13・静かな湖畔の
鳥たちのさえずりが聞こえる。どうやら無事に朝を迎えたようだ。
上半身を起こしたところで、左腕がやけに重かった。見れば細い両腕でしっかりと、ニナがしがみ付いていた。
俺の腕は抱き枕か。
フォウのベッドを見ると姿はない。
「おい、起きろ」
「うにゅにゅ」と目を擦りながら、なんとか起きようとしている。
「うーん」
まだ目が明かないらしい。
ふらふら揺れているニナをそのままベッドに残して外に出た。
「アラン、おはようございます」
「フォウ、早いな。それはなんだ」
フォウの足元にはウルフが二匹、横になっていた。
「朝早くに結界に引っかかったようです。魔力の少ない個体だったようで、結界に魔力を吸い取られて絶命しています」
「……そうか」
いろいろと聞きたい事もあるのだが、もう面倒くさい。こいつはそういうものだと、納得してしまおう。
「折角ですので、一匹は調理して朝食にいたしましょう」
「任せるよ」
朝食作りを丸投げしてテントに戻ると、ニナはまたベッドに横になって寝ていた。
こいつは……フォウを見てしまった後だと、同じ天使だとは到底思えない。
天使としての記憶を失っているようだが、……まぁ子供らしいと言えば、こんなものか。
可愛らしい寝顔は本当に天使のようだ。いや、天使なんだが……もう、めんどくさいな。
今後こいつの事は、『寝顔だけ天使』と呼ぶ事にしよう。
「おい、いいかげん起きろ。フォウが朝メシを用意してくれるぞ」
「にゅ。ごあん。たべるなの。すぅ」
「おい、寝るなこら。起きろっての」
肩を掴んで揺すっていたら、おもむろに俺の手を掴み、齧りやがった。
「いってぇ! 離せ! おいこらはーなーせー! 俺の手は食いもんじゃねぇ!」
「おいしくない……」
「たりめーだ! いいかげんにんしろ! 見ろほら、歯型が付いてる! いてーなーもー」
ニナをなんとか叩き起こして外に戻ると、そこには丸焼きとなったウルフが、どこから出したのか木のテーブルの上に鎮座していた。
「いてててて。ん? これが朝食かな?」
俺は齧られた手を抱えながら丸焼きを眺める。
「おまたせいたしました。どうぞお召し上がりください」
「めしあがるなのーーかぷ」
ニナは丸焼きを見て目を覚ましたようだ。そして、そのまま齧りついた。
「おはようニナ。火傷しないでくださいね」
「うま! うま! なの!」
こいつ、頭から丸齧りしてやがる。
まわりを見ても火を焚いた後もない事から、どうせ魔法でちゃちゃっとやったんだろうなぁと、俺は勝手に納得した。
ナイフを手に取り、頭から齧り付いてるニナをよけて、食えそうなもも肉を削って食べてみる。
……結構美味い。
味付けもなにもしてないはずなのに、その肉はジューシーで香ばしく、なかなか美味だ。
しかし、丸焼きとか。――フォウの料理のスキルが、どの程度のものか想像できてしまった。
「もう一匹はどうした?」
二匹分あったはずだ。
「はい。一応、保存しておきました」
どこへ? とは聞かなかった。どうせ袖口ポケットだろう。
俺はこの二日間でさんざん驚かされる事があったからもう、ちょっとやそっとでは驚いてやらない事にしたのだ。
しかしあのポケットに生ものを入れて、傷まないのだろうか。
まあ、いいか。
いちいち聞くのも面倒くさくなった。
カジカジ……と、静かな湖畔にニナの丸齧りする音だけが、響いていた。
食事も終えてテントを片づけ、俺たちは出発した。
俺は既に開き直っている。なにが起きても受け入れてやるつもりだ。
神様公認で天使も二人連れている。これを利用しない手はない。
ニナに関しては命を賭してでも救ってくれた礼はするつもりだ。あの夜の誓いは忘れはしない。
だが今の俺に出来る事なんてほとんど何もないのだ。いつか俺がチカラを手に入れるその時まで、ニナには借りにしておいてもらおう。
それまでに利子がすごい事になりそうな気もするが、なるようになるさ。
「なぁ、ニナとフォウは天使なんだろ? 背中に羽とか生えてないのか?」
天使と聞いて想像する姿は、羽をパタパタして宙に浮いているあれだ。
ならばこいつらにも、羽が生えているのだろうかと気になったのだ。
「羽ですか? ないですね、わたくしには」
「ニナもないなの。なにそれなの」
「じゃあ空飛べたりしないのか?」
「飛べません」
「飛べないの」
だそうだ。俺の天使のイメージが少し更新された。
天使の料理=まる焼き。天使の羽=無し。メモメモ。
とりとめのない会話をしながら進んでいると、見覚えのある木の幹が視界に入った。
そういえばここらは昨日、盗賊に襲われた場所だな。
木の幹の傷を見て、思い出した。そして――
――そいつらは現れた。




