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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第4章 王都編~道中~
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37・馬車の中

 フォウが御者台に行ってしまうと、サーラは何やら不服そうな顔を浮かべた。

 俺に女心は分からないので、気にしない事にする。


 走り出した馬車の中で俺たちは情報交換した。


 それによると、サーラはお婆様である大魔法使いの言いつけで、チカラを解放するための手立てを求め、洞窟の神様(ジジイ)の元を訪ねたらしい。

 そこで俺の事を聞き、合流するべく追ってきたというわけだ。

 

 近くまではジジイの転移魔法で送ってもらったらしいが、それでも魔力なしが一人でこんな場所にまで来た事は驚きだ。

 俺だったらすぐに挫折して引き返していただろう。

 天使が居なければ。


「よく来たな、サーラ。……これからは俺がお前を守ってやる。俺から離れるなよ」

「あ……ありがとう……ございます」


 うんうん。俺がなんとかすると約束し、胸を張る。


「お前さんには話しておくが、ここに居るフォウとニナは天使だ。……驚いたろ? で、俺が保護者というわけだ」

「はい……よろしく……お願い…します……ニナ様」

「はいなの! ニナなの!」

「よろしくお願いいたします」

「あ、フォウ様も……よろしくお願い……します」


 フォウは御者台からでもこちらの会話が聞こえるらしい。――振り向いて挨拶を交わす。

 

 サーラはたいして驚いた素振りも見せず、二人が天使である事を受け入れていた。

 洞窟のジジイから説明を受けてきたに違いない。


 この子は今までの辛い経験から、あまり感情を見せる事はなくなってしまったと思われる。つくづく不憫な子だ。

 年齢を聞けば、十七歳だという。

 こんなに若いのに酷い思いをしてきたかと思うと、また涙が出そうになった。


 顔だちも天使たちのような美貌とは言わないがそれなりに、……いや結構可愛い顔をしていた。

 最近美少女天使たちを見慣れてしまって、可愛さや美しさの基準がずれてきている気がする。


 サーラは明るい茶色の髪を肩まで伸ばし、薄い茶の瞳は泣きそうな程に潤い、震え、やはり魔力なしの忌み子の特徴だろう、――視線を逸らして決して目を合わさなかった。

 地味な感じは否めないが、……金髪と青髪の天使が少し派手なのだ。


「俺たちは今、王都へ向かっているが最終的な目標は魔族領だ。怖い思いもすると思うが、一緒に居れば大丈夫だ。心配するな」


 言いつつ俺は思った。なんで王都へ行くんだっけ?

 たしか王都で稼いで馬車を買って……あれ?

 

 馬車の護衛が終われば報酬として金貨二十枚が手に入る。そして、サーラが一緒に行動することで彼女の馬車が使える。


 ふむ。

 もう働かなくていいんじゃないかな?

 とりあえず、王都に着いたら観光でもしよう。

 そう決めた。




 それから何事もなくさらに十日程経って、俺たちは補給地である小さな村に着いた。

 必要な物はフォウのポケットに全て入っている。観光地でもないから馬車の中に居る事にした。


「ニナは馬車の手綱を取る事は出来ないのか?」

「できるなのよ?」

「それを早く言え! ずっとフォウにやらせてたじゃないか」

「聞かれなかったーなのー」

「じゃあ次はニナが御者役な」

「はいなの」


 サーラの顔が輝いたような気がしたが、……気のせいかな。

 今は馬車を止めているので、フォウも幌の中に入って来ている。

 サーラとフォウの座る位置がすごく近いような気もするが、狭い馬車の中だ、これも気のせいだろう。


 この村では一泊の予定だ。このまま夜を迎え馬車の中で寝る事にした。


 実はこの馬車の座席は可動式で、背もたれを平らにしてベッドにする事ができると言うのだ。

 対面座席なのでベッドは二台分しかなく広くもないが、その事を俺は知らなかった。


 だから今日まで毎晩、外にフォウのポケットテントを出してもらって、個々のベッドで寝ていたわけだが、そろそろ周りの目が気になってきた。フォウの袖口ポケットは他に類を見ない、特別なもののような気がするので本当は誰にも気付かれたくないのだ。


 そして馬車のベッドは、子供サイズの女子どもは余裕で二人一緒に寝れる。

 ただニナは俺の左腕を抱き枕にするので俺と一緒だから、フォウとサーラが一緒に寝る事になる。


 最初はフォウが、わたくしは床でもいいと言っていたが、サーラが天使様にそんな事させるわけにいきませんと言い張り、わたしが床にと何やら二人でやり取りしていたが、ベッドに余裕がある事から結局一緒に寝る事にしたらしい。


 女の子のこういうやり取りは見ていて微笑ましい。

 サーラもフォウとたいして変わらない体格だから、狭くもないだろう。




  

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