25・天使の笑顔
夕方。ギルドを出た俺たちは一階が食堂になっている宿に泊まる事にした。金はある。
そこそこ良い宿だ。そこそこ美味いメシが食える事だろう。宿泊の受付を済ませてから、すぐに食事を頼む事にしてテーブルにつく。
「おなかーへったぁーなのー」
ニナは空腹でぐったりしている。討伐に行く前から我慢させていたからな。フォウはいたって平常運転だ。
「なんでも好きなの食っていいぞ。金ならある」
「にくーにくなのーにくー」
「わかったわかった。一番良い肉を食おう。金ならある」
「先ほどからアランは、どうしてもその台詞を言いたいようですね」
「おう。金ならある」
そうなのだ。この台詞を一度言ってみたかったのだ。
激貧の暮らしを余儀なくされていた俺が、夢に見たこの台詞。
なんだこの快感は。この言葉を発するたびに体が甘く痺れる。
「とりあえず、金ならある」
お品書きを見ながら、ここで一番値段の高い、魔物ではない肉のステーキを注文する事にした。
「この一番高い肉をくれ。スープにサラダとパンも三人分だ。金ならある」
俺は自信たっぷりに注文するのだった。
「アラン、少しは節約を心がけないと、馬車がいつまで経っても手に入りませんよ」
「分かってる。だが今日くらいは贅沢しようや。せっかく大金が入ったんだ。明日から節約するから」
オグルの討伐報酬が金貨七枚。ゴブリンの群れが金貨五枚。馬車を購入するとしたら、馬込みの場合金貨二十枚は必要だ。ちなみにここの宿代が銀貨五枚。食事もそれくらいだろう。
そして金貨一枚は銀貨百枚相当だ。
本当なら乗合の馬車で少しずつ移動するのも手なんだが、天使を二人連れて人の目に触れながらの移動などして、トラブルに巻き込まれないわけがない。
こいつらは、誰がどう見ても美少女なのだ。誘拐事件に巻き込まれる可能性が高い。その気がなくても、この二人の美少女っぷりを見た瞬間、攫いたくなるかもしれない。
殺戮天使としては命の危険は無いのかも知れないが、それでも面倒事は避けたい。
何より、どさくさで俺が死にそうだし。
すぐに料理が出てきた。思ったよりもボリュームのあるステーキに、ニナは大喜びだ。
「いただきますなの!」
「おう。食え食え」
「いただきます」
こうしているだけでも、二人に視線が集まるのを感じる。食堂スペースには十人ほど人が居るだろうか。
そのすべてがニナたちの容姿に囚われたかのような、じっとりとした視線を向けている。
まだ少女の姿の二人だが、ひとめ見た瞬間に引き付けられ、その成長した姿を想像せずにはいられない。
天使のオーラでも撒き散らしているのかもしれない。
やはり馬車は購入しよう。俺はフォウが用意してくれた丸焼きの肉とたいして変わらない味の肉を頬張りながら、明日からの事を考える。
明日からどうするか。オグルの一件はギルドで提出されていた依頼の中で、一番上位のものだった。
この田舎町ではこれ以上の好物件は既にない。あとは、Dランク指定以下の依頼があるだけだ。
地道にやるしかないだろう。
ちなみに、神様の居るAランク指定の洞窟には討伐依頼はない。人があの洞窟に行く事もなければ、あの洞窟の魔物たちが洞窟から外に出る事もないからだ。
依頼がなければいくら倒しても成功報酬はもらえないからな。魔物を倒したところで俺に経験値が入る事もないのだし。
ここで言う経験値とは、あくまでもギルド内で定められたもので、ランクDの者がD指定の依頼を何回達成したからランクCに昇格させましょうとか、そういったものだ。
おのれの技を磨けばそれなりに強くもなれるが、魔物をただ倒しただけで、どこぞに経験値がたまり、レベルが上がって勝手に強くなるというような事はない。
あるとしたら、魔力値の大小の差であって、それがこの世界の強さの全てでもある。
俺がステーキを半分食べた頃には、ニナは既に食べ終わっていて、物足りなそうにしている。
仕方がないので残りを全部くれてやったら、にこーっとめちゃくちゃ笑顔になった。
その笑顔の可愛さたるやまさに、純情可憐にして八面玲瓏。この世のものとは思えない程だ。
そう、目の前には……。
天使の笑顔があった。




