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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第3章 めぐりあい編~サーラ~
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32・サーラ 天使との出会い

 わたし、告白します。

 わたし、とても暇です。


 転移先は、どこへ続いているのか分からない街道沿いでした。

 あのお爺様はここで待てと言いました。

 わたしは待ちます。


 また知らない方とお話しなければいけないかと思うと、少し不安が募りますが、お爺様とはなんとか会話も出来ました。

 それほど言葉は交わしてはいませんが、わたしは頑張りました。

 お婆様は言っていました。サーラはやれば出来る子じゃ、と。


 さて、どれくらい待てばいいのでしょうか。

 やる事もなくて暇です。


 馬車の御者台に座り、わたしはお婆様から授かった大魔導師の杖を取り出し、布で磨き始めました。

 先端に埋め込まれた巨大な魔石は、赤く輝いてとても綺麗です。

 この魔石の質によって、杖の性能もかなり変わってくるのです。


 お婆様が使っていた水晶玉は大竜の心臓と言われていますが、この杖の魔石は大竜の目玉と言われています。

 大竜とは古代の竜で、今の世界には既に存在しない竜種だそうです。だとしたらこの杖はいったいいつの時代に作られたのでしょうか。

 わたしごときでは想像もつきません。


 わたしの身長ほどもあるこれは、ただの杖ではありません。

 かつて魔王に対して、大ダメージを与えた事があると伝えられているほどのものなのです。


 お婆様はどこでこれを手に入れたのでしょうか。

 偉大な魔法使いの手から手へ、受け継がれて来たのでしょうか。

 

 わたしなんかがこれを手にして、釣り合うはずがありません。

 畏れ多くてまだ一度も使っていませんが、せっかく譲り受けたものです。

 ここで少し、試し撃ちをしてみたいと思いました。


 ちょうど木の影から、こちらを窺っているダイアウルフがいました。


 杖に少しだけ魔力を注ぐと、杖は応えるように軽く震えます。

 魔石の光が強くなり、とても強い波動を感じます。


「すごい……」


 私のチカラが、何倍にもなったかのような錯覚に陥ります。

 これは、魔力の調整が難しそうです。

 杖をウルフへ向けました。

 試し撃ちです。ほんの少しだけ魔力を通して風をイメージします。


 わたしもお婆様も、魔法を使うのに詠唱を必要としません。

 イメージのみで、その長い詠唱を省略できる方法を確立していました。


 風のイメージを杖に送り、そのままウルフへ軽く振ります。

 わたしは吹き飛ばすつもりだったのですが、杖によって増幅されたそれは、ウルフに悲鳴をあげさせる事もなく、木の幹ごとまっぷたつにしてしまいました。


 杖と使用者には相性があるといいます。

 その相性が悪いと、いくら魔力を注ぎ込んでも弱い魔法しか出せないのです。

 その逆に相性が良いと、とても少ない魔力で最大の威力の魔法を発動出来たりします。


 どうやらわたしとこの子は相性が良いようです。


「よかった……」


 せっかくお婆様が大切にしていた杖を頂いたのに、わたしが使いこなせないようではとても申し訳がないですから。


 この辺りにはダイアウルフの巣でもあるのか、結構な数のウルフがやってきました。

 その都度、杖で試し撃ちをしながら過ごしています。

 そんな事をしながら、十日ほど経ったでしょうか。


 わたしの周りはウルフの死骸で大変な事になっていましたが、このままでは景観が悪いと思い、すべて焼きました。


 街道も綺麗になり、のんびり屋のわたしでも、さすがにそろそろ動いた方がいいのかしらと思いはじめた時、少し離れた場所でウルフの遠吠えが聞こえました。


 馬車も居るようです。

 襲われたら大変です。

 わたしは杖を背中に戻し、すぐに馬車を走らせました。




 わたしが駆けつけると巨大なウルフが目に入りました。通常のダイアウルフよりもかなり大きいです。

 そして、その頭上に浮かび上がる美しい女性。

 両手を広げ、青い髪は舞い上がり、光輝くその姿はまるで女神様か天使様のようです。


「天使様だ……」


 わたしはすぐに分かりました。

 洞窟のお爺様が言っていた、天使様だと。


「滅びなさい」


 天使様のお言葉に、ウルフは塵となりました。

 白光の中、分解されてゆくウルフは、天使様の言い付けに抗えるはずがありません。

 暴れもせずただ塵となり、天に昇って行きました。


「綺麗……」


 わたしは感動のあまり、涙を浮かべていました。ですがその感動を打ち消すかのように、誰かが叫びます。


「ニナのおにくが~~」


 どうにも、空気の読めない方がいらっしゃるようです。




   


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