないよ!(笑)」
間髪入れずニナに振るわれるエクスカリバー。
即座にニナが、前に向けようとした左手を横から襲ってきた剣に合わせると――、
火花のような閃光が、キンと激しく爆ぜる。
「昨日の試合を見たって言っただろう? ニナたんの魔法は危険だからね、発動させる時間は与えないよ(笑)」
キンキンキンキンキン!
「それそれそれそれそれ!」
「……」
な、なんだあの単調な動きは……あれが勇者の攻撃だと?
どこぞのラノベか!?
剣道で言うところの『面』を連続でお見舞いしているだけだ。
……ちょっとまて、なんだ? 『ラノベ』?『剣道』って?
俺は自分で知らない言葉を連想していた。
しかも以前見た夢の光景がフラッシュバックする。
キンキンキンキン!
「それそれそれそれ!」
だが俺の思考はそこまでだ。――ローランドの単調な攻撃がまだ続いている。
ニナはつまらなそうに生身の腕で伝説の剣――エクスカリバーをことごとく弾いていた。
キンキン!
「それそれ……あれ?(笑)」
それは突然収まった。
勇者の剣を素手で受けていたニナは、いつのまにかその剣を左手に奪っていた。
「ど、ど、ど、どういう事だ? 僕の剣が……」
勇者の剣。――エクスカリバーは、勇者と認められた者にしか持つ事は出来ない。
見ればニナはその剣の柄を握りしめ、ぶんぶんと素振りをし始めたではないか。
「どういう事だ。……分かるか? フォウ先生」
「わたくしにも分かりません。……その資格が魔力量だとしたら、わたくしにも持てるかもしれませんね、エクスカリバー」
「……」
ローランドは明らかに動揺していた。
「き、君! それは勇者の剣なのだよ。君が持っていい物ではない。つまり、その、返してくれないかな(笑)」
「ニナのこと殺そうとしたなの」
「いや、本気じゃないって! 僕が本気でそんな事するわけないだろう? 勇者だよ僕は!(笑)」
「もういいなの」
ニナはエクスカリバーを後ろに放り投げるや、神速をもってローランドに迫る。
「え?」
ローランドは自分でも気付かない内に殴り飛ばされていた。
彼が吹き飛ばされた先で待ち構えているのは――。
まるで瞬間移動をしたかのようなニナが、さらに勇者を殴って吹き飛ばし、先回りを繰り返す。
ありとあらゆる破壊音をその体から響かせながら、ローランドが宙に舞う。
もはや、ニナの動きは誰の目にも見えてはいないだろう。
時折その金髪のゆらめきが残像として残るのみ。
はっきりと見えるのは、宙で踊り続けるローランドの姿だけだった。
「あ、あいつ死んだな」
魔法さえ使う事なく、勇者を圧倒する天使がそこに居た。




