15・盗賊の村
街道からそれほど離れていない場所に、小さな村があった。本当に小さな村だ。
それでも、五十人ほどの男女が暮らしているらしい。
「あ、アランの旦那、こちらです」
先ほどの男がそこそこ大きな家に案内してくれる。誰の家かは分からないが、他の家屋よりも大きいというだけで、ただの平屋だ。
椅子もテーブルもない部屋に案内され、勝手に床に座っていると、ほどなくして昨日のあにきがやって来た。
腕を布でぐるぐる巻きにして首から吊っている。確か、かしらがこいつの事をルグルと言っていたか。
「か、かしらが死んだって聞いたんだが……」
「ああ、襲ってきたから殺した(フォウが)」
「信じられねぇ……あのかしらが……」
愕然と首を垂れるルグルは、信じられないという言葉を繰り返し呟いている。
「この村じゃ、かしら以上に強い男はいねえ。だから俺らじゃあんたに敵わねえって事だ。あんたは俺たちをどうするんだ? こんな所にまで来て、皆殺しにでもするってのかい?」
「そうだな。俺からしたらお前らを皆殺しにするのも簡単だが、一応お前らの身の上を聞いてやるから話せ」
村は見る限り普通の村だ。見かけた村人たちも、とても盗賊に属しているとも思えない。
「わ、わかった。聞いてくれ」
ルグルは観念したように、この村がどのようにして出来たのか語りだした。
「う……うぅぅひっく。うぅぅ」
俺はさめざめと泣いていた。だって、だって……ルグルの話があまりにも悲惨で救えない話だったのだから。
この村からさらに南へ行くと、デニールという町があるらしい。そこでは半年ほど前に突然、原因不明の流行病が発生して大混乱に陥ったそうだ。
人から人へ伝染るのか、動物が持ってきたウィルスなのか、はたまた何かの呪いなのか。何も分からず、突然体中から血が吹き出し、全身に激痛が走り、その後確実に死に至る。発症してから絶命するまでおよそ一日。
発症したと思ったら、たった二十四時間しか生きられないのだ。
しかもそれは死ぬまで激痛を伴っており、長い地獄の一日間を過ごす事となる。
人々は感染を恐れ、発症した者の家族もろとも、町から離れた森の奥へと隔離した。
隔離された者たちの中には発症しない者も居た。けれども町に帰る事は許されず、ここでひっそりと暮らしてゆかなければならなかったのだ。
死にゆく者たちばかりの村に、他所の町との交流など望めるわけもなく、すべて自給自足を余儀なくされている。そして、比較的若い連中たちが食うに困って、盗賊まがいの事を始めたというのだ。
「だけどもお前、殺しはダメだろうよ。しかもめちゃくちゃ盗賊が板についていたぞ」
「盗賊をしているのは十二人程だ。続けているうちに、それが本職のように思えてきちまったんだ……他の村の連中はその事を知らねえ。気づいているかも知れねえが見て見ぬ振りをしてると思う……そりゃそうだろう、俺たちが稼いだものでなんとか食ってるんだからな。それにかしらが居たからなんとかなってたが、死んじまったんならもう無理だ。俺らだけじゃそのうち返り討ちにあって終わりだ」
「そういう事なら今後いっさい、盗賊業はやめとけ」
そう諭したところでルグルたちにしても、食って行けなければ結局は死を待つだけになる。
「じゃあこの先どうすりゃいいんだ……誰も助けてなんてくれねえ……流行病ってわかった途端、逃げ出されて終わりだ。俺たちは捨てられたんだよ……もう帰る事も出来ねえ、ここで生きてくしかねぇんだ」
発症して死んでいく者たち。いつ発症するかと戦々恐々と怯えながら過ごす者たち。発症しなくとも、食べて行けなければいずれ同じ事。
だからと言って通りがかりの関係のないものが犠牲になっていいわけもない。
「殺しだけはもうするな。とりあえずニナ、ルグルの腕は治せるか?」
「はいなの」
ニナは簡単に承諾した。
ルグルの腕を両手で包み、なにやら淡い光が纏わりついたと思ったら――
「痛くねぇ! おおおお腕も曲がってねぇ! 治ってるぞ!」
――巻いた布を外してルグルが叫んでいた。
これは……回復速度が尋常じゃない。瞬時に治せる魔法だなんて、実際にその目で見なければ誰も信じないだろう。
「な、なぁあんた。そのチカラでこの村の発症したやつを治す事って出来ねぇか? 頼むよ、診るだけでも診てくれねぇか? 今ちょうど一人、発症しちまった子供がいて、おそらくあと半日ももたねえと思う」
俺はそれを受け入れた。――診るのはニナだけどな。




