24・殺戮の天使
ゴブリンの死骸を数えると、三十体もあった。
首のないもの、喉を裂かれているもの、腕のないもの、両足がないもの、
胸をひと突きでこと切れているもの、頭蓋が陥没しているもの。
まるで殺害方法の展示会となっていた。
二人が動き出してからそれほど時間も経ってはいない。
神速とも言える速さでこれらを蹂躙していったのだ。
緑の魔物たちは抗うすべもなく、地に落ちた。
それらの中心に二人の天使が背中合わせに立ち、あたりを睥睨する様は、まるで名匠の手による彫像のようで美しい。
あまりにも絵になる構図を、俺は心の中で切り取り、額に収め名をつける。
「殺戮の天使だ」
興奮さめやらぬ俺は、死骸に駆け寄ってせっせとギルドカードに登録していくのだった。
ゴブリン討伐は常時依頼ボードに上がっている。
こいつらが群れを成すと、小さな村などあっという間に蹂躙されてしまう。見つけ次第討伐が基本だ。
「アラン、おなかへったぁ」
「わかったわかった。さっさと帰ろう」
さすがのニナもゴブリンには食指が動かないようだ。
緑色の人型とか、気持ち悪いよな。
俺たちは今度こそ帰路に着くのだった。
◇ ◇ ◇
「アランさん、ランクがEからDに上がってます」
ギルドの受付でアリナ嬢が告げる。
「ふ、まぁそんなもんか」
心で小躍りしていたが、平静を装う。
「すごいですね、オグルの討伐のついでにゴブリンの群れ三十体ですか」
「ふ、まぁそんなもんだ」
俺は何もしていないんだが、余計な事は言わない。
「では報酬を受け取ってください。オグル討伐金貨七枚。ゴブリン三十体討伐金貨五枚です」
うおおおおおお!!! そんな大金手にした事ないぞ!
「ふ、確かに受け取った。またよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いいたします。とはいえ、オグル以上の依頼はもう無いのですけど」
頬にかかった金髪を、耳の上にかき上げながらアリナ嬢は言う。
そうだった。
これほど報酬の良い依頼は、もう無いのだった。
「よう! ゼロ! その金はどうしたんだ?」
ちっ。サガートだ。
こいつは何でいつもギルドに居るんだよ。
「何だっていいだろ、ただの討伐報酬だ」
「アランさんのパーティーはあのオグルを討伐してしまったのです。凄いですよね」
おいこら、受付嬢。余計な事言うんじゃねえよ。
「はあ? ゼロがオグル討伐だって? んなわけねーだろ」
「頼むからほっといてくれ」
「いーや、ほっとかねえ。どうせあれだろ? 森に行ったらオグルがたまたま死んでて、これ幸いとばかりに討伐登録してきたんだろうが?」
あ~面倒くせえ。……もう天使たちに一発こいつを殴らせて……ってあれ?
二人ともどこ行った?
ギルドの一階はそこそこ広く、受付以外にも食事が出来るスペースもある。
見ればその一角で天使たち二人は……いや、ニナは見知らぬ食事中の冒険者に餌付けされていた。
フォウはそんなニナに注意をしているようだ。
「ほれ、肉だぞお嬢ちゃん」
「あ~~んなの」
「お嬢ちゃん、可愛いなあ。もっと食っていいぞお」
「この子にあまり餌を与えないでください」
何やってんだ、あいつら。知らないやつに恵んでもらってんじゃねえよ。
「おい、ゼロ。せっかくだからその報酬で一杯奢れや」
「はあ? 何でお前なんかに……」
「いいから、いいから!」
俺はサガートに肩を抱かれて、無理やり酒を売っているカウンターに連れて行かれた。
くそっ。
「おーい! ニナ! フォウ!」
だめだ、あいつら気付かねえ……と、思ったらフォウがこっちを見た。
サガートが勝手に酒を注文して、俺から金貨の入った布袋を引っ手繰ろうとしたその時――
「何で絡まれてるんですか? アラン」
――いつの間にか移動してきたフォウが、サガートの太い腕をその小さい手で掴んでいた。
「なんだおめえ? ゼロのパーティーのガキか?」
「だったら何ですか?」
「う、動かねえ!」
フォウに捕まれたサガートの腕はピクリとも動かない。
「うおおおお!」
サガートが顔を真っ赤にして抗うが、涼しげな表情のフォウの手を引きはがせないらしい。
突然、彼女はその手をパッと離した。
「んがああ!」
サガートはドンガラガッシャンと勢いよく転がって、そこら辺のテーブルやら椅子やらを跳ね飛ばしながら、派手に壁に激突した。
「行くぞ! フォウ」
「はい」
これ以上面倒事はごめんだ。
俺たちはさっさとギルドを後にした。
まだ餌付けされている最中だったニナを回収したのは、言うまでもない。




