18・明日への道
温泉で溺れかけ、逆上せながらも服を温泉で洗濯してから、俺は小屋に戻ってすぐに横になった。
火照った身体が心地いい。
服はフォウの風魔法ですぐに乾いた。
ニナとフォウも俺の両隣に横になる。フォウにベッドでも出してもらえば良かったかとも思ったが、気怠さと眠気でそのままぐっすりと眠ってしまった。
◇ ◇ ◇
夢。……これは夢なのだろうか。
俺は異国の衣装を身にまとい、どこかの部屋で小さな一人用のテーブルを前に、椅子に座っている。
それを俺は俯瞰視点で眺めていた。
同じテーブルがいくつも整然と並び、同じような年頃の少年少女が何人も、同じように椅子に座りそして、まったく同じ黒い服を着ていた。
いや女性だけ上着は白くて、下は折り目のたくさん付いた紺のスカートだ。
俺は知り合いだと思われる男となにやら会話しているようだが、その内容は聞こえない。
皆ふつうに笑顔だ。驚いた事に俺も笑っていた。
俺もこんな風に笑えるのかと感心する程に、自然に笑っていた。
何かとても懐かしい気持ちになりながら、これも俺の日常だったのだと、心の中で納得していた。
◇ ◇ ◇
「うーーん」
目が覚めた俺は何か夢を見たような気がしていたが、それがどんな夢だったか覚えていなかった。
夢とは大抵覚えていないものだ。それなのに何かとても大事な事を忘れてしまったように思えて、少し不安になる。
「何だったんだ」
口に出しても何も思い浮かばなかった。忘れてしまった夢を気にしても仕方がない。
左腕を見れば、またしてもニナがしがみ付いていた。
完全に抱き枕と化した俺の左腕は、とても温かかった。
「アランおはようございます」
フォウは既に起きだしていて、なにやらテーブルに運んでいる。
どうやら先日のウルフの残りを丸焼きにした後、切り分けて皿によそったらしい。
「おはよう。昨日はフォウの温泉のおかげでよく眠れた」
「それは良かったです、アラン。ご要望とあればいつでもどうぞ」
「フォウに負担がなければ、毎日でもお願いしたいよ」
「はい。わたくしに何の負担もございませんよ。わたくしもニナも、魔力の回復は人間のそれとは比べものになりませんから」
天使なのに、その使うチカラは魔力とはこれいかに。天使なのに、魔のチカラって……。
なんかちょっと違うような気がする。
でもそうだった。ニナもフォウも人間ではない。天使がどういったものかもよく分からないが、それでも人間をはるかに超越した存在であるのは、一日一緒に過ごしただけでよく分かった。
「なぁフォウ、お前歳のわりにはやけに丁寧な言葉使いだが、実際のとこいったい何年生きているんだ?」
昨日の百年発言で天使の年齢はあってないようなものに思えていたが、あえて聞いてみた。
だがフォウの反応は――
「女性に年齢を聞くとは、アランも命知らずですね。内緒ですよ」
――俺はいつの間にか命を懸けていたようだ。……はい。もう聞きません。
ニナも起きだして皆で朝食をとった。ニナは何でもうまいうまいと言う。見ていて微笑ましい。
「そうだフォウ、魔族領に行くにしても足がない。馬車なんて手配する金もないんだ。歩いて行くとして、いったいどれくらいかかる?」
「アランは歩いて行くつもりだったのですか? それこそ何年かかるかわかりませんよ? 馬車くらいは用意した方がいいと思います。ですが、わたくしもお金は所持していませんので、どこかで稼ぐというのはどうでしょうか」
「かせぐーなの」
「そうだな。稼ぐとしても冒険者ギルドくらいしか思いつかないんだが、俺は……その、ランクが低くてな。ランクに見合った仕事もないんだよ。」
「ないのーなの」
「その仕事というのは討伐等でしょうか? だとしたら、わたくしとニナだけでも何とかなるのではないでしょうか」
「なるのーなの」
「それだ! それに俺も一緒に連れて行ってくれれば俺のランクもすぐに上がるんじゃないのか? おお。夢のDランクが見えてきたぞ! よし、さっそく俺の住んでいた町まで行ってギルドに登録しよう!」
「するなのー!」
所々でニナが言葉を挟むがそれは無視して、俺はこの二人の天使におんぶに抱っこで行くことに決めた。
確かにこの二人ならば、どんな討伐依頼でもこなしてしまいそうだ。それにギルドの登録は最初の魔力値測定でランクが決まる。俺なんかは底辺のFスタートだったが、天使ともなればCスタートも夢じゃない。そのパーティーとして俺も組み込んでもらうとすれば、俺のランクも依頼達成ごとにどんどん上がっていくに違いない。
俺の明日が見えた気がした。
明日への道だ。




