28・サーラ 洞窟へ
翌日には出発する事となりました。
わたしはもう少しゆっくりしたかったのですが、お婆様が言うには洞窟に訪れた者と、わたしが接触する必要があるかもしれないとの事でした。そのため、少し急ぐ事にしたのです。
朝、旅の支度をしていると、お婆様が布に包まれた一本の杖を渡してくれました。
「お婆様……これは……」
わたしにはこれが何かわかりました。お婆様の愛用している魔法のロッドです。
布に包まれていてもそれに使われている魔石が、わたしの体を痺れさせる程にその存在を主張しています。
「お前さんに譲る事にした。その資格もある。大事に使うのじゃぞ」
「大魔導師の……杖……こんな大切なもの……わたしには」
「資格はあると言ったじゃろ。お前さんはこのまま行けばワシさえも超えるじゃろう。それも時間の問題じゃ。すでに素質は十分にあるのじゃからな。それにもし、お前さんのチカラがすべて解放されたとしたら、その杖の助けすらいらなくなる事じゃろう。その時は返してくれてもいいが、誕生日のプレゼントじゃ。遠慮はするな」
「お婆様……ありが……とう……ございます」
わたしは震えながらそれを両手で受け取りました。
お婆様がわたしの事を認めてくれた事が何よりも嬉しく、そしてこの杖がその証拠とばかりに、授けてくれるその手の小ささを見て、これまでの修行の厳しさや、お婆様の優しさが思い起こされました。
その手はいつも温かかったものだと、小さくともとても大きな手であったのだと。
わたしは涙が止まりませんでした。
この小さな手に宿る魔力に敵うものなど、この世界に何人も居ないに違いありません。
しかしそれさえも超えろと言うお婆様の言葉はとても畏れ多く、ただ、ただ恐縮するしかありませんでした。
わたしは旅装を終えると、魔導師のロッドを背中に背負い、旅用の靴に履き替えて、お婆様に別れを告げます。
突然の旅路です。いつ帰れるのかも分かりません。
立派なお屋敷を眺めたあと、お婆様と抱き合います。
「では……お婆様……行ってまいります」
「うむ。気を付けて行くがよい。ワシの事は心配するな。達者でな」
「必ず……戻ってまいります。どうかそれまで……お元気で」
お婆様に貸していただいた二頭立ての馬車の御者台に乗り、わたしはこの地を立つのでした。
振り返ると、お婆様のお姿はどんどんと小さくなっていきます。
「あの子の強さならどこに出ても心配はないが、むしろ対人能力において果てしなく不安になるのぉ」
お婆様の呟きは走り出した馬車の騒音とその距離で、わたしに聞こえる事はありませんでした。
わたしはそれから四日間程走り続け、目的の洞窟に到着しました。
洞窟の中ではたくさんの魔物たちが襲ってきましたが、どうやらどれも弱い魔物たちだったようで、お婆様の杖を使うまでもなく、撃退できました。




