29・王都へ
俺たちは王都行きの乗合馬車に乗っていた。
なぜそうなったかと言うと、まずギルドには目ぼしい依頼がほとんどなかったのだ。
いや依頼はあるのだがそれを数こなしたとしても、馬車の購入まではほど遠いと思えるものだった。
田舎町では仕方のない事だが、ギルマスの言っていたランクAの活躍の場が王都にはあるというのを思い出し、それに期待して移動する事にしたのだ。なにより王都はここから北に位置している。
俺たちが最終的に目的地としている魔族領と方角が同じなのだ。
「おなかへったなの」
「おい。さっき食ったばかりだろ」
「そうですよニナ、少しは我慢してください」
ニナとフォウには頭からすっぽり覆う、フード付きのマントを着せていた。
これで顔も隠せる。あとは派手な行動さえしなければ目立つ事もあるまい。
すでに十日ほど馬車に揺られている。王都までは一か月ほどかかるらしい。
この馬車には俺たちを含めて六人乗っていて、後ろに続く馬車が商人たちの荷物用、さらに後ろに二台、計四台の馬車で連なっていた。一番後ろの馬車には、専属で雇われた護衛たちが居るはずだ。
「そろそろ飽きてきたな」
「そろそろおなかへったなの」
「ニナはそればかりですね」
次の補給地である村に到着するまでは、手持ちの食糧で持たせなくてはならない。
とはいえそこそこ金を持っていた俺らは、フォウの袖口ポケットに大量に買った食糧を仕舞い込んでいた。
ポケットに食べ物を入れても腐らないのは確認済みだ。
「仕方ないな、ニナに燻製肉でも与えといてくれフォウ」
「仕方ありませんね」
フォウはまわりに見られないようにこっそりと燻製肉を取り出し、ニナと俺にも渡してくれた。
「おやつなの!」
「いや、それ昼飯だから」
「はい。味わって食べてくださいね」
「ええ! 足りないなのー」
「だから朝食食ったのついさっきだよね? ニナさん? お前に欲しいまま与えてたらあっという間に食糧尽きるわ!」
ニナはちびちびと齧りだした。
それからしばらく、馬車は街道を軽快に走り続けていたが、林を抜けようとしたところで異変が起きた。
「何か来たなのー」
ニナが言うやいなや、いきなり激しく揺れ、馬車は急停止した。
何事かと外の様子を窺うと、一番後ろの馬車に居た護衛たちが何やら叫んでいる。
「魔物だ! 外に出るな! ダイアウルフが居るぞ!」
護衛たちは飛び出してきたが、たった四人しか居ないらしい。
四人とも剣を持っている。魔法特化のワンド持ちは居ないらしい。とすると全員魔法剣士といったところか。
ちょうど三台目の馬車に飛びかかろうとしていたダイアウルフは、すぐ後ろの馬車から飛び出した護衛どもの剣によって串刺しにされた。魔法を帯びたその剣はいとも簡単に、ダイアウルフの巨体を刺し貫いていた。
「俺たちはBランクパーティーの『カサブランカ』だ。この程度の魔獣ごときには遅れはとらない、安心してくれ」
どうやら高ランクパーティーが護衛にあたっていたようだ。Bランクともなれば、大抵のトラブルは解決できるだろう。俺はニナたちの力を借りないで済んでひと安心した。
「Bらんくなのーすごいなのー」
「そうだ、お嬢ちゃん。俺たちはBランクだ。凄いだろ。だから安心していいからな」
馬車の外に出てダイアウルフを観察していた俺たちだが、ニナの賞賛に『カサブランカ』のひとりが答えた。
「お前は自分がAランクなの分かっているのか?」
俺が小声で言うと、なにそれおいしいの? みたいな顔してやがる。絶対AもBも分かってないなこいつ。
「アラン、気を付けてください」
「あ……なの」
フォウが俺に注意を促した一瞬にそれは起こった。ニナにBランク自慢していたやつの首から上が無くなったのだ。




