34・合流
「アランと同じ匂いなの」
「え?」
「え……」
ニナが割って入ってきた。同じ匂い? ――それってまさか。
「お前さんまさか……」
「えと……えと……」
さっきから会話になってねぇ。
「あの……わたし……さ、サーラと……もうし……ます」
消え入りそうな声で、やっと挨拶してきた。
「そうか。俺はアランだ。よろしくな。隣のこいつがニナで、こっちがフォウだ。で、あんたもしかして……魔力なしか? それも普通じゃないやつ」
俺はストレートに聞いてみた。ニナが同じだと言うのなら、それしか思いつかない。
「あ……は、はい……わたし……マイナス値の……生まれ、です」
「やっぱりそうか! すごいな、俺以外にも居ただなんて。いったいどういう事だ?」
「あ……あの……」
「うんうん」
「わ……わたし……」
「はいはい」
「その……」
「……」
会話が続かねぇ。
ちょとイラッとしてしまった。――だが。
その時ふと、今までの自分の境遇が思い起こされた。
それは悲惨な人生だった。信じられる者など誰も居らず、魔力なしと蔑まれ続けた人生だ。
この子は俺と同じだ。同じ……魔力なしだ。
きっと俺と同じように、これまで生きてきたに違いない。
しかも女の子という事で俺とはまた違った、もっともっと悲惨な人生を歩んだに違いない。
俺はこの子の事が分かってしまった。……俺だからこそ分かってしまったのだ。
そう思ったら、俺は既に泣いていた。
「う、うぉぉぉぉ! ああああうぅお前さん……これまで苦労したんだろうなぁ……うぅぅ分かる! 分かるぞ俺には! うひっうぅぅそうか……。そ、そ、それでそんなに人間不信になっちまったか……。分かる! 俺には分かっちまうんだうううおおお……辛かったろう? 苦しかったろう? うおぉぉうひっく俺には分かるんだよぉぉぉぉ。ひっくぅぅぅそれにその……背中の杖……わ、分かるぞぉぉうううぅ魔力なしはさぁ……ひっく。憧れちまうんだよなぁ! ううぅぅぅ。魔力がないからこそさぁ! け、け、け、決して……使えなくてもさぁ……あ、憧れてそういうもん持ったり……ううう。しちまうんだよなぁぁうおぉんおんおん」
「アラン、その杖……普通じゃ……」
フォウが何か言おうとしていたが、号泣している俺には聞こえない。
「こ、これまで何があったかは聞かない。うおぉぉお、俺には分かるからなあああ……ううううだから俺はぁぁお、お、前の事をぉぉ……サーラと呼んでいいか? サーラの事をうぉぉぜ、絶対に馬鹿にしないいうっうっううう絶対にだ! うう……さ、さ、サーラの事を馬鹿にするやつが居たらぁぁぁ俺は絶対にぃぃぃそ、そいつを許さないぞぉぉぉ! うううぅぅぅ……ひーんひんひん」
「あ……ありがとう……ございま……す」
見ればサーラも涙を流している。
きっとこれまでの事を思い出してしまったに違いない。
さっきまでサーラのその挙動不審でハッキリしない態度に、イラついていた自分が恥ずかしかった。許せなかった。
こいつはこうなりたくて、なったわけじゃないんだよ!
辛くて苦しい生き方を余儀なくされて、人と接する事を極度に恐れて、それでもまだ生きていかなくてはならなくて。きっと若い女という事で、女として嫌な事もされてきたに違いない。あんな事やこんな事もだ! 許せねぇ。そいつらを殺してやりたい。あんな事やこんな事をやらかした連中に天罰を下したい。そしてその気持ちはこのサーラもずっと持っていることだろう。魔力なしという事で、絶対的弱者のレッテルを張られた俺たちの人生なんて、ゴミ以下なのだ。
そんな同じ境遇の者が俺の目の前に居る。守ってやらなくては!
どういう経緯でここに居るのかは分からないが、追って聞くとしてとりあえず俺はこのサーラと離れてはいけないという強迫観念に囚われた。
絶対に守ってやるのだ。あんな事やこんな事を迫る悪魔から守るために!
「あんな事……こんな事……」
ぶつぶつ言っていると――サーラが何やら一生懸命に伝えようとしてくる。
「あの……詳しくは……あの……馬車で……その……一緒に」
彼女の話をまとめると、詳しい話は馬車の中でするので同行させてくれ。と、いう事だろう。
「分かった。それであの馬車はサーラのか? 俺たちが一緒に乗っていいのかい?」
「はい……おねがい……しま……す」
「よし。ちょっと待っててくれ」
俺はフォグナーの元へ行き、護衛は引き受けるがサーラの馬車に乗り換える旨を伝えた。
サーラの馬車の御者台にはフォウが座り、後ろの荷台部分に残りの三人が乗りこんだ。
幌付きの立派な馬車だった。幌の支柱となる部分に、魔女と杖を表した紋章が刻まれていた。
この馬車を作ったメーカーのエンブレムだろうか。
俺はサーラという、この世界で一番か弱いであろう少女と、行動を共にする事にしたのだ。




