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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第5章 王都編~闘技場のあれこれ~
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56・ニナVS勇者2

 グオオンと凄まじい衝撃音が会場に響き渡った。

 ローランドからニナへ向って、幅一メートル程の亀裂が一直線に地走る。

 ニナを通り過ぎた衝撃波は、その後方の結界にぶつかり亀裂を生じさせ、見えない結界を視覚化させた。

 観客席はとりあえず無事だ。


「あいつ! 観客ごと殺す気か!?」


 いつのまにか隣のフォウが、両手を前に突き出している。


「わたくしの結界も展開しました。危なかったです」

「わた……わた……」


 サーラも杖を前に出してアセアセしている。チカラが無くても何とかしたいという思いが、無意識に行動させたのだろう。……健気だ。


 ニナは……無事だ。

 難なく衝撃波を避け、いつのまにか亀裂の横に立っている。


「ころして……いいなの?」

「いや僕は本気ではないぞ。ちょっとした準備運動だ。この剣の威力が凄すぎてね。魔力の量を少しばかり間違えたかもしれない(笑)」


 ローランドが言い訳しているが、ニナはゆっくりと動き出す。

 彼女の長く美しい金髪が巻き上がり、体全体が微かに発光し、勇者に向けて左手を開こうとした。


「おっとぉ! させないよ!(笑)」


 間髪入れずニナに振るわれるエクスカリバー。

 即座にニナが、前に向けようとした左手を横から襲ってきた剣に合わせると――、

 火花のような閃光が、キンと激しく爆ぜる。


「昨日の試合を見たって言っただろう? ニナたんの魔法は危険だからね、発動させる時間は与えないよ(笑)」


 キンキンキンキンキン!


「それそれそれそれそれ!」

「……」


 な、なんだあの単調な動きは……あれが勇者の攻撃だと?

 どこぞのラノベか!?

 剣道で言うところの『面』を連続でお見舞いしているだけだ。


 ……ちょっとまて、なんだ? 『ラノベ』?『剣道』って?

 俺は自分で知らない言葉を連想していた。

 しかも以前見た夢の光景がフラッシュバックする。

 

 キンキンキンキン!


「それそれそれそれ!」


 だが俺の思考はそこまでだ。――ローランドの単調な攻撃がまだ続いている。

 ニナはつまらなそうに生身の腕で伝説の剣――エクスカリバーをことごとく弾いていた。


 キンキン!


「それそれ……あれ?(笑)」


 それは突然収まった。

 勇者の剣を素手で受けていたニナは、いつのまにかその剣を左手に奪っていた。


「ど、ど、ど、どういう事だ? 僕の剣が……」


 勇者の剣。――エクスカリバーは、勇者と認められた者にしか持つ事は出来ない。

 見ればニナはその剣の柄を握りしめ、ぶんぶんと素振りをし始めたではないか。


「どういう事だ。……分かるか? フォウ先生」

「わたくしにも分かりません。……その資格が魔力量だとしたら、わたくしにも持てるかもしれませんね、エクスカリバー」

「……」


 ローランドは明らかに動揺していた。


「き、君! それは勇者の剣なのだよ。君が持っていい物ではない。つまり、その、返してくれないかな(笑)」

「ニナのこと殺そうとしたなの」

「いや、本気じゃないって! 僕が本気でそんな事するわけないだろう? 勇者だよ僕は!(笑)」

「もういいなの」


 ニナはエクスカリバーを後ろに放り投げるや、神速をもってローランドに迫る。


「え?」


 ローランドは自分でも気付かない内に殴り飛ばされていた。

 

 彼が吹き飛ばされた先で待ち構えているのは――。

 まるで瞬間移動をしたかのようなニナが、さらに勇者を殴って吹き飛ばし、先回りを繰り返す。

 ありとあらゆる破壊音をその体から響かせながら、ローランドが宙に舞う。

 

 もはや、ニナの動きは誰の目にも見えてはいないだろう。

 時折その金髪のゆらめきが残像として残るのみ。

 はっきりと見えるのは、宙で踊り続けるローランドの姿だけだった。


「あ、あいつ死んだな」


 魔法さえ使う事なく、勇者を圧倒する天使がそこに居た。




  

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