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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第5章 王都編~闘技場のあれこれ~
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55・ニナVS勇者1

「やあ昨日のカフェ以来だねニナたん。実は昨日の試合をたまたま見てしまってね、どうしても僕が相手したくなってしまったのだよ。突然だけど僕と試合してもらえるかな? 控えていた魔物は僕がさっき消してしまった(笑)」


 ここからでは聞き取れなかった言葉も、フォウが気を利かせて、風魔法であいつらの声を届かせてくれた。


「にゅ?」

「ニナたんに恨みもなければ憎しみの感情もない。ただやり合ってみたいだけなのだ。殺したりしないから安心したまえ(笑)」

「ニナはどっちでもいいなの」

「そうか、物分かりが良くて助かる。そうそう、君は本気で来てくれていいからね。では行くよ! ニナたん!(笑)」


 勇者――ローランドがニナと戦うと言うのか。

 戦ったとしてもニナが負けるとは思えないが、フォウの見立てでは狡猾な相手には負ける事もあると言う。

 どうなるのかと固唾をのんでいると――


 最初に動いたのはローランド。

 剣は、手にしていない。……が、速い!

 あっという間にニナとの距離を詰め、先制の右フックがニナの顔面を襲う。


「ローランド! 顔はダメだ!」


 勇者パーティーの魔法使い(男)の叫びが響く。

 ニナに当たる寸前で右フックをピタリと止めたローランドは、体を捻って左ボディを繰り出す。

 図らずも、最初のフックがフェイントになる。


 ……が、それらはすべて無駄だった。


 空を切るローランドの左拳。

 ……どころか、カウンターを食らってすっ飛ばされたのは馬鹿勇者の方だった。


 激しい衝撃音と共に、観客席と闘技場を隔てた結界に激突して、仰向けに倒れるローランド。


「!?」


 あの馬鹿は何が起きたか分かってない様子だ。

 ニナを舐めたからそうなるのだ。


 大方、勇者パーティーの魔法使い(男)は、ニナの綺麗な顔を傷付けるのは忍びないとでも思ったのだろう。

 それに応じたことだけは褒めてやるが、どちらにせよ真っ向勝負でニナに勝てるわけがない。

 まぬけめ。


「ニナ! 遠慮するな! やっちまえ!!!」

「はいなの!」


 あんなヤツに容赦する必要はない。

 

 倒れているローランドにいつの間にか肉薄するニナ。

 ほぼ予備動作のない踏み込みから生み出される、不可視の縮地は勇者のそれよりも速い。そして――

 同時に繰り出される神速の右ストレートが炸裂する。


「ぐはあ!」


 二ナの小さな拳が、ローランドがかつて味わった事のないような衝撃を伴って彼の顔面を襲う。

 さらに―― 二発、三発……四発五発!


「ぐっ……がはっ!」


 ローランドの顎が跳ね上がり、後方に激しく吹き飛ぶ。

 何度か床にバウンドした後、激しく転がったローランドは床に這いつくばった。


 あいつの顔に、既に余裕はない。

 信じられないものを見るように、呆然とニナを仰ぐ。

 

「ぐっ……なんなんだこのチカラは……しかも何も……見えなかった。竜王の防具の加護がなかったら今頃……」


 例の薄ら笑いさえも出なくなったローランドは、愕然としていた。


「まだやるなの?」


 面倒くさそうなニナ。


「くそ! ちょ、ちょっと油断しただけだよ、これからが本番さ。だけど僕に恥をかかせたのはいけないな。お仕置きをしないとね(笑)」


 ニナの打撃を喰らってもなお、なんとか立ち上がったのはさすが勇者と言うべきか。

 目つきが変わっている。

 背中に担いだ剣の柄に手をかけるローランド。


「あいつエクスカリバーなんか使う気かよ! 正気か!?」

「いけませんね」

「……」


 ローランドはなんの躊躇いもなく、その剣をニナに向けて振り下ろした。




   


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