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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第2章 めぐりあい編~フォウ~
27/105

26・宿にて

 食事を終えて指定された部屋に入ると、そこそこ広いスペースにベッドが四つあった。

 宿には三人部屋の設定がなく、二人部屋か四人部屋を選ぶしかなかったのだ。


 ベッドに飛び込んだニナは――


「もーたべられなーいおなかいっぱーいなのー」


 ――と、ご満悦の様子。

 それもそのはずだ、あの後ニナは食堂に居た連中からご馳走攻めにあっていたのだ。


 俺が残りものの肉を与えた時に出た、天使の笑顔を見てしまった連中は俺も私もと、こぞってニナに料理を分け与え始め、ちょっとした騒動になってしまった。


「いいの? いいの? ありがとうなの」


 次から次へと差し出される食べ物を、ニコニコパクパクしているニナに、献上するものがないやつは、わざわざ料理を注文してまで与えていた。


 不思議な事に、ニナと同じような顔をしているフォウには貢物がなかった。たえず無表情だからだろうか。とはいえ美少女には違いないのだが。

 するとフォウは俺に耳打ちしてきた。


「ニナは無意識に『天使の誘惑』を使ったようです。アランにはどうやら効いていないようですが」


 何でも天使の持つ固有のスキルがあるようで、そのうちのひとつをニナは無意識に使用したようなのだ。

 そんなの初耳だ。だが俺に効かないのは何故だろう。

 確かに先ほどの笑顔の破壊力は凄かった。胸に突き刺さるものがあった。

 だがここの連中のように狂わされる事はない。


 ニナが満腹になったと同時に、その効力は切れたようで、争うように貢いでいた連中も次第に自分の居た元のテーブルへと戻って行くのだった。


「天使やばいな」




 そんな騒ぎが先ほどの食堂であったのだ。

 このような事が続くとしたら、俺たちはもう宿になんて泊まれないかも知れない。


「いいかニナ。次からは天使のなんちゃらってのは、無暗に使ってくれるなよ。と、言いたいところだが無意識じゃどうにもならんか」

「うん。ニナわからないなのなの」


 満腹のお腹を抱えながらきょとんとするニナに、これじゃ怒る事も出来ない。この先また何かやらかす予感しかしないのだが。


「そこはとりあえず気を付けてもらうとして、明日からの事なんだが、ランクの低い依頼を地道にこなして行こうと思う。どうせおいしい仕事はもうないだろうから仕方ないが、数をこなせばそのうち馬車も買えるくらい貯まるだろう」

「了解しました」

「はいなのー」


 明日からはなるべく節約も心がけよう。宿はとらずに教会で寝泊まりでもいいだろう。宿では人目に付きすぎた。


「腹もふくれたし、俺はもう寝る」

「ニナも寝るーなのー」

「おやすみなさい」


 ニナは俺の腕を抱き枕にするべく、こっちのベッドに入ってきた。もう慣れた。放っておこう。


 そして俺たちが眠りにつくその頃、神様の居る洞窟にひとりの少女が訪れた事など、その時の俺には知る由もない事であった。



  


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