32・サーラ 天使との出会い
わたし、告白します。
わたし、とても暇です。
転移先は、どこへ続いているのか分からない街道沿いでした。
あのお爺様はここで待てと言いました。
わたしは待ちます。
また知らない方とお話しなければいけないかと思うと、少し不安が募りますが、お爺様とはなんとか会話も出来ました。
それほど言葉は交わしてはいませんが、わたしは頑張りました。
お婆様は言っていました。サーラはやれば出来る子じゃ、と。
さて、どれくらい待てばいいのでしょうか。
やる事もなくて暇です。
馬車の御者台に座り、わたしはお婆様から授かった大魔導師の杖を取り出し、布で磨き始めました。
先端に埋め込まれた巨大な魔石は、赤く輝いてとても綺麗です。
この魔石の質によって、杖の性能もかなり変わってくるのです。
お婆様が使っていた水晶玉は大竜の心臓と言われていますが、この杖の魔石は大竜の目玉と言われています。
大竜とは古代の竜で、今の世界には既に存在しない竜種だそうです。だとしたらこの杖はいったいいつの時代に作られたのでしょうか。
わたしごときでは想像もつきません。
わたしの身長ほどもあるこれは、ただの杖ではありません。
かつて魔王に対して、大ダメージを与えた事があると伝えられているほどのものなのです。
お婆様はどこでこれを手に入れたのでしょうか。
偉大な魔法使いの手から手へ、受け継がれて来たのでしょうか。
わたしなんかがこれを手にして、釣り合うはずがありません。
畏れ多くてまだ一度も使っていませんが、せっかく譲り受けたものです。
ここで少し、試し撃ちをしてみたいと思いました。
ちょうど木の影から、こちらを窺っているダイアウルフがいました。
杖に少しだけ魔力を注ぐと、杖は応えるように軽く震えます。
魔石の光が強くなり、とても強い波動を感じます。
「すごい……」
私のチカラが、何倍にもなったかのような錯覚に陥ります。
これは、魔力の調整が難しそうです。
杖をウルフへ向けました。
試し撃ちです。ほんの少しだけ魔力を通して風をイメージします。
わたしもお婆様も、魔法を使うのに詠唱を必要としません。
イメージのみで、その長い詠唱を省略できる方法を確立していました。
風のイメージを杖に送り、そのままウルフへ軽く振ります。
わたしは吹き飛ばすつもりだったのですが、杖によって増幅されたそれは、ウルフに悲鳴をあげさせる事もなく、木の幹ごとまっぷたつにしてしまいました。
杖と使用者には相性があるといいます。
その相性が悪いと、いくら魔力を注ぎ込んでも弱い魔法しか出せないのです。
その逆に相性が良いと、とても少ない魔力で最大の威力の魔法を発動出来たりします。
どうやらわたしとこの子は相性が良いようです。
「よかった……」
せっかくお婆様が大切にしていた杖を頂いたのに、わたしが使いこなせないようではとても申し訳がないですから。
この辺りにはダイアウルフの巣でもあるのか、結構な数のウルフがやってきました。
その都度、杖で試し撃ちをしながら過ごしています。
そんな事をしながら、十日ほど経ったでしょうか。
わたしの周りはウルフの死骸で大変な事になっていましたが、このままでは景観が悪いと思い、すべて焼きました。
街道も綺麗になり、のんびり屋のわたしでも、さすがにそろそろ動いた方がいいのかしらと思いはじめた時、少し離れた場所でウルフの遠吠えが聞こえました。
馬車も居るようです。
襲われたら大変です。
わたしは杖を背中に戻し、すぐに馬車を走らせました。
わたしが駆けつけると巨大なウルフが目に入りました。通常のダイアウルフよりもかなり大きいです。
そして、その頭上に浮かび上がる美しい女性。
両手を広げ、青い髪は舞い上がり、光輝くその姿はまるで女神様か天使様のようです。
「天使様だ……」
わたしはすぐに分かりました。
洞窟のお爺様が言っていた、天使様だと。
「滅びなさい」
天使様のお言葉に、ウルフは塵となりました。
白光の中、分解されてゆくウルフは、天使様の言い付けに抗えるはずがありません。
暴れもせずただ塵となり、天に昇って行きました。
「綺麗……」
わたしは感動のあまり、涙を浮かべていました。ですがその感動を打ち消すかのように、誰かが叫びます。
「ニナのおにくが~~」
どうにも、空気の読めない方がいらっしゃるようです。




