54・そしてリフレイン
サーラが部屋から出てきた。
泣きながらフォウにしがみ付いている。
……やはりな。
俺は黙ってサーラを抱きしめた。
「大丈夫だサーラ。……俺らが付いてる、何も心配するな。フォウもご苦労だった」
「は……はい……」
サーラのギルドカードは確認しない。どうせFだ。
傷を広げるような事はしたくない。
俺は受付に戻り、サーラをパーティーに組み込む申請をすると、さっさとギルドを出た。
サーラが辛い思いをしたのだ。こんな所に長居する必要はない。
「よし闘技場へ行くぞ」
そろそろ夕方だ。今日のニナの相手は聞いていないが、心配はしていない。
俺たちは新たにメンバーとなったサーラを囲んで、闘技場へ向かった。
さて、事務室の扉の前だが、当然ノックはしない。
俺は勢いよく開け放った。
「!!!」
無言の風圧を伴って鎧が飛んできた。
俺はかつてない速さで動いた。
もはや三回目ともなると、考えるより先に体が反応する。――驚くべき事に俺はそれを避けたのだ。
上体を反らし、飛んできたそれをやり過ごすと、即座に姿勢を元に戻す。
……ガン見してやった。
俺の目に飛び込んできた光景は天国のそれだ。今日は下着すら着けていなかった。
その造形はこの世のすべての美に通ずる。そして――
なめらかな体の曲線と豊満な胸のふくらみに釘付けになった瞬間、後頭部に衝撃を受けて俺は気を失った。
気付くとまたしても長椅子に寝かされていた。
なんという事だ。俺が天国を噛み締めた瞬間、フォウが後ろから襲いやがった。
「フォウ……なんて事を……」
「申し訳ありませんアラン。考えるより先に体が反応してしまいました」
「先ほどの回避行動は素晴らしかったぞアラン殿。フォウ殿の回し蹴りも華麗だった」
俺は回し蹴りで落とされたのか。……この三回で成長していたのは、俺だけではなかったようだ。
俺にとって都合の悪い連携を、こいつは獲得してやがった……。
だが、――しかしこの女騎士、本当は着替えを誰かに見せたいのではないのか?
というか、どのタイミングでも着替え中とか、ずっと裸でこの部屋に居ると考えた方が納得できる。
「今日は私のデモンストレーション的な試合があったのだ。それが終わって着替えていた所なのだよ、もちろん鍵は掛けようとしたんだが、その鍵が壊れていてね、これから修理を申請するところだ」
女騎士は説明するが、俺は信じない。絶対に裸族だこいつは。
「まあいい。補充は出来た。これで俺は……三年持つ」
「アラン……」
フォウが呆れている。
「ところで、今日のニナの相手はどんなのが出るんだ?」
「それは教えられないが、Aランクの魔物とだけは言っておこう。ひとつ目を軽くいなしていたニナ殿の敵ではないだろうがね」
「そうか。ニナ、全力は出すなよ。昨日はあやうく一瞬で終わる所だった」
俺は昨日の試合を思い出し、ニナに注意する。
「はいなのー」
「では控室に行こうか、ニナ殿」
「じゃあ俺たちはまた観客席に居るからなニナ。頑張って手ぇ抜けよ」
「はいなの!」
観客席で試合が始まるのを待っていたが、いつまで経っても進行役が出てこない。
ニナはとっくに闘技場の中央に出ていて、ひとりポツンと立っている。
会場もざわついている。何かあったのだろうか。
やがて奥の扉から一人の男が出てきた。
その男の近くの観客席では黄色い悲鳴が上がっている。何事だ?
男が歩くにつれ、会場のざわめきも大きくなり、やがてその男はニナの前で立ち止まった。
あれは……!?
薄ら笑いを浮かべてニナと対峙していたのは――
「待たせたね。ニナたん(笑)」
馬鹿勇者だった。




