49・まさかのリフレイン
武器屋を覗いてみたが、俺に持てる剣などなかった。
店に置いてある剣すべてが、魔力注入型だったのだ。
つまり魔力を入れないとまったく使い物にならない鉄の塊なのだ。
しかも重いだけで振る事も出来ない。
この世界で魔力なしの存在は、無視されているのも同然で、本当に生き辛い。
この王都に限った事ではなく、この世界全てにおいてだ。
「他の試合でも見てみるか。ニナも参考にするといい」
俺は剣を諦めて闘技場へ向かう事にした。
メインの試合まで見学する事にしたのはいいが、俺が言うのも何だがお遊びだった。
確かに俺があの場に立てば、死を覚悟しなければならないだろう。
だがまがりなりにもあそこには、魔力のある戦闘士が居るわけで、それなりに戦えるはずなのである。
Cランクの魔物が続いたがどれも接戦で、なんと言うか泥試合だった。
ファイターも無傷では済まず、深手とは言わないまでも、それなりに傷を追ってしまっている。
途中で気が付いたが、これはわざと負けそうに演出しているのだろうか。
女騎士の言っていた、見せ場を作ると言う事なのかもしれない。
それにしても戦いがスマートではない。息も絶え絶えな感じが真に迫っている。
本当に苦戦しているのかもしれない。
とにかく俺的にはあまり面白くもなかった。普段天使たちの戦いを見てしまっているから特にそうなのだろう。
シャランの待つ事務室へ行く事にしよう。まだ時間は早いが、その方が都合がいい。敵は油断しているはずだ。
扉の前に来ると朝の記憶が蘇る。
まあ今日の今日で同じ事をやらかす程、女騎士も間抜けでもないだろうがな。
そう思いつつ扉をノックしないで開けた。
「!!!」
無言で鎧が飛んできた。
まさかと思っていたので、避ける事も出来ずに顔面に直撃した。
視界が真っ黒に染まり、そのまま意識を落とした。
今回は何故かニナの回復サポートが無かったので、俺が意識を取り戻したのはしばらくしてからだった。
目が覚めると事務室の長椅子に寝かされていた。
「すまない。こんなに早く来るとは思っていなかったのだ」
「うーん。狙ってはいたが本当にそうなるとは思わなかった。見たかったー凄いやつ見たかったー」
椅子から起き上がり、頭を抱えながら唸っていると――
「朝とおなじ事があったら、なにもするなってフォウが……」
――ニナがそこまで言って、フォウに口を塞がれていた。
フォウの差し金か。道理で神速の連携が発揮されなかったわけだ。
おかげで今回は痛い思いをしただけだ。
「君は本当にタイミングが悪いな。ちょうど修練が終わって着替えていた所だ」
その前に鍵を掛けろ。
いや、掛けなくていいけど。
「まあいい。朝の記憶が鮮明に残っている。俺は……まだ生きられる」
「その記憶早く消してほしいのだが……」
「あと数回、鎧をぶつければ消えるのではないでしょうか」
「……」
サーラも呆れるばかりだ。俺はどれくらい寝ていたのだろう。
「そろそろ時間じゃないのか?」
「そうだな。まだ少し早いが控室で待つといい」
「はいなの」
「とりあえず時間を掛けて倒せばいいからな。無理だけはするな」
「はいなの!」
シャランの案内で控え室に降りて行くニナを見送り、俺たちは観客席で見学する事にした。
闘技場の中央にマイク片手に、進行役らしき人物が颯爽と登場していた。
「それでは本日のメインイベントー!! ランクAニナたんの登場だー!!!」
「「「ウオオオオオオ!」」」
観客も盛り上がってるが、……なんだよニナたんて。
「その幼い容姿とは裏腹にー驚愕のー! ランクA少女だー! 野郎どもー!!!」
「「「ウオオオオオオ!」」」
ニナがピョコピョコ歩いて来ておじぎする。
何か言っているが聞こえない。マイク渡せばいいのに。
「対するのはー! 聞いて驚けー! 久しぶりのAランク魔物の登場だーー!!!」
「「「ウオオオオオオ!」」」
Aランクは久しぶりらしい。あの女騎士は最近は出て居なかったのだろうか。それとも魔物不足とか?
確かにランクの高い魔物を生捕りって、ここで戦うより難しそうだ。
闘技場の奥の扉が厳かに開かれると、そこには巨大な影が潜んでいた。
そいつが動き出すと、ズシンズシンと闘技場全体が揺れる。
その巨大な影と地響きに、既視感を覚えながら目を凝らすとそこにはあの、ひとつ目の鬼が現れた。
「なああああんと今回の魔物はーーー!!! ランクA上位のスィクロプだーー!!!」
進行役が言うには、ひとつ目はランクAらしい。しかもAの中でも上位だという。
フォウはワンパンで倒してたよな……隣のフォウに視線をやると、なにか? と、なんとも平然としている。
さてニナはどう戦うのか。すぐに倒すなとは言ってある。
ひとつ目に対して、魅せる試合が果たして出来るのか。
俺は少しだけ期待して、闘技場を見つめるのだった。




