23・オグル討伐
東へ二時間ほどの森に着くと、ギルドで聞いた発見場所を探す。
その付近には発見した村人が、木の幹に目印となる印を刻んでいるはずだ。
目を凝らして探していると、ニナが何かを感じたらしい。
「あっちになにか居るなの」
「大きな気配がありますね」
フォウも同意した。こいつら魔力感知でもあるのだろうか。俺には何も見えないし、何も感じない。
しかし同時に木の幹の×印を見つける。
「よし気を付けて進もう」
ニナの言う方角へ進むとやがて、その巨体が見えてくる。
「居たぞオグルだ。間違いない。でかいな」
その巨体は三メートルほどもあった。武器こそ持ってはいなかったが、その拳で殴られようものなら俺は瞬殺される自信がある。
俺は二人に先を譲る。
敵を目の前にしたら、出しゃばらない事にしたのだ。
盗賊の村で懲りたからな。
「よし準備はいいか? 倒し方はお前らに任せる。俺は後方待機だ。いいな、無理はするなよ」
「はいなの」
「了解しました。行ってきます」
「よし。では、やっておしまい!」
二人は打ち合わせも何もせずに、オグルに向かって飛び出して行く。
と、思った瞬間にはオグルの両目に矢が刺さっていた。――いつの間にかフォウの手には弓矢があった。
同時に二本射出して一瞬のうちに両目を射抜いたらしい。神技とも言えるスキルだ。
その直後にニナの魔法が炸裂する。
「うーーやーー」
可愛らしくも気の抜けた掛け声とともに、その両手から一陣の鋭い風が放たれた。
両目を射抜かれて、グォォと動きの止まったオグルにニナの放った風魔法は、オグルの両足をふとももから切り裂き、切断してしまう。さらに追い打ちとフォウが空中に舞い、オグルに迫る。
いつ弓矢から剣に持ち替えたというのだろうか。手にした細身の剣は妖しい蒼と輝き、最初から持っていたと言わんばかりに、既に振りかぶっていた。
その剣筋は目にも止まらぬ速さでオグルの首元を過ぎ去り、一筋のラインを赤く色付ける。
時間差で首がずれ始めると、後は本体と別れを告げるのみだった。
フォウの一連の動作はゆっくりとした動きに見えてその実、何も見えなかった。
首が落ち両足をも失った巨体も、遅れて倒れた。
この間、わずか三秒。……いや、三秒もかかっていないかもしれない。
武器の持ち替えなども、まるで見えなかった。袖口ポケットなんだろうが、フォウはまだまだ武器を隠し持っていそうだ。
俺は身震いした。いくらなんでも規格外だ。
オグルのようなCランクの怪物なんて倒した事も立ち会った事も俺はない。ランクEの俺があるわけがないのだ。初めてのCランク魔物の討伐がこんなに簡単でいいのだろうか。
「いける……」
この先どんな魔物が相手でもいけると思ってしまった。この二人の姿を前にしたら誰もがそう思うだろう。
ニナとフォウは汗もかかず、何事もなかったかのように俺の元へと帰ってくる。
おっと、まだ仕事は終わっていない。俺は無残な死体と化したオグルに近寄り、ギルドカードの裏面を翳す。するとカードが発光して討伐記録が登録された事を示した。
この世界の生物は、生きている時と死んだ時ではオーラの種類が違う。
カードはそれを判別して、絶命した魔物の種類さえも識別し登録するのだ。
このオーラは死後一時間ほどで消えてしまうので、ずっと放置はしておけない。
ちなみにカードの表が個人用、裏がパーティー用となる。
俺が裏面で登録したので、ニナとフォウはこの作業をする必要はない。
ギルドも便利なカードを、上手く作ったものだ。
「お前たち、打ち合わせもなくあんな連携が出来るのか。すごいな本当に」
「えへへーなの」
「ありがとうございます」
その身は返り血も浴びていない。
ニナが俺の左腕にしがみ付いてきたので、右手でその頭をなでてやると、嬉しそうにしていた。
フォウにも同じ事をしてやろうかと見ると、わたくしニナよりお姉さんですからオーラを出していたので遠慮しておいた。
「食べる? たべるなの?」
食欲旺盛なニナは、オグルを食べないのかと言う。
「せっかくだがこいつは肉が固くて味も不味いんだよ。もし食ったとしたら、口の中で一日中嫌な臭いが取れなくなるらしいぞ」
食った事はないが、聞いた話を教えてやる。
ニナはまだ諦めきれないのか、オグルをじっと睨んでいた。こいつなら美味そうに食うかもしれない。
討伐した魔物は基本放置だ。いずれ他の魔物や動物たちが寄ってきて、食うなり突くなりしてそのうち消えてなくなる。
武器や防具に使える部位を持っている魔物は限られるのだ。
このオグルに使い道はない。
二人に帰るぞと促して、踵を返したところで固まった。
森の雰囲気が変わった。
風が変わった。
匂いが変わった。
そして……何者かがこちらを窺っている。
「アラン、ゴブリンの群れです」
「ぶりんぶりんなの」
ニナは踊っているが、俺たちは無数のゴブリンに囲まれていた。
オグルの血の匂いに惹かれて集まってきたのだろうか。全貌は分からないが、かなりの数のようだ。
「多いな。……やれるか?」
「問題ありません」
「なの!」
天使達のやる気に再度、森の空気が変わった。
広がる安心感。
払拭される恐怖。
敵から伝わる動揺。
そして……。
天使たちの殺戮劇が始まった。




