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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第4章 王都編~道中~
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38・サーラ 胸のときめき

 わたし、告白します。

 わたし、死ぬかもしれません。


 今わたしの隣には、青き天使様のフォウ様がいらっしゃいます。

 すぐ隣です! 肩と肩が触れあう距離です!

 ……平常心。平常心。


 先程から胸が激しく高鳴っています。これが胸のときめきというものでしょうか。

 恥ずかしくて、畏れ多くて、わたしはどうしてもフォウ様のお顔を見る事が出来ません。

 とても見たいのです。そのお顔を間近で拝見したいのです。

 けれども、どうしても、そのほんの少しの勇気が出ません。

 

 わたしは何とか少しでも、フォウ様の傍に近寄るべく、にじり寄るのが精いっぱいでした。

 この十日間、ずっとそんな感じでした。

 今のこの距離は、わたしの十日間の努力の賜物なのです。


「じゃあ次はニナが御者役な」


 アラン様がニナ様にそう告げました。

 ああっアラン様。やっとそこに気付かれましたか!

 わたしはこの十日間ほど、何故ずっとフォウ様だけが、御者台で手綱を握っているのか分かりませんでした。


 天使様で在らせられるニナ様が、馬の操縦くらい出来ないはずがありません。

 それにわたしが乗ってきた馬車なのですから、わたしが御者台に上がってもいいはずです。

 なのにアラン様はそれをさせませんでした。


 だからといって、わたしがその事について口を出すのもはばかられます。

 わたしはずっと黙っていました。


 アラン様がニナ様へ告げたそのお言葉に、わたしは笑顔になるのを抑えられたでしょうか。

 決してニナ様がお嫌いなわけではありません。

 フォウ様とご一緒出来るのが嬉しいだけなのです。

 そこを勘違いされたくはありませんので、一生懸命に嬉しい気持ちを抑えていたのです。


 しかも! しかもです!

 ああ……平常心。平常心。

 しかもやっと、馬車の座席がベッドになる事を伝える事が出来ました!

 そしてわたしとフォウ様が一緒のベッドで寝る事に!


 わたしはこのベッドの事をずっとアラン様に伝えたかったのですが、なかなか伝わらなくてこの日まで過ごしてしまいました。

 わたしが、あの……とか、その……と言いかけますと、アラン様が決まって言葉を遮り、分かってる分かってると、何を分かってらっしゃるのか分からない事を話し始めて、しかも涙など浮かべていらっしゃるものですから、わたしもそれ以上何も言えなくなってしまって、なかなか伝えたい事が伝えられなかったのです。


 そしてそのベッドは二台分です。

 期待しなかったと言えば嘘になります。少しは期待してしまっていました。

 もしかしたら、わたしとフォウ様が一緒に……なんて。


 でもでも、わたしは自分の身分を分かっています。

 こんな卑しい生まれのわたしと天使様が、同じベッドに寝るなんて事があるわけがないという事も。

 

 ところがフォウ様がわたくしは床でも、などとおっしゃるものですから慌ててしまいました。

 天使様を床で寝かせるわけにはいきません。

 ましてやそのせいで、わたしがベッドに寝る事になるなど、あってはいけない事でした。


 なんとか言葉を絞り出して、わたしが床で……と申し出ます。

 お優しいフォウ様は、では一緒にと言ってくれました。

 ……一緒に。……一緒にですって? 今なんとおっしゃいましたか!?

 一緒に!?


 ああ。なんて慈悲深き天使様なのでしょう。

 こんなわたしと一緒に寝てくださるなんて!


 そういうやり取りもあって、わたしとフォウ様が一緒に寝る事になったのです。


 わたし、嬉しさのあまり――

 わたし、感激のあまり――

 死んでしまうかもしれません。




   


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