33・匂い
「おにくーおにくー」
巨大な肉が天に召された事で、ショックを隠せないニナは俺の治療を忘れていた。
「ちょ、ニナさんまだ治療終わってないよね? お願いだから早くして! 死んじゃうから! 俺死んじゃうから!」
「だって……おにくが……なの」
「今度いくらでも食わせてあげるから! なんでも買ってやるから! フォウもなんか言ってやって!」
涼しい顔で戻ったフォウは言う。
「ごめんなさいニナ、つい。……今度から消滅魔法は控えます」
「それはいいから! ニナ早くしろぉ!」
ニナはおにくおにく言いながら、やっと俺の足を治してくれた。
「死ぬかと思ったぁ~」
「アランはちょっと大袈裟です」
「なの」
「いやお前らこんな傷、負った事ないだろ! 絶対ないだろ! まじめに死ぬかと思ったんだぞ!」
「アランの雑魚っぷりが健在で安心しました」
「なの」
なんかちょっと酷い言われようだが。
ダメだこいつら。
俺の気持ちを分かってくれない。
「旅の方、大丈夫でしたか? 私は今回の旅の責任者でフォグナーと申します。お怪我は?」
責任者を名乗る男が挨拶してきた。
八つ当たりしてやろうかと思ったが、とりあえず怪我は完治したからいいか。
「俺たちは大丈夫だが、護衛のやつらは残念だったな」
「はい。高ランクのパーティーを護衛として雇ったのですが、運がありませんでした」
それは仕方がない。あんな化物が出てきてしまったんだ。
ニナとフォウが居なかったら全滅していただろう。
「フォウ、あいつは何だったんだ? 変異体と言っていたが」
「はい。稀に魔獣が原因不明の変異を遂げる事があります。進化するとも言います。その時の魔獣の強さは数倍にもなると言われていて、その特異例をわたくしたちは目にしたのだと思います」
本当に運がなかったんだな。そんなものと遭遇するなんて。
「あの、助けていただき本当にありがとうございました。それで、その。この先の道程の事でご相談がございます」
商人風の責任者は言う。
「よろしければこの先の護衛を引き受けていただけないでしょうか、もちろん報酬ははずませていただきます。どうでしょう」
ほぅ。どうせ馬車に乗せてもらっている身だ。
何かあれば、どのみち自分らで身を守らなければならない。
それで報酬が付いてくるというのなら、引き受けない手はないだろう。
「報酬は高いぞ? なにせ俺たちはAランクパーティーの『エンジェル』だ」
「おおっこれはこれは! Aランクパーティー様でしたか! 道理であの巨大な魔物をたやすく……もちろんですとも! さきほど全滅してしまったBランクパーティーの倍はお支払いしますとも。是非お引き受けいただきたい!」
俺はフォウにギルドカードを提示するように言った。
俺のカードはDランクだからな。
フォウのカードを確認したフォグナーは――
「確かにAランク! すばらしい! Aランクなんて初めて見ましたよ。では報酬は……ごにょごにょごにょ」
――後半は俺に耳打ちする。
なになに、報酬は金貨二十枚ですと? そんなにくれるの?
まぁ確かに命には代えられないし、道のりもまだ三分の一だ。
「ふ。Aランクの依頼としてはどうかと思うが、どうせ行く先は同じだ。よかろう、引き受けようじゃないか」
「ははっありがとうございます! Aランク様!」
「お前らもそれでいいな? 魔物が来たらやっつけるだけの簡単なお仕事だ」
両隣の天使たちに確認するとニナは、「おにくー」とまだ未練を残したままでフォウは、『またこいつは』と言いたげな目が冷ややかだった。
「では私は護衛たちの遺体を処理する作業がありますのでこれで。その間は休憩としますので、また後程。護衛の件はよろしくお願いいたします」
フォグナーはそう言うと去っていったが、入れ替わりに一人の少女が近づいてきた。
「あ……あの……」
「なんだい? お嬢さん」
いかにも魔法使いですみたいなローブに、背中のロッドらしき長ものが目に入る。
明るい茶色の髪を肩まで伸ばし、顔だちは可愛いがその目は脅えている。
フォウより少し年上くらいだろうか。
するとニナが身を乗り出し、少女に鼻を近づけた。
「アランと同じ匂いなの」
ニナが爆弾を投下した。




