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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第2章 めぐりあい編~フォウ~
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17・ニナの小屋再び


 俺たちは盗賊の村からその日のうちに、ニナの小屋に帰ってきた。

 あの村の顛末は気になるが、あれ以上俺たちに出来る事は何もない。盗賊まがいの行為は止めるようにと、約束はさせてきた。


「おうちーただいまなの」

「ニナの住んでいる家は初めて来ました」

「とりあえず少し休ませてくれ。そうそう、魔族領ってのはどこら辺にあるんだ?」


 俺は魔族領が、この世界のどの位置にあるのかも知らなかった。


「ここからずっと北の大地ですよ」


 すると俺の居た町を通り過ぎる事になるな。いきなり居なくなった俺を、心配する者が居るはずもないのだが、一応教会へは顔を出しておくか。


 俺は床に散らばった藁をかき集めて、その上に横になると目を閉じた。

 本当にいろいろありすぎた。

 神様の話も荒唐無稽すぎて、俺の思考が追いつかない。


 初めて聞いた話ばかりだ。なんだよ、魔王って。勇者って。

 だいたい魔王が居たとして、どうやって俺のチカラを甦らせるのか、その方法さえ聞いていないぞ。

 肝心の魔王はすでに居ないらしいが、四天王の生き残りに会った所で同じ事だ。

 何をすればいいのか、何をしてもらえばいいのか、まったくわからない。

 聞かなかった俺も悪いが、説明不足の神様にも腹が立つ。ほんと使えねーなジジイ。


 だがいつも下を向いて歩いていた俺が、顔をあげて前向きに生きる事を決意させてくれた事は、感謝しておこう。


 ほとんど開き直りなのだが、ただ死んでしまいたいと思う心と、死んでもいいがそれまで生き抜こうと思う心には、雲泥の差がある。俺は生まれ変わったような気持ちで、明日を生きる事が出来る。


 そうだ。生きよう。生きてみよう。

 二人の天使頼りになってもいいじゃないか。どうせ俺には何もできない。

 これはひとつのチャンスだ。これを活かせなかったら、忌み子として蔑まれるだけの生活に逆戻りだ。

 そうなったらまた、死にたいと思う日々が待っているだけなのだ。


 横になって考えていた俺だが、ふと体がベト付いている事に思い至り、水浴びがしたくなった。履いていたズボンも心なしか臭うような気がする。


「フォウ、お前魔法で綺麗な水だせるか? 体を洗いたいんだが」

「はい。水も出せますが、そういう事でしたら化学魔法の応用で、温泉も出せますよアラン。どうしますか」

「おふろー! なのー!」


 なんですと? 温泉に入れるだって?

 風呂なんてここ何年も入った事などない。大抵は水浴びで済ませてしまうのだ。


「それは是非お願いしたいな。しかしどこに湯を出すんだ?」

「お外でおふろー! なのー!」

「そうですね、外で土魔法を使って少し掘りますか」


 この人、本当になんでもアリだ。


 フォウにかかったら、温泉作りもあっという間だった。

 適当な場所に土魔法とやらで三メートル四方程の穴を掘り、側面と底に石を敷き詰め(これも魔法)温泉をどばっと例の掌から放出して出来上がりだ。


「おおお。本当に風呂が出来てる」


 もくもくと湯気を立ち上らせた温泉が、目の前にあった。

 まわりには遮るものは何もなく、まるっきり外から丸見え状態だが、こんな場所に人が来る事もあるまい。

 さっそく浸からせてもらおう。その場で着ているものを脱ぎ捨て、温泉に飛び込んだ。


 俺の着ていた服は、冒険者が着るようなそれではない。ただの布の服だ。防具とか鎧とか防御魔法織り込みの服などは、値が張ってとてもじゃないが俺には手が出せない。


「あちー! けど気持ちいーなおい」


 俺が温泉に入ったら、あっという間に濁ってしまった。そんなに汚れていたのだろうか。

 それを見たフォウはお湯を入れ替えてくれた。便利だなあ……魔法。


「ニナも入るなのー」


 ニナもワンピースを脱ぎ捨て、全裸になって飛び込んできた。おいおい。女の子だろ一応。

 恥ずかしげもなく裸身を晒して、ニナは一緒に温泉に浸かりだした。


「それではわたくしも」


 なんとフォウまで服を脱ぎだした。ニナより年上に見えるが、それでもまだ十歳くらい。

 子供と言えば子供だが、恥ずかしいお年頃じゃないんだろうか。

 いや、盗賊の村では百年生きているかのような言動もあったが。


 まぁいいか。俺に少女趣味はない。子供の裸に興味はないのだ。

 とはいえ少女たちの裸に視線が行ってしまうのは何故なのだろう。男として反応する事もあるわけないのだが、つい目で追ってしまう。

 娘の発育を見守る、父親の心境のようなものなのだろうか。


 うむ。ふたりともぺったんこだ。


「きもちいーーねーなの!」


 ニナもフォウも温泉に肩まで浸かって、ほっこりしている。

 確かにこの気持ちよさは尋常じゃない。天国に居る気分とでも言えばいいだろうか。

 まさに天使はすぐそこに居るわけだが。


 化学魔法とやらで温泉成分を構成されたそれは、硫黄の匂いがきつかった。


「これは疲れが取れそうだな」


 いつしか眠くなってしまって、溺れかけた俺なのだった。



  


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