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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第3章 めぐりあい編~サーラ~
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31・サーラ 神との出会い

 わたしは今、扉の前にいます。

 岩にはめ込まれたそれは、とても不思議な感じです。

 洞窟の攻略を始めてからここまで、それほど時間は経っていません。

 様々なトラップや抜け道、数々の分岐点、幻影による妨害など、ここに来るまでにいろいろありましたが、お婆様から授かった大魔法のひとつでもある『対迷宮魔法』は、そのすべてをスルーして、正解を導き出す魔法なのです。

 多くの魔物たちも襲っては来ましたが、とても弱い魔物しか居なくて助かりました。


 そして今、目の前に扉があります。

 ノックをしてしばらく待ちましたが、返事もありません。

 扉は押しても引いても開かないようです。

 この先が目的地でしょうか。だとしたら先に進まないといけません。

 わたしは扉に魔力を注いでみました。


 ドカンと激しい音とともに、扉が壊れてしまいました。

 どうしましょう。弁償しないとならないのでしょうか。

 

 扉の先を覗くと広い空洞になっていて、何もない空間は遠くの壁まで見渡せます。

 中はとても明るいのですが、照明器具らしきものが見当たりません。

 とりあえず中に入ってみましょう。


「その扉を壊すとはとんでもない事じゃぞおぬし。そいつは賢者の石と同様の性質のものだったのじゃが、あーびっくりした」


 何もないと思われた部屋の中央に突然、お年を召した方が現れました。

 ……ちょっとビックリしてしまいました。

 見れば、とても立派な白い髭を蓄えたお爺様です。


「……」

「……」


 わたし、告白します。

 わたし、お婆様以外の方とお話しした事がありません。


「……」

「まぁよい。こっちに来なさい訪れし者よ」

「……」

「どうした。ワシを訪ねて来たのではないのか?」


 わたしはゆっくりと、お爺様に近づきました。

 この方のお話を聞かないとならないのです。

 そのために来たのです。


「は、はじめ……まして……さ、サーラと……申します」


 なんとか挨拶をする事ができました。

 よくお婆様は言っていました。

 サーラはやれば出来る子じゃ、と。


「おおー。よく見るとおぬし、『渡り人』ではないか。しかもアランと同じじゃな。こうも立て続けに失敗例と会えるとはどうした事じゃ。しかもサーラとやら、おぬし! チカラを解放しておるではないか! 扉が壊されたのもこれで納得じゃ」

「あ、あの……扉は……もうしわけ……ございま……せん」

「それはかまわん。どうせすぐに再生される。それよりもおぬし、その背中のもの、もしやゴウランド婆か?」

「あ……はい……お婆様を……ご存じ……です、か」

「ご存じも何もあの婆とはちと、腐れ縁があっての。まぁそれはよいが、そうか。婆がそのチカラを解放したのだな。だが、ふむふむ。どうやら半分が限界だったようじゃの」

「は、はい……その……通りで……ございま、す」


 わたしはこの方が、お婆様を知っているという事で驚いてしまいました。

 こんな洞窟に住んでらっしゃるお知り合いの事など、今まで聞いた事がありませんでした。


「ずいぶんと人見知りのようじゃの。して、目的は残りのチカラの解放と見たがどうじゃ?」

「はい……どうか……おちからを……お貸しいただけ……ないで……しょう、か」


 わたしは緊張に身体を固くして、両手を胸の前で握りしめてなんとか会話を続けます。


「おっと、立ったままではなんじゃな。座りなさい。婆の杖を譲り受けし者よ」


 いつの間にか、ソファが出現しました。

 無から何かを創造するなど、お婆様でも出来ないのではないでしょうか。

 わたしはそれに腰かけ正面を向くと、同じように椅子に座ったお爺様は、こちらをじっと見つめていました。


「うむ。実はな、少し前におぬしと同じチカラの持ち主と会ったばかりなのじゃ。そいつにはチカラの解放の手引きとして一つの案を授けたのじゃが、それは絶対ではないのじゃ。だがその男はそれに賭けたようでの。天使と共に旅立って行ったわい」


 絶対ではない。でも可能性はあるという事でしょうか。

 だとしたら、わたしも旅立たなくてはなりません。

 お婆様、わたし、このまま旅に出る事になりそうです。


「そ、その……どう……すれば」

「そうじゃの。ワシがその男に教えたのは、魔族の四天王の生き残りに会うという事じゃ。本当は魔王が一番いいのじゃが、そいつは勇者に討伐されてしもうての。代替え案として、四天王の生き残りに会ってみてはと提案したのじゃ」

「そ、そう……です……か」


 だとしたら、魔族領まで行かなければならないのでしょうか。

 とても、遠い場所だと聞いた事があります。


「すでにアランという男が向かっておる。もしその男が魔族領でチカラを解放する事ができた時に、おぬしがその場に居なかったら、おぬしの解放のチャンスはなくなるかも知れぬぞ」


 それは大変です。

 やはりお婆様の言った通り、そのアランという方に合流した方がよさそうです。


「で、では……その方に」

「そうじゃな。合流して行動を共にしたほうが無難じゃな。ワシがその男の元へおぬしを送ってやろう」

「あ、あの……馬車が……洞窟の……入り口に」

「そうか、どれ、久しぶりに外に出てみるかの」


 お爺様とわたしは一緒に、洞窟の入り口まで歩いて出ました。

 不思議な事に来た時とは違って、魔物が一匹も出ません。


 お爺様はわたしを馬車に乗せると、なにやら唱えだしました。

 聞いた事もない言葉と発音です。

 もしかしたら、わたしを馬車ごと転移させるのでしょうか。


 転移魔法。

 それは、お婆様でも出来ない特殊な魔法です。

 回復魔法と同じでそれを習得するとしたら、他のすべてを犠牲にしないとならないのです。

 しかもすべてを犠牲にしてもなお、習得できるとは限らない魔法なのです。


「よいか、だいたいの場所にしか送ってやれんし、距離的にそこが限界じゃ。着いた先で待っておればアランという男が天使を連れて現れるじゃろう。その者と一緒に魔族領へ行き、みごとその願いを成就してみるがよい」


 やはり、転移魔法を発動するようです。

 わたしを乗せた馬車ごと光に包まれだしました。


「驚いておるな? そうじゃこれは転移魔法じゃ。だがおぬしがそのチカラをすべて解放した暁にはこんなもの、あくびをしながら出来るようになるじゃろう。それまでせいぜい精進するがよい」


 お爺様のその言葉を最後に、わたしは知らない場所へと転移させられました。

 転移魔法に驚いてしまって、お礼を言う事も忘れていました。

 お爺様には、とても礼儀知らずな事をしてしまったと思います。


 とても貴重な体験をしたわたしですが、あのお爺様はいったい、何者だったのでしょう。




   

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